« 『神々の土地 ロマノフたちの黄昏』 | Main | 『小説フランス革命』第2部(単行本7巻 ジロンド派の興亡) »

October 15, 2017

『小説フランス革命』第1部(単行本1~6巻)

French_rebolution_satoh_1_to_6

 『小説フランス革命』佐藤賢一、集英社を読んでいます。全12巻。6巻の「フイヤン派の野望」までが前半ということになっているので、小説とはいえ、あまりにも長いので忘れてしまうので、備忘録的に。

 この『小説フランス革命』の主人公はロベスピエール。世界で初めて王制をひっくり返して共和制を敷き、支持者である指物師の下宿をねぐらとし、最後は自らがギロチンに散った理想主義的な政治家。フランス革命の人類史的な偉大さも、その裏面にある人類史的な悲惨さも体現した人物で、ロベスピエールという存在がいたからこそ、いまだフランス革命は語り継がれ、研究されているんじゃないかと思います。

 研究書のたぐいを広く渉猟しているとはいえないので、間違っているかもしれないのですが、小説ならではの臨場感というのはやはりあります。例えば7巻『ジロンド派の興亡』。

 ロベスピエールがブルジョワ革命としてのフランス革命に疑問を抱くキッカケとなったといわれるのは、穀物価格の高騰によるエタンプ暴動と、暴動の首謀者たちの減刑を求めると同時に穀物価格の統制を訴えたドリヴィエ神父との邂逅です。そのいきさつは遅塚忠躬『ロベスピエールとドリヴィエ フランス革命の世界史的位置』でも描かれていますが、それが対外戦争に突き進む最中だったという緊迫感は感じられませんでした(ぼくの読み方が甘いのかもしれないし、オーストリアへの宣戦布告と同時期だったというの書く必要のないほどの常識だからかもしれませんが)。

 89年の革命後、1791年の立憲君主政の憲法が出来ることのフランスは、全てを仕切っていたミラボーが急死したことで政治的リーダーシップが失われ、立憲君主政の要であるルイ16世は国外逃亡を図って逮捕されるという混乱ぶりでした。

 しかも、政権を握っていたブルジョワ中心のジロンド派たちは、より右派であるフイヤン派が反戦を唱える中で、オーストリアなどとの対外戦争に突き進み、ルイ16世もできればフランスが負けることで諸外国の軍隊がパリに迫ったらマリー・アントワネットの兄弟であるオーストリア皇帝と和平交渉に乗り出し、一気に王制に戻そうという様々な思惑が入り乱れた混乱の最中でした。

 そして、なんとこの混乱の最中に、ブルジョワ革命を否定し、財産による投票権の差別廃止などを求めた蜂起をダントンが二度までも起こし、最終的に人民主権の共和制へと導くのですから、その展開のめまぐるしさったらありません。

 世界史的に、これだけ共同体の内外とも混乱した中で内政、外政とも戦争状態の中で改革が進められたのはフラン革命と第二次長州征伐時代の長州藩ぐらいなものではないでしょうか。

 ということで1~6巻まで前半から箇条書きで気になったところを。

[1 革命のライオン]

 全国三部会が招集されたのは、王家を巨悪に仕立て上げた貴族の運動でしたが、第三身分の平民は「我らには王さまがついているのだぞ」と貴族こそ悪とみなしていた、と(p.29)。

 その第三身分の指導者となったのが、自ら貴族の地位を捨てたミラボー(p.48)。

 1788年のフランスは夏の盛りにも雹が降るという典型的な冷害の年(p.55)。

 ロベスピエールは孤児。特待生となってルイ・ル・グラン学院を主席で卒業。地元に戻って弁護士となったが、第三身分代表議員に選出されたのは31歳の時(p.84)。

 ルイ15世は色好みで散財したが、寵姫も置かなかったルイ16世の代わりに散財したのが、マリー・アントワネット(p.91)。

 《ただの勉強家では駄目なのだ。頭で組み立てた理想などとは端から矛盾せざるを得ない、この生々しい現実世界の混沌に直面するや、とたん浮き足立つような輩では使えないのだ》というミラボーのつぶやきは今でも政治家に使えそう(p.186-)。

[2 バスティーユの陥落]

 前世紀に王家がヴェルサイユに移り住むと、貴族たちも大挙してパリを離れ、平民たちが残されたが、王国一の巨大都市になった(p.13)

 カミーユ・デムーランのパレ・ロワイヤルでの「武器を取れ」演説は、劇的な場面を創作した部分が大きいと思っていたんですが、やっぱり本当にあったんだな、と(p.50)。にしてもロベスピエールは親友だったダントン、デムーランも後に粛正してしまうんですよね…。

 ダントンの金回りがいいのは、奥さんが繁盛しているカフェ・ドゥ・レコールの娘さんだったから(p.86)。

 ミラボーはルイ16世のバスティーユ陥落の祝いの席に参加させ、貴族ではなく平民をとった形にさせたりします(p.174)。

[3 聖者の戦い]

 枢機卿だったタレイランは足なえだったが、完璧に近い美男子で、ルイ15世の寵姫とも関係したとか(p.8)。

 人権宣言が採択され、封建制の廃止が決められ、貴族が負け、平民が勝利したので第一身分(聖職者)議員として勝ち馬に乗った(p.13)。

 当時は貴族の所有地よりも、教会や修道院の荘園の方が遥かに広かったといいます。フランス革命の発端は王国財政の再建だったが、革命後には国有化した教会財産を担保に国債を発行するとともに、聖職者の地位を変更する聖職者基本法(Constitution civile du clerge 聖職者は他の官吏と同じ公務員にするという法律)が90年7月に成立。

 カトリックを国教とする法案は思想信条信仰の自由の観点からロベスピエールに否定される(p.107)。

 ジャコバン・クラブを閉め出されたラ・ファイエットはタレイランなどと1789年クラブを結成(p.190)。

[4 議会の迷走]

 7巻あたりではダントンもルイ16世からカネをもらっていたというような話しが出てくるんですが、この巻では、外交委員を務めるタレイランと、首相格のミラボーが、それぞれスペインとロシア、イギリスとプロイセンから賄賂をもらう場面があります。なんでも、ロシアはオスマントルコに攻め入りたかったけど、イギリスにバルト海に船を出されると困るから、そんな場合はフランス艦隊が演習でもしてくれると助かる、というような趣旨で(p.64)。

 ミラボーは王族の亡命を禁止する法案に反対する。王族にも人権はあり、亡命する権利があるためというのがその理由。この一件でジャコバン・クラブはミラボーから、ラ・ファイエットに乗り換えるのですが、当時、ジャコバン派を率いていたのは三頭派(バルナーヴやデュポール、ラメット兄弟などの右派)。しかし、ミラボーは三頭派の政治姿勢は軽く、本命はロベスピエールと見て、死の床に呼びます。

 そして同じピカルディ出身のカルヴァンがジュネーブでやったような専制政治を敷かないようにと忠告する場面は印象的(p.249)。

 「(自分に欲を持たないと)じきに独裁者になるぞ」
 「己が欲を持ち、持つことを自覚して恥じるからこそ、他人にも寛容になれるのだ」
 「人間は君が思うより、ずっと弱くて醜い生き物だからだよ」
 「あとは独りで歩いてゆけ」

 と会話を交わしたあと、ミラボーは何年かぶりに神に祈ることにした、というのは悪文の作者にしては、印象に残るところ(p.258)。

[5 王の逃亡]

 1789年10月5日に女性を中心としたパリの大群衆がルイ16世をヴェルサイユ宮殿からパリへ連行したヴェルサイユ行進以来、王族はティルリ庭園に住むのですが、サン・クルーへの夏の避暑も民衆から止められる始末。

 議会では、一定の所得がないと市民権がないというマルク銀貨法が可決され、それに対抗するため、ロベスピエールは議員の再選禁止を提案し、飲ませることに成功するなど、議会も混乱(p.53)。

 頼りにしていたミラボーの死もあって、ルイ16世は亡命を決意します。

 いよいよ脱出の段になって意外と思ったのがマリー・アントワネットの愛人とも言われたスウェーデン貴族のフェルゼン伯爵がまったく使えない男だったということ。地図は読めない、だんどりは超悪いで、失敗した原因の半分はフェルゼン(1/4はアントワネットのトロさ、1/4はブイエ将軍の胆力のなさ)。ついにはルイ16世からヒマを出される始末。

 フェルゼンのせいによる遅れでルイ16世たちはブイエ将軍と落ち合うこともできず、ヴァレンヌで拘束されることに。

 田舎では相変わらずの人気を持っていると再認識したものの、自分たちはどうなるのか、と思っていたら、なんと三頭派たちは「王家はフェルゼンに誘拐された」として逃亡事件を処理。早く混乱を鎮めたいブルジョワにとっては最善の策である立憲君主政憲法の早期成立を図ります。

 ロペスピエールが、議会の左右から支持を集め、演説の拍手をもらっている描写も印象的。中道のプルジョワはロペスピエールを両派を潰すための猟犬としてつかい、用が済んだら断頭台に送った、という図式がイメージできます。歴史を動かすのは中間派だな、と。

[6 フイヤン派の野望]

 国王の逃亡を〈誘拐〉と主張する三頭派らの議員は、ジャコバン・クラブでの議論を無用として離脱。ラ・ファイエットなどとフイヤン・クラブを設立。一気に主導権を握ります。

 この状況にダントンらは署名運動で対抗しようとするが、それに対してラ・ファイエットらが発砲。いわゆるシャン・ドゥ・マルスの虐殺事件が起こります。

 シャン・ドゥ・マルスの虐殺をやったフイヤン派が、なんで急に衰えて、ジャコバン派に取り残された急進派のロベスピエールが急に勢力を増すのか謎だったんですが、地方組織が虐殺に怒ってフイヤン派を見限ったという部分も多かったのかな、と。

 また、ヴェルサイユ行進も止められず、王の逃亡も防げなかったわりには、丸腰の民衆に発砲したラ・ファイエットの人望が地に落ちたという面もあったんでしょうが。

 この事件の当日、ロベスピエールの身を案じる指物師デュプレイがジャコバン・クラブからほど近い自宅にかくまい、以来、終の住み処となります。

 しかし、三頭派の主導権によって91年憲法は成立、議会は解散。ロベスピエールは二年半ぶりに故郷に帰り、そこでサン=ジュストと出会います。

 終生、浮いた話しのないロベスピエールですが、指物師デュプレイの娘エレオノールと、美男子サン=ジュストとの間にはわけありとなっていく、みたいな。

 なるほどな、と思ったのは1791年憲法当時の軍隊の将校は貴族が占めていて、この層がごっそり外国軍隊に寝返れば指揮系統がなくなり、烏合の衆になるということ。いっそのこと貧乏故に選挙権をももたない受動的市民に武装させた方が…とロベスピエールは考えたんだろうな、と。

 小説フランス革命ではラファイエットが散々な書かれようですが、アメリカ独立戦争でワシントンたちが勝てたのは、散兵戦術によって少ない兵力で相手を包囲殲滅できたから。ただし散兵戦術は兵士たちが逃げずに踏みとどまって戦うことが前提なわけで、独立とか革命で士気が高い部隊だから可能だった、みたいなことになっていくんでしょうか。

 故郷に帰ったロベスピエールが、エリート層はフイヤン派になびき、庶民は亡命貴族や外国嫌いで革命を守ろうとしているけど、バチカンに忠誠を誓う宣誓拒否僧を敬い続けるという、なんともいえない状況=現実に気付くという場面もあります。

 にしても、政治的な改革、革命みたいなのは内ゲバにならざるを得ないなぁと。憲法友の会からスタートして、ラファイエット、フイヤン派、ジロンド派とロベスピエールは次々と袂を分かち、最後はダントンと結託する、みたいな。まるで赤軍派と京浜安保共闘が一緒になった連合赤軍みたい。

 しかし、三頭派の頭目とみなされていたバルナーヴが政治の世界からアデューする場面で1部が終了。

|

« 『神々の土地 ロマノフたちの黄昏』 | Main | 『小説フランス革命』第2部(単行本7巻 ジロンド派の興亡) »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/65920501

Listed below are links to weblogs that reference 『小説フランス革命』第1部(単行本1~6巻):

« 『神々の土地 ロマノフたちの黄昏』 | Main | 『小説フランス革命』第2部(単行本7巻 ジロンド派の興亡) »