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January 12, 2016

『立川談志 まくらコレクション 談志が語った“ニッポンの業"』

Danshi_makura0

『立川談志 まくらコレクション 談志が語った“ニッポンの業"』竹書房文庫

 談志師匠の毒舌が古くならないのは、人間洞察が深いからだと思います。例えば、年代的には談志師匠のちょっと上になるコロンビア・トップの毒舌の書き起こしなんかがあったとしてもちっとも面白くないと思う。それは、もはや過去となった事件や世相へのグチでしかないから。

 そして、座って首を振りながらしゃべっている背景に日常が見えるというか、落語が生活に根ざしているというか、物憂げに日常をうっちゃっている感じが伝わってきて、けっして明るいだけではなかった昭和な日々の記録としても貴重かな、と。

 《わたしの理想の生活というのは、十二時ごろ、女に起こされて「起きなさいよ、いつまでも寝てないで」なんて言われましてね。で、起きて「うーん、湯に行ってくるよ」。湯から帰って、ちと、ビールをグーッとね。湯上がりのビールというやつで、朝は効きますから、いい気持ちになって。と、女が「酔って来たんじゃないの、またする?」なんてことを言って》(p.50)

 《大晦日にね、銭湯に飛び込んだ。誰も入ってないんだよ。シミだらけの汚いジジイが脇に入ってやんの。ジジイと俺だけなんだよ。「なんでこんなに空いてんの」って言ったらね、紅白歌合戦やってるからだって》(p.82)

 大晦日に湯に飛び込んで誰もいなかったという話しをする背景には、「こりゃ、芝浜なんかをやっても、本当に通じるかな」という諦念があるのかな、なんてことも感じます。勝五郎が女房からワケを聞くのは、一年の垢を落とそうってんでごった返した湯の帰りだったんですから。

 まくらの中にもサゲがあるんで、細かな話しは実際に読んでもらうとして、こうして談志が語っているマクラも、誰かからのものを寸借しているのかな、みたいなことも感じました。

 《江戸の侠客、幡随院長兵衛、難波三侠客の一人、朝比奈藤兵衛。藤兵衛、長兵衛が吉原堤において血の雨を降らすという、これからが面白いが、また明日》ってまくらは、落語研究会で見た一朝師匠が『芝居の喧嘩』でも使っていました。有名なまくらなんでしょうかね(p.172)

 この一朝師匠の『芝居の喧嘩』はまくらが最高なんで何回も繰り返して見たんですよ。二つ目時代は歌舞伎座で笛を吹いていて、歌右衛門さんに可愛がられていたという一朝師匠。笛というのは、トランペットなんかと同じで、学校出たからっていい音が出るわけじゃないから、重宝がられるらしいんですが、歌舞伎の世界からは漏れることのない、プロンプターに頼りきった晩年の歌右衛門さんの話しなんかが聴けて貴重。最後は無線使っていたとか…。

 そんなことはおいといて。

 《男の最大の道楽である女遊びと比べたら、芝居の方が重かったてんだな。わけを訊いたら、芝居の噂をするからだと。女の子は芝居に行くなんてなると、三日も四日も前から「みいちゃん、七日の日に歌舞伎行くのよ」「羨ましいわ、帰ってきたら、お話聞かせてね」って自慢したり。野郎が幾ら女郎買いが好きだって、あんまり喋ってる奴いないもんね。五六日前から、「おう!源さん、よろこんでくれ、七日の日に、女郎買い行くことになった」「そうかよ、しっかりやって来い、この野郎!けえって来たら、ゆっくりのろけよう」そんな馬鹿な奴は、ありゃしねえ》(p.63)

 これって小遊三が談志に教わったっていう『六尺棒』のまくらでも使ってました(落語研究会)。

 編年体で編集されていて、政治家になろうとして、落選、当選、政務官辞職と自らネタをつくっているとしか思えないことをご丁寧に順繰りとまくらに使っているところも笑えます。

 談志師匠が最初に立候補したのは33歳の時の1969年。東京8区の衆院選に立候補して19,548票獲得したけど、定員3人で9人が立候補した中の6位で落選。

 当選したのは35歳の時の1971年の参院選の全国区で、50人中の50位で最下位当選。「真打ちは最後に出てくる」って記者会見で言った言葉はまだ覚えています。しかも、この時は選挙運動をかねて、全国の小ホールを回る「ひとり会」の独演会をやってたんですね。これが、後に落語協会から脱退しても、びくともしなかった背景にあるんだろうな、みたいな。

 演目も随分変わっているんですよね。若い頃には『宿屋の富』『天災』『猫久』『初音の鼓』『蜀山人(しょくさんじん)』『蜘蛛駕籠』なんかもやってたんだ、みたいな。

 佐藤栄作首相には無所属から自民党に入る時に世話になったり(どっちが世話になったか分かりませんが)、石原慎太郎と一緒に当選の挨拶に行った時の話しとかも初めて聞くようなものでした(p.128)。

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