『神々の土地 ロマノフたちの黄昏』
現在、宝塚大劇場で公演中の『神々の土地 ロマノフたちの黄昏』はラスプーチン暗殺を巡るドラマです。
作家の上田久美子先生は宝塚歌劇団の座付作者で三本の指に入る存在。期待して見に行ったのですが、さすがの出来映えでした。
『神々の土地』は大劇場の後、東京宝塚劇場でも上演され、これから何回も見ることになるので、作品のことはさておき、背景となるラスプーチン暗殺のことを少し勉強し直しました。
考えてみれば《1917年の最初の二か月、ロシアはまだロマノフ王国であった。八か月後には、ボルシェビキが国家の枢機をになっていた。この年のはじめには、彼らは、ほとんどだれにも知られていなかった》のですから。
これはトロツキーの『ロシア革命史』序文の冒頭の言葉。
あまりにも急激な転換は、イギリスがロシアを戦線離脱させないようにラスプーチン暗殺を支援する動きをみせていたり、ドイツがレーニンを封印列車でロシアに送り込んだりするような動きにも触発されたのでしょうが、ラスプーチン暗殺の後、10週間しかロマノフ朝がもたなかったということを考えると、小さな猟奇的事件として片づけられないかな、とも思います。
ニコライとアレクサンドラの全治世をつうじて、卜者やヒステリー患者が宮廷出仕のために招かれたのですが(『ロシア革命史 I』p.91)、農奴を解放したアレクサンドル二世の治世においても魔女などを信じる「ライ病病みの宮廷奸党」(ibid. p.104)などは存在していて、それはロマノフ朝の特徴かもしれません。
また、解放者とも呼ばれたアレクサンドル二世はナロードニキの爆弾で暗殺されたことで、息子のアレクサンドル3世は祖父ニコライ1世のような専制政治を目指すなど反動が進みます。アレクサンドル3世も暗殺されそうになりますが、直前に発覚して逮捕されたメンバーにレーニンの兄ウリヤノフがいたことは有名。
にしても、ロマノフには暗殺事件がつきまとうんですよね…ニコライII世などは日本でも暗殺されそうになるんですから…(大津事件)。
ラスプーチン暗殺は、宮廷革命を目指すものだったんですが、暗殺のやり方、その後の権力掌握の段取りも含めて杜撰きわまりないもので、十月革命におけるトロツキーの水際だったやり方とは対照的で、ロマノフには、もはや才能が枯渇していたのかな、と感じます。
『神々の土地』は一時間半の中で、ラスプーチン暗殺と宮廷クーデターの失敗を見事に描いているんですが、ジプシーたちがボルシェビキというは斬新すぎる設定だし、それがレーニンのために!というのは寡聞にして存じませんでした。クロポトキンなどアナキストたちの群像を重ねすぎていたかな、みたいな。
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