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March 20, 2016

『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白』

『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白』

 WOWOWで撮れていた『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白』を見ました。

 ぼくがマクナマラの名前を聞いたのは子どもの頃に戦われていたベトナム戦争のニュースでした。ウェストモーランド将軍とマクナマラ国防長官の名前はニュースコープの古谷綱正さんのイントネーションごと覚えているほどでしたが、どういう人物だったのかを詳しく知ったのは、やはりハルバースタムの『ベスト・アンド・ブライテスト』を読んでからです。

 ハルバースタムはマクナマラをダース・ベイダーのようなモンスターとして描いていて、フォードの社長時代などを描いている『覇者の奢り』も含めて彼のマクナマラ観にしばらく支配されていました。それが変わり始めたのは1997年6月20日にベトナムを訪問して、ボー・グエン・ザップ将軍やグエン・コ・タク外相と会談をしたことです。マクナマラは95年に回顧録(In Retrospect: The Tragedy and Lessons of Vietnam)を発表し、ベトナム戦争は間違いだったとして、ベトナムとの対話を希望したんです。

 良くも悪くも、なんというアメリカンな態度だと思いました。ベトナム側も提案を受け入れ、NHKも独自にスペシャル番組をつくったと思います。そこで印象的だったのは、戦争初期、米国側の調査団が入ったとたんにベトコンが猛攻撃を行ったおかげで米国世論が硬化したのだが、なんであのタイミングで攻撃したのか?という質問でした。ベトナム側の答えは「米国が調査団を送ったということは知らない。攻撃命令はずっと前に出されて、仮に中止したくても作戦終了まで連絡手段はなかった」というものだったように思います。

 ベトナム戦争の模様は毎日、日本でもテレビで放送されていたんですが、戦っていた北ベトナムやベトコンたちはほとんど見るすべもなかったんだな、というとてつもない非対称性に気づかされたんですね。ソ連などと違って、相手の考えていることがまるっきり分からない状態で、タイトルになもっている『フォッグ・オブ・ウォー』の度合いもより濃かった、と。

 この『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白』ではグエン・コ・タク外相との対話が語られています。

 マクナマラは双方があれほど血を流さずとも目的を達することが出来たのではないか、とグエン・コ・タク外相に問うんです。「あなた方は340万人の死者を出した。これは米国の人口規模に直すと2700万人に達する。それで確かに独立したが、統一を含めて我々が初期段階で与えようとしたもの以上を得ることが出来たのか?あまりにも人的被害が大きいとは考えないのか?それを悲劇とは思わないのか?」と。

 正直、あれだけ絨毯爆撃をやって、枯れ葉剤まで蒔いたヤツがよく言うわと思ったんですが、グエン・コ・タク外相の答えは、ざまえみろと思うと同時に、悲しくもなりました。

 元外相は「あなたは歴史を知らない」「アメリカは隷属させようとした」「我々はソ連や中国の駒(ポーン)ではない。我々は1000年もの間、中国と戦ってきたのだ。我々は独立のためならどんな圧力にも屈せず、最後の1人まで戦い続けたろう」と言いました。

 悲劇ですね。

 マクナマラは「キューバ危機の時、ケネディ政権はフルシチョフの立場に立って物事を見ることによって、ソ連がキューバの独立を助けたと言えるという花道をつけてやることで、全面核戦争を回避することが出来た。しかし、ベトナムではそれが出来なかった」とも語るんですが、中東をはじめアジアのことを知らなさすぎだな、と。

 1960年代前半の米国は呪われたかのようにベトナムにのめり込んでいきます。撤退を開始しようとした矢先にケネディは暗殺されるし、北爆を開始したのもトンキン湾の誤解からだし、最初は地上部隊は送らない方針だったのに、海兵隊をベトナムに送り込まざるをえなくなったのは空軍基地を守るためだったというんですから。

 一度間違うとどんどん泥沼に入るというのは福島第一原発事故と似ているな…と思って見ていました。

 それにしてもマクナマラの経歴は凄いんです。

 第2次大戦中、日本とドイツを絨毯爆撃したルメイの部下で、ケネディ政権では国防長官としてルメイの上司となったというんですから。キューバ危機の時、ルメイは「キューバを破壊すればいい」と主張して対立した、と語っていましたが、とんでもないヤツに日本は勲章をやったんもんです。

 マクナマラは日本のほとんどの都市を焼け野原にしたことも問題だが、その後で原爆を投下したのは問題だとも語っているんですが、ルメイは「もし勝たなかった、我々が戦争犯罪人になるぞ。それでもいいのか」と主張したそうです。

 マクナマラは戦争の問題点について「互いにルールがなく法律に縛られないこと」と主張。枯れ葉剤の使用についても「もし法律で使用が禁止されていたら、使わなかった。もっとも私が使用許可を与えたかは覚えていない」と。戦争に関する法律はジュネーブ条約しかなかったわけですが、果たして、これだ戦争が非対照的になってしまった現在、それに意味があるのでしょうかね。

 しかし「残念なことに、人間には後知恵でしかわからないことがあるのだ」と語るマクナマラは少なくとも正直です。

 『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白』は11章仕立てですが、最後のタイトルは"You can't change human nature"「教訓11:人間の本質は変えられない」。

 マクナマラはT・S・エリオットの詩で締めくくります。「好奇心にかられて探求の旅に出る。色んな場所に訪れ、色んな知識を得ていく。でも、最終的には、はじめにいた場所に戻って、その場所こそ、探求の目的地であったことを認識する」ある意味で今の私だ、と。これはたぶん、『四つの四重奏』のリトル・ギディング。

 "We shall not cease from exploration, and the end of all our exploring will be to arrive where we started and know the place for the first time"

 とりあえず5章を見つけました。ご興味を持たれた方は、DVDなり探してみてください。

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