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September 30, 2016

『丸山眞男講義録2』#1

Maruyama_maso_kpogiroku2

『丸山眞男講義録2』丸山眞男、東京大学出版会

 あと、1冊で終わってしまうので、少し丁寧に。

 『丸山眞男講義録1』と『丸山眞男講義録2』はセットのような構成となっており、主著『日本政治思想史研究』と重なります。

 『日本政治思想史研究』の章立ては

第一章 近世儒教の発展における徂徠学の特質並びにその国学との関連
第二章 近世日本政治思想における「自然」と「作為」
第三章 国民主義の「前期的」形成

 サマリーすると、徳川時代の儒教はいったん朱子学を受容した後、「道」の目的を「治国平天下」という政治的な側面に限定することで朱子学を解体した国学がヘゲモニーを握ります。その中心となった徂徠は朱子学を批判し、自然と人間を分離、社会規範を聖人の作為の産物としますが、それによって社会変革の可能性を示しました。それは明治維新で証明されたとになるが、自然的秩序思想は個人より自然的な国家を優先する考えとして残ることにもつながります。集団が国民となるためには国民意識が必要だが、明治維新は武士と庶民の上層部に担われ、大部分の庶民は傍観したため、政治の集権化が強調された、という感じでしょうか。

 『丸山眞男講義録2』の章立ては

序説 国民(ネーション)および国民主義(ナショナリズム)についての若干の予備的考察
第1章 前期的国民主義の諸形態
第2章 近代国民主義の古典的形成
第3章 征韓論(と征台論)
第4章 自由民権論におけるナショナリズム
附論 その後の歴史的概観

 となっています。

 『講義録2』は『日本政治思想史研究』に征韓論(と征台論)、自由民権論におけるナショナリズムを加えて、徳川時代だけでなく、明治期も含めて日本のナショナリズムを総合的に俯瞰する内容となっています。

 つまり、『日本政治思想史研究』の1~2章が『講義録1』、3章に加筆したものが『講義録2』という感じでしょうか。

 『日本政治思想史研究』は戦前に書かれた3本の論文が元になっていますが、『講義録2』の解題で講義におけるラインホルト・ニーバーの影響が強調されるのは、戦前の問題意識に新しく加わったからかな、と。

 丸山眞男は1965年の講義を北畠親房の『神皇正統記』にEternal Now Theologyを見る、というようなことを語っています(講義録5)。神学には現在、あまり興味はないのですが、この時期には、大塚史学につながる方にも、なぜかEternal Nowという言葉が、そのカッコ良さのためか、誤解気味に影響を与えていたんじゃないかと思っていたんですが、なんとこの講義録2ではラインホルト・ニーバーが大きな影響を与えています。

 ニーバーについては『丸山眞男集4』でインタビューと書評が載せられていまして、丸山眞男や大塚久雄などが敗戦直後に、なぜアメリカやドイツの神学者に対する興味を示し、そしてアッサリと忘れ去ったのか、という問題は充分、研究テーマになるというか雑誌論文ぐらいになるかな、なんて思いました(少なくとも取り合わせの妙があるな、と)。

 『丸山眞男集4』でも、ヨーロッパ精神的の中核としてカトリシズム復興を唱え、『ヨーロッパの形成』でヨーロッパはグレコローマンの文化、キリスト教、ゲルマン民族という三つの要素が融合してできたものというクリストファー・ドウソン(Christopher Henry Dawson)も言及されていて、驚いたのですが、敗戦直後の援助物資などによる一時的なキリスト教ブームも影響していたんでしょうかね。

 個人的にニーバーを最初に知ったのはカート・ヴォネガット『スローターハウス5』に引用されていた「祈り」です(伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫、p.76)。

神よ願わくばわたしに
変えることののできない物事を
受けいれる落ち着きと
変えることのできる物事を
変える勇気と
その違いを常に見分ける知恵を
さずけたまえ

 こうした文章には《ユートピア主義とシニシズムという左右の断崖にはさまれた峰を歩みつづける彼の強靱な思惟方法》(『丸山眞男集4』p.258)があらわれていると思いますし、《普通は理性は衝動を統制するものと考えるけれども、実は理性は衝動をリファイン(洗練)するにすぎない》など《平坦な合理主義やアイディアリズムをつきぬけていくパラドキシカル(逆説的)な思索の方法》(ibid, p.151)が感じられます。

 講義録2はナショナリズムを中心としています。

 解題によると「国家の偽善」などの強調は《最も理想的な企図、最も普遍的な目的、そのような最高の理性的態度をもって目されたもののなかにさえ、自己の利害が潜入するということは、偽善なるものが、あらゆる善なる努力の副産物として出てくることを不可避ならしめる》(『道徳的人間と非道徳的社会』、p.63)などニーバー著作によって影響を受けている、としており、その存在は《「参考文献」の域を超えて、ウェーバー、マイネッケらとともに、その政治的思索の中核そのものにかかわる重さをもっていた》(解題、p.218)としています。

 ということで次は「まえがき」は省略して「序説」から。

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