『ハドソン川の奇跡』
土日に映画の日(毎月1日は1100円)というのは働く者にとってありがたい限りですが、それを活用させてもらい『ハドソン川の奇跡』を観てきました。
にしても、クリント・イーストウッドはいつから大傑作しか作らなくなっているんでしょうか。
まだご覧になってない方は、この機会にぜひ。大傑作です。
悪夢でうなされて目が覚めるいい歳の男は『父たちの星条旗』でも描かれていたし、エンディングでの現実への引き戻しは『アメリカン・スナイパー』を思い出させてくれました。緊張感あふれる印象的な夜の街中でのランも多くの作品で描かれていますが、そうしたイーストウッドのモチーフで手堅く描かれるのは表面上はタフである主人公の内面の弱さ。それをイーストウッドは真正面から見据えます。
では、イーストウッドの主人公たちは、そうした決して変えることのできない過去に溺れそうになるマインド・ワンダリング(mind wondering)からどうやって抜け出るのでしょうか。
それは自分がこれまでやってきた仕事の積み重ねしかないんでしょうね。
イーストウッドの主人公はいつも、過去にさいなまれます。しかし、過去は絶対に変えられないし、人は今を生きるしかない。
『ハートブレイク・リッジ』のトム・ハイウェイ軍曹は朝鮮戦争とベトナム戦争の苦い思い出をグレナダ侵攻で晴らすことができ、元嫁のアギー(マーシャ・メイソン!)がジョン・フォードの西部劇のように真っ白な服で出迎えてくれます。
しかし、『許されざる者』では親友を失い、『父親たちの星条旗』では司令官を失い、『アメリカン・スナイパー』では自身を失います。
今回の作品では
「この仕事を42年間やってきて、何百万人もの人を何百万万マイルも運んできたんだ」'I've been doing this for 42 years. I've delivered millions of people over millions of miles of the world over'
「ずっとパイロットとしてやってきたし、それが人生そのものだった」'I've been a Pilot, It's a whole of my life'
というセリフが何回も語られます。
しかし、そうしたキャリアが208秒の出来事で失われるかもしれないという危機が訪れます。そして、そうした理不尽なチャレンジをどう乗り切るのか、というのがテーマ。
小泉さんは「人生には上り坂、下り坂のほかに『まさか』がある」と語っていましたが、乗客全員を救った英雄的な行動が、保険会社などの思惑から疑問が呈せられ、それに立ち向かわなければならなくなります。
再び、このセリフが出来ます。
「40年間も空を飛んできたが、それが208秒の出来事で裁かれようとしている」'I've got 40 years in the air, but in the end I'm going to be judged on 208 seconds,'
家族も支えてくれますが、悪夢にうなされながらの尋問の日々を戦うのは彼と副操縦士、それに組合や会社や同僚。
しかし、ずっとひとつの仕事に打ち込んできた人間は、その積んできたキャリアによって理不尽な試練を乗り越えることができるわけです。
『ダークナイト』のハービー・デント役が印象的だった副操縦士のアーロン・エッカートがよかったかな。某カルト教団の元信者であった彼が、事故直後の取り調べでI never drunkというセリフを言うのはイーストウッドが狙ったのだろうか。
今回は、飛行機の大きさや事故に関わったすべての人々をリアルに再現することが必要だったということで、救助にあたった人々などを実際に映画へ出していますが、本当にリアルだな、と感じたのは、こうした救助隊の人たちが、それまで「最高のピッチャーはエカーズリーだ」「ユニフォームがいいだけだろ」みたいな会話をしていたのが断ち切られ、現場へ急行する場面のカッコ良さでした。
イーストウッドは絶対にファンタジーなど描かないし、透明感ある演出と音で実はもの凄い現実を描いていきます。
そして観客には、観たいものを、たとえそれが不十分でも見せます。
イーストウッドの飛行モノは『ファイヤーフォックス』から始まりますが、なんともお粗末な「特撮」だけど、北極海を超低空飛行で飛んだ場合にどんなことが起こるかを再現していました。『アメリカン・スナイパー』でも銃弾の軌跡を見せてくれます。
今回の作品でも、着水シーンなどはさらにリアルになったかもしれませんが、予算が許す限りで再現してくれています。
観客が観たいものを見せる。だから、物語は力強く進むし、後につまらない解釈など残さない。
イーストウッドの透明感はそうした種類のものなのかな、と改めて感じました。
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