『丸山眞男講義録2』#6
『丸山眞男講義録2』丸山眞男、東京大学出版会
[第4章 自由民権運動におけるナショナリズム]
幕末から明治維新にかけて、海外の脅威に対応して、海防論や尊皇攘夷が唱えられ、明治維新後も政権のヘゲモニーを巡って征韓論を軸に、対外進出から国権論、帝国主義へと進んでいきました。
その中で福沢諭吉による古典的なナショリズムも生まれましたが、日本のナショナリズムが、単なる国権論の中に埋没していったのは、カウンターパートであるべき自由民権運動が常に国権論と結びついていたからではないか、というのが4章。
そうなったのも19世紀のドイツやイタリアに似た環境から生まれた自由主義運動だったからであり、維新当初のナショリズムと何ら変わらず、そうしたものを継承していたからだ、というのが出だし。
2章でも言及されていましたが、ナポレオンによる征服を経験したドイツなど、歴史的諸条件を忘れて論じることはできない、という言葉を思い出します。
『丸山眞男話文集』では自由民権運動の活動家たちは集会の後、剣舞を舞った、と語っていました。
その活動家たちの主張は《もし国民が国内の政治的支配者に対して卑屈な奴隷的服従しか知らないならば、そうした奴隷的屈従は必ずや外国からの支配者に対しても向けられるであろう》というものでした。したがって、政治的自由を国民に与えよ、と。
[1 十年代民権論の三つの国際的背景]
この時代の民権論が念頭においていたのは1)朝鮮問題2)条約改正問題3)列強のアジア進出、という3つの国際的な要因でした。
当時は、英国人ハルトレーが阿片を密輸しようとして税関に発見されたが、英国領事はハルトレーの行為を違法としない判決を下すような時代でした。
また、レーニンが「帝国主義時代開幕の年」としたのも1876年で、アジアやアフリカでの植民地化の動きは明治20年後半から激化します。
[2 自由民権運動のナショナリズム:理論と実践]
イ)自由民権論と朝鮮問題
1885年に起こった自由民権運動家たちによる大阪事件は、朝鮮に政変を起こし、日本国内の改革に結びつけようという発想に基づくもので、これは外に紛争を起こして内を改革するという点で、征韓論の踏襲。
ロ)自由民権論と条約改正問題
国会を開いて国民の力で外人の邪説を破り、裁判征税の権を回復せよ、というのがその主張。
ハ)自由民権論の国際政治論
民権論者の多くは、国内の社会関係についてはどこまでも天賦人権論に依拠していたが、国際関係は赤裸々な実力闘争、弱肉強食の関係としてみていた。このため、おのずと国権論の内容も軍事的性格を帯びざるをえなくなり、それは特に自由党系に強く現れていた。
一方、改進党系はより経済的であり、内治改良と商権の海外発展を強く打ち出していた。
自由、改進両党とも富国強兵論だが、自由党はより強兵的ナショナリズムで、改進党系は富国的ナショナリズムだった。
また、自由党系の国際意識は、東洋豪傑的な国権拡張論と、ナイーブなインターナショナリズムという相反した内容を持ち、それを良くあらわしているのが中江兆民の『三酔人経綸問答』。
[3 民権論のナショナリズムにおけるイデオロギー的混乱]
一般的に改進党系のナショナリズムの方が、不徹底ではあるがより一貫していて動揺が少ない。自由党的ナショナリズムは一極から他極に急転する。
これは、両者の社会的基盤による。
改進党は都市ブルジョワや知識階級、殖産興業の担い手、交詢社(福澤諭吉が提唱して結成された日本最初の実業家社交クラブ)のナショナル・リベラリズム→犬養の国民党。
自由党は地主、小市民、貧農、失業士族など。また、自由党系ナショナリズムには他国のナショナリズムへの尊重の契機を欠いており、それが帝国主義への転化の素地となった。
イ)民権的ナショナリズムと前近代的国粋主義との混合
自由党壮士と玄洋社的浪人は宮崎滔天のようにほとんど見分けがつかない。
ロ)郷土主義とナショナリズムの混合
本来、国民的統一と独立の経済的条件を政治権力によって造り出していかなければならなかったが、征韓論当時の反政府運動に旧藩的対立感情が作用し、連携が拒まれたように、自由民権運動の国民的な組織化を妨げたのも、郷党的虚栄だった。
こうしてナショナリズム的動向は帝国主義・国粋主義へ、デモクラシー的動向はインターナショナリズムの方向へと分岐していく。
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