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August 06, 2016

『丸山眞男講義録4』#1

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『丸山眞男講義録4』丸山眞男、東京大学出版会

 後期丸山眞男の「日本の古層論」として知られる問題意識の源流となる「日本の原型論」が語られるのが『丸山眞男講義録4』です。7巻から逆に読んできたんですが、「まえがき」などを外して整理すると、4巻から7巻までは、以下のような流れになります。

4巻
第1章 思考様式の原型(プロトタイプ)
第2章 古代王制のイデオロギー的形成
第3章 統治の倫理
第4章 王法と仏法
第5章 鎌倉仏教における宗教行動の変革

5巻
第2章 武士のエートスとその展開
第3章 神道のイデオロギー化

6巻
第3章 幕藩体制の精神構造
第4章 近世儒教の歴史的意義

7巻
第2章 近世儒教の政治思想
第3章 思想運動としての国学

 このように古代王制から徳川幕藩体制までを貫く、日本の政治思想史が俯瞰できような構成になっています。

 巻末の「解題」によると、「原型」という言葉を用いて講義の構成を改めたのは1963年で、そのモチベーションとなったのが、マルクス主義と天皇制の風化だといいます(p.322)。

 丸山眞男の精神史は《方法的にはマルクス主義との格闘の歴史だし、対象的には天皇制の精神構造との格闘の歴史だったわけで、それが学問をやって行く内面的なエネルギーになっていたように思うんです。ところが現在実感としてこの二つが風化しちゃって》《ガッカリして気が抜けちゃった》というスランプを経験し、そこから改めて古代・中世にさかのぼることで、従来の封建→近代という軸に代えて、文化接触→開国という問題視角が投入され、古代から貫く構造的特質を抽出しようという試みが始まった、というわけです(p.322-)。

 そして《「精神構造としての天皇制」を古代以来(間歇的ながら)執拗に底辺で持続しているものと丸山は見て、そのトータルな変革のためのトータルな認識を獲得すべく構築された仮説が、「古層」論》である、と(p.330-)。

 また、近代化も封建→資本主義近代という一回性でとらえるのではなく、永久革命的なものとしてとらえ返されます。

 『丸山眞男集第4巻』「自己内対話」から引用すると、それは《永久革命はただ民主主義についてのみ語りうる。なぜなら民主主義とは人民の支配―多数者の支配という永遠の逆説を内に含んだ概念だからだ。多数が支配し少数が支配されるのは不自然である(ルソー)からこそ、まさに民主主義は制度としてでなく、プロセスとして永遠の運動としてのみ現実的なのである》ということなんでしょう。

 丸山眞男の「社会契約観」はルソーやロックの古典的な考えを踏襲しているわけですが、だからといって、その問題意識はいまでも深く突き刺さっていると思います。

[まえがき]

 いつものように講義に入る前のオリエンテーションとして、東洋とは何か、思想とは何かを語りますが、1964年度のこの講義録には、63年度講義の「伝統」の多様性と政治思想とは何かも付け加えられています。いつものように箇条書きで。

 「東洋」の語は、最も古くは宋書に散見される。明代には『東西洋考』という書物が刊行されているが、ルソン島~モルッカ諸島、ボルネオに至るコースを東洋針路、南スマトラ、ジャヴァから小スンダ列島に至る航路を西洋針路と呼んおり、南海方面の知識を拡大したことに伴う名称。その後、さらに西方の知識の拡大にともない、ヨーロッパについては「大西洋」という名称が与えられた。

 「東洋」をもってオリエントの訳語とするのは混乱を招く。アジアはフェニキア人が東の方をacu(日の出る国)と呼んだことに起源を有する。ちなみに西方はereb(日の没する国)と呼び、これがヨーロッパの語源といわれる。

 《ヨーロッパほど、多元的に異質的な分化の接触を大規模に経験した地域は他にはない。そこにこそ今日のヨーロッパ文化(思想)の豊穣さの秘密がある》(p.10)。

 近代ヨーロッパはnation stateで成り立っているが、それはキリスト教がギリシャ正教、カトリック、プロテスタントと分裂したように、神聖ローマ帝国の分裂の結果として国家が出現した。

 ハンニバルがアルプス越えに要した時間とナポレオン遠征軍のそれはほとんど同じだったが、機械的生産と交通が進展のテンポは急速で、ドイツと日本がイギリスとフランスに工業化で追いつけたのは、このため。

 「愛国」はpatriotismの訳語だが、patrieはフランス革命、人民主権的ナショナリズムと親近性がある。土佐を中心とした自由民権運動の最初の政党は「愛国公党」と明治七年に名乗った。報国も愛国と同義に用いられた。日本における基本的人権の思想、共和主義などを史実から探しても認識命題としてはおかしい。

 古代社会の思想に階級的制約や階級的偏見を語ることは危険。マルクスがこうした命題を掲げて登場したことは、それまで社会にそうした考え方が登場する地盤が成熟していなかったことを示す。

 《テクノロジーの発展と政治的共同体の範囲の拡大→民衆が政治体系に取り込まれていく過程、同時にその中で反逆する過程》(p.38)

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