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July 21, 2016

『サッカーと愛国』発売記念イベントin 渋谷LOFT

Soccer_aikoku_talk

 清義明『サッカーと愛国』発売記念イベントに参加しました。二部は時間も遅くなってしまったので、途中で帰らせてもらいましたが、第1部のトークは非常に印象的でしたので、振り返りたいと思います。

 第1部はMCタツさんを司会に清義明×木村元彦さんで始まり、途中から李忠成選手の父親で本の中で印象的なインタビューを残している李鉄泰さんが加わりました。

 冒頭、木村さんからだった。「サッカー界には『日本代表が弱くてはこの業界が持たないし、メディアも潰れる。だから応援しろ』というロジックが広がっていて、ジャーナリズムの世界も基本である批判することではなく応援するのが当たり前になってきた。そこから(レイシズムなどの)大きな問題出てきたんじゃないか。そうしたことが、信じられないことにレイシストが大手を振って選挙に立候補するという事態にまで至っている」という日本代表にひそむ"愛国者ビジネス"の構図が問題提起されました。2002年の日韓ワールドカップは共催国として盛り上げなければならず、批判することは「ガンバレ日本に水を差すことになりかねないということになった。しかし、70~80年代からの書き手は、当時のサポーターがいくら渋谷の交差点でハイタッチしたいだけとは分かっていても『日の丸を振ることが愛国心というのは勘違いだ』と感じていたはずで、それを誰かが書かなければならなかった」。

 これを受けて清さんは「職業的サッカーライターとしては書きづらい問題だとは思ったけど、基本は書きたいことを書いた。正直、使命感もあったがさまざまな出来事に興味というか、もうちょっと踏み込みたいという気持ちが強かった。そして、浦和レッズの無観客試合で感傷的で無内容なことばかり書いている記事に呆れたということもあった。仮にもジャーナリストなら、もっと問題を掘り下げていくべきで、感動的で綺麗な話しとして『不幸なあれはなかったことにしよう』という記事にはならないだろうと思った。しかも、浦和レッズのサポーターグループにああいう傾向(嫌韓)があるのは誰でも知っていたこと、それを知らないと語るライターまでいるのは信じられなかった」と執筆のモチベーションを語り、木村さんは「差別のグロテスクさにくらべれば、無観客試合でのボールの音なんかどうでもいい。きっちり向き合わないかぎり、また同じような問題が起きる」と補足。以下、このような感じで進行しました。

清「トルコでクーデター未遂事件があったが、フットボール映画祭で上演させてもらった『イスタンブール・ユナイテッド』を見てもらったら、トルコのクーデターは見え方違ったと思う。一見すると、民衆が出て軍隊に抗議したという構図は違う。エルドアンの反対派はリベラルであり、不当に排除しようとした公園を、抗議のために占拠したのがあの映画。サッカーのサポーターは政治的にも大きな役割を担っている」

木村「(エジプトでも)ムバラク退陣を求めた時、機動隊との対峙のスキルはサッカーのサポーターが最も優れていた。きっかけさえあれば、大きな力となる。天安門事件は、(社会主義の開放路線の象徴となっていた)ゴルバチョフが中国に来るので、空港で出迎えようということでスタートしたが、あまりにも人数が多くなって、当局が天安門に引っ張っていったら、最後は戦車まで出さざるをえなくなってしまった。最初はワンイシューでも大きくなることはこれからも考えられる」

タツ「バナナを食べるサッカー選手たちの章で印象的だったのは、差別を理解していないようなグループが悪ふざけでやったら、でかいことになったこと」

清「サッカー界は、こうした問題では日本でも先端的を行っている。自分たちビジネスのテリトリー内でこれをやったらダメで、しかも処罰するということを明確に打ち出している。ついこの間まで、市役所でレイシストが集会をやっても大丈夫な社会だったことを思えば進んでいた。それは、差別行為にはゼロトレランス(無慈悲)でのぞむという姿勢をFIFA、UEFAが打ち上げてからでもある。ブラッターは金権問題で批判されたけれど、アウトサイダーの国にも目を向けていたという一面もある」

木村「その点、野球は酷い。相手ベンチからも酷い言葉が投げかけられる。クロマティなどは、広島との試合で、呉に上陸した米軍のネイビーから『ニガー』と言われたと書いている。また、1975年に、それまで日本人純血主義だった巨人がデーブ・ジョンソンを獲ったのも『白人だからOK』みたいなことが新聞にも堂々と書かれていた。サッカーは、サッカー村全体がそうした問題には厳しいから、そんなことさすがに起こらない」

清「サッカー協会は日本のロールモデルになってもいいなと思う。差別は悪いことで、やったら処罰されることなんだと確かに伝わっている」

木村「村井チェアマンはマトモで、いい仕事をしている」

 ここで、李忠成選手の父親である李鉄泰さんが参加、4人のトークに。

木村「日本のサッカー史で触れられていないのが、朝鮮高校サッカー部の歴史。朝高は信じられないぐらいモダンなサッカーやっていた。キムミョンシク(金明植)などが在日蹴球界を引っ張り、練習試合では習志野、帝京なども歯がたたなかった」

李「40年前に、いまのJリーグでやっていたようなサッカーをやっていた。当時の朝高と今のJのサッカーは非常に似ているというのが実感です」

木村「オフトなどによってシステマチックなサッカーが広まってアイコンタクトなども一般的になったが、サッカーは将棋やチェスのようなスポーツであり、相手が動いたら、守備は2人でこう動く、というセオリーがその前から朝高にはあった」

李「高校3年の時、読売クラブの二軍と練習試合をやりました。勝負なので負けましたが、内容からすれば圧勝していたと感じていました」

木村「高校サッカーには『朝高詣で』という言葉もあったぐらいで、強豪が朝高の胸を借りにきていた」

李「帝京ともずっと練習試合をやっていたんですが、日本一になってからは、なぜかやらなくなりました」(会場爆笑=だから弱くなった、みたいな)

木村「昔、FIFAは旧社会主義国との親和性が高く、平壌でサッカースクールをやった時に来ていたのは、後にロサンゼルスオリンピックで(三位になった)ユーゴ代表のスタッフをつとめていた人物だとオシムさんから聞いている。なんと朝高は多色のビブスをつかったオシム流というか、ユーゴ流の練習を70年代からやっていた。高校サッカーの強豪が朝高とやって8-0で負けたという歴史も日本サッカーにはあるんだということをぜひ残したい」

清「李さんは、東海大学でサッカーをやった後、フリューゲルスの前身であるロッキード・トライスターに参加しています」

李「後に町田ゼルビアを立ち上げたりするような人物も出るような、一匹狼的な選手が多かった。カルバリオなんかもいた」

清「フリューゲルスはユース大切にしていた」

木村「名古屋グランパスで、大学の無名選手を追いかけて入団させて、ピクシーの時の優勝につなげたような名スカウトも朝高からは出ている」

 ここまでトークが進んだあと行われた会場からの質問は、ほとんど李さんに集中した。

李「ぼくらは日本で生まれて故郷が日本だと思っている。韓国は先祖の国。韓国に旅行はするけど、日本に帰ることができる、と感じる。日系アメリカ人みたいな感じ。ナショナリズムの問題でいろいろあったが、わたしは日本を日本人より愛している。忠成がサザンプトンに行った時も、持っていったウォシュレットをチームメイトに使わせたら『こんな凄いのを日本はつくっているのか』と感動していて誇らしかった。ただ国籍は違う」

木村「シラクとミッテランが大統領選挙を争った時、フランス人の定義が議論になった。シラクは何代前からフランスに住み…と細かなことを言っていたが、ミッテランは『フランス語が話せてフランスに税金払っていればフランス人だ』と明快な答えだった」

李「私も外国人に国籍について聞かれたら『Almost Japanese』と答えている。『Japanese Only』の事件は忠成が移籍して起こったと言われて辛かったが、今ではやっとチャントもできている。電車に乗っていて忠成の名前が出てビックリしたのは、オリンピックの時と、『Japanese Only』の時の東スポに出た見だし」

李「レッズに移籍するときは『大変だよ』と周りからも言われていた。忠成にも『普通の日本選手の2倍、3倍やらないと認められないぞ』と伝えている。いったん地獄に落とされたが、そこから這い上がり、いつかタイトル取ってほしい。あの時は、周りからは『出た方がいい。他のチームでも受け入れる準備はあるんじゃないのか』という話しもあったみたいだが、私は『乗りかけた船から降りるのはどうなのか。他に行っても同じような問題が起こるぞ。逆境を乗り越えないとどこに行っても同じだ』と伝えた。イギリスでは怪我して結果がでなかったが、腐っても我慢してやるしかない。また、事件の後は、すぐに警察が来て、家の警備を強化してくれた(のは嬉しかった)」

李「(様々な差別をどう乗り越えてきたのか、という質問に)もう免疫ができてしまって、悲しいかな無感情になっているのかもしれない。日光東照宮の『見ざる言わざる聞かざる』方式でやり過ごすしかない」

木村「差別は日本人の問題。こういう思いをさせてはいけない」

李「人間は自分、家族、郷里、ナショナリティが大事。国と国との戦いになると感情が抑えられない。気持ちが燃えるから、そこから差別も出てくるのかもしれない。日本代表で盛り上がる渋谷のスクランブル交差点は『たったひとつのアースに、みんな人間として立って、喜び合っている。そこには国籍などないかもしれない』と思ったこともあった。しかし、もし他の星と戦うようになったら『火星に空気はあるのか?鳥は飛んでいるのか?』などと言い出すかもしれない。差別をなくすために努力するのは本当に大切。今日は少しでもそうしたアクが抜ければと思ってやってきた」

 以上です。

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