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July 20, 2016

『サッカーと愛国』

Soccer_aikoku

『サッカーと愛国』清義明、イースト・プレス

 代表にもあまり人気がなかった頃からサッカーを見て、日本代表を応援してきたわけですが、著者と同じように香山リカさんの『ぷちナショナリズム症候群―若者たちのニッポン主義』には、その素晴らしいネーミングセンスも含めて「ちゃんと世の中を見ている人というのはいるんだ」と思いました。

 渋谷のスクランブル交差点ではしゃぐにわか日本代表サポーターは、「にわかが一番カネ離れがいい」というマーケティングの法則に基づいて、サッカー関連グッズの購買層として大切にされ、サッカー業界からは好意的な扱いを受けましたが、違和感がぬぐえませんでした。

 個人的には、日韓ワールドカップの前後から、エディプス期がないような、抑圧と対峙せずに目の前の現実への批判意識に乏しい人間が増えてきたように感じていて、その無自覚で無邪気なナルシス的人間類型の分析が痛快でした。

 しかし、分類が痛快で笑えると思っていたら、こうしたぷちナショ層がネットを中心に増えていき、ついには在特会のようなモンスターまで生むようになり、笑い事ではすまなくなりました。

 「健全なナショナリズム」はちょっとした弾みで「排他的ナショナリズム」に衣替えしてしまうことは、『サッカーと愛国』でも、無邪気な側面もあったぷちナショナリズムがグレムリンのようなレイシストを生む過程としてリアルに描かれています。

 DJポリスとして人気となった警官が、翌週には在特会のデモに抗議する人々に対して「警告する」「検挙する」と装甲車の上から威圧していたというのは、この本によって知りました。ヘイトスピーチ法ができる前は、こうした在特会などに対する抗議自体が警察から威圧されていたというのは、薄ら寒さを覚えました。

 韓国ホームの日韓戦で旭日旗をヤンキーノリで振った事件の顛末も、知っていた部分もあったけれど、その人物のお坊ちゃまであり「腕っぷしは弱いくせに、トラブルを起こすことが多い。極めつきの変わり者」という描写にはうなりました。じっさい、そうした困ったちゃんはどうしてもいますもんね。

 また、スタジアムで激昂して問題を起こし、出入禁止となったサポーターたちは半年とか1年ぐらい試合後のスタジアムや道すがらのゴミ拾いなどのボランティアなどに精を出して、事件が忘れられた頃、解除されるという過程も初めて知りました。

 著者は韓国や中国のサポーターに「旭日旗は自衛隊も使っている普通の旗だ」と説明しますが、話しはかみ合わず、最終的にはサッカースタジアムにおけるこうした煽り行為は、これまでも世界では実際に発生した「戦争に発展しかねない危険な行為」だとして、やめるべきだとしています。

 帯びには「スタジアムには日本人が知らない世界基準がある」として欧州、アジアのサポーターに具体的事件に対して意見を聞いてて、流儀の背景には国民国家や欧州ではそれ以前の都市国家間の流儀があるのかな、と。そこがNational Passtimeとして野球との違いかなとか考えました。

 皆さん書いてるけど李忠成の父親のインタビューが秀逸。忠成の祖父は特攻隊の生き残りだったとは…。中央大学法学部で弁護士になりたかったけど、親類が帰国運動で北朝鮮に渡っているので日本国籍にすると弾圧されるおそれがあったから日本国籍をとって法曹の道を進むことを断念したとか。父親は各種学校扱いでも入学できた東海大でサッカーをやっていたというリアルは凄かった。

 また、北朝鮮代表として南アのワールドカップにも出場したチョン・テセが韓国籍というのもこの本によって教えられました。父が韓国籍、母が朝鮮総連の活動家で、父が本人と母に無断で韓国籍に。北朝鮮代表なのはパスポートを持っているから。FIFAは世界中でばらばらな国籍概念を考慮して、所属はパスポートを優先、と(p.168)。

 イングランドの黒人選手の扱いについて、86年W杯綬決勝で黒人のスタメンはひとりもいない、というのは正しいけど、スーパーサブのバーンズが後半から出て、リネカーにアシストしているんですよね(バーンズはイングランド代表でぼくが初めてみた黒人選手でした。いい選手だった)。

第1章 モンスター化した「ぷちナショナリズム」
第2章 ソウルに翻る旭日旗
第3章 「JAPANESE ONLY」の暗闇
[インタビュー] 李鉄泰【イ・チョルテ】(李忠成の父)
[インタビュー] 姜成明【カン・ソンミョン】(映画『TESE』監督)
第4章 バナナを食べるサッカー選手たち
第5章 サポーターは世界で闘う

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