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August 15, 2017

『オリンピアと嘆きの天使 ヒトラーと映画女優たち』

Olympia_nakagawa

『オリンピアと嘆きの天使 ヒトラーと映画女優たち』中川右介、毎日新聞出版

 宝塚歌劇団星組の次回大劇場作品はワイマール期からナチス政権初期あたりのを舞台にした『ベルリン、わが愛』となりましたが、個人的には理解の浅い当時の背景をよりよく理解するために、未読だった中川右介さんの著書を読んでみました。

 当時のドイツと世界を4人の女優の視点で切り取ってみる、という作品。4人の女優とはレニ・リーフェンシュタール、マルレーネ・ディートリッヒ、オードリー・ヘプバーン、原節子。

 レニはナチスのプロパガンダ資金に乗り『意思の勝利』『民族の祭典/美の祭典』という映画史上に残る傑作をつくりましたが、今や『信念の勝利』(Seig des Glaubens)もYouTubeで見られるようになったんですから、凄い時代です。

 ちなみに、レニは『信念の勝利』について、ニュース映画の寄せ集めであり、自分の映画ではない、としているそうです(p.189)。著者は、『意思の勝利』も誰が見てもナチスのプロパガンダだが、『民族の祭典/美の祭典』はスポーツの記録映画だと思い、ナチスの映画とは見えないという、より高度なゲッペルス的メディア戦略だ、としています。ゲッペルスは『戦艦ポチョムキン』を内容は別として絶賛していたそうで、やはり、そうした目は持っていたんでしょうね。

 レニ・リーフェンシュタールは本当に素晴らしいんですよね…。政治的に問題はあるけど『意思の勝利』の編集のリズムは凄い。そして様々なカメラの改良も行って撮った『オリンピア』の映像は今でもスポーツ動画のクラシック。彼女の編集能力の高さの背景は自伝や『オリンピアと嘆きの天使』で分かります。

 ちなみに『民族の祭典/美の祭典』のプレミアはイギリスでは拒否され、アメリカでも35人しか見に来なかったそうですが、ナチス支持者のヘンリー・フォードは見たそうです。

 マルレーネ・ディートリッヒは『嘆きの天使』で世界のアイコンになった女優ですが、ヒトラーに愛想を尽かして連合国側の象徴になるというレニとは正反対の生き方をします。

 オードリー・ヘプバーンはナチス崇拝者の父を持ち、戦禍のオランダで死にそうになるが、バレエを習い、やがて戦後民主主義のアイコンとなるという人生を歩みます(父とはひっそりと再会)。そして美人女優の代名詞である原節子にも日本の軍事政権とナチスの蜜月時代に、国策映画に出演した過去もあった、というのが『オリンピアと嘆きの天使』の大まかな構成。

 それにしても、ハイパーインフレと賠償で悩んでいたドイツにとって、ハリウッドへの輸出は外貨獲得の有力手段であり、敗戦国とはいえ自国が戦場になってなかったドイツでは才能が集まっていたので、ハリウッドとしても安価に才能を買える市場だった、という指摘にはハッとました。

 それにしても、オードリーが《英国のファシズム運動に参加し、ナチスシンパとしてヒトラーと面会も果たしていた》という両親を持っていたのは知りませんでした。彼女の意思のある向日性はその反動でしょうか?

 ナチスが政権を獲って、すぐに宣伝相ゲッペルスが映画関係者を呼びつけて方針を伝える場面が紹介されてます。星組公演『ベルリン、わが愛』でも出てきそう(p.182)。

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