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December 29, 2015

『国鉄改革の真実「宮廷革命」と「啓蒙運動」』

Kokutetsukaikaku_shinjitsu

『国鉄改革の真実「宮廷革命」と「啓蒙運動」』葛西敬之、中央公論新社

 一冊、書いたのを忘れていました。

 JR東海の葛西さんが日経で連載していた「私の履歴書」を読んで、歴史修正主義というか、やっぱり歴史というのは勝者が書くもので、都合のいいところは曖昧にして、手柄は基本ひとり占めにするんだな、と思ったのですが、バランスをとるために敗者である元国労企画部長の秋山さんの本を読んだら、止まらなくなって葛西さんの『未完の国鉄改革』を読み直したのに続き、『国鉄改革の真実「宮廷革命」と「啓蒙運動」』も再読してみました。

 ま、『未完の国鉄改革』も『国鉄改革の真実「宮廷革命」と「啓蒙運動」』も、読んだというよりは、資料として必要な箇所を探したという感じだったので、改めてじっくり読む機会を得られたのは良かったと思います。

 国鉄改革というのはGHQが主体となった農地改革、財閥解体を除けば、日本人が自らの手で行った最大の改革だと思うのですが、国体護持派のNo.1だった縄田国武副総裁のように、すでに亡くなられている方も出始めている中で、将来、どうやって歴史を残していくのか、という問題も考えさせられました。

 国鉄という巨大組織での抜本的な改革でしたので、関係者も多く、しかも、最終的な当事者となった勝者側あるいは「引き分け組」はJRという組織に対する義理もあるので、なかなか割り切った話はでてきません。

 葛西さんもオーラルヒストリーの御厨貴先生から30年後の開封を条件に話しをしていると、この本の「序にかえて」で御厨先生自らが書いていますが、死後開封ということで手記を残している方は何にもいるでしょうし、葛西さんと同じように学術的なチェックを受けているものを残している方もいるでしょう。

 葛西さんの本はそうした方々の標的にもなるわけで、様々なことが薮の中になってしまうのかもしれませんし、驚くようなことが鮮やかに蘇るかもしれません。

 改革期に中心的な役割を果たした三塚博運輸相、橋本龍太郎運輸相はすでに鬼籍に入ってしまいました。橋本さんは外交関連でオーラルヒストリーは残していますが、国鉄改革については何も語りませんでした。三塚さんも、国鉄改革のある意味キッカケとなった『国鉄を再建する方法はこれしかない』を含めて、ゴーストライターが書いたとしか思えないような本を出すにとどまっていますし、首相だった中曽根さんもオーラルヒストリーは残してはいるものの、やはり外交が中心です。

 外交関係の本というのは、国内に直接的な利害関係者がいないから残しやすいんでしょうか。読者や研究者が真偽を確かめようとしても難しいから、言いっ放しでいけるのかもしれません。

 ということですが、国鉄改革に興味がない方に細かな内容は省きますが、国鉄改革のキーポイントとなった組合対策を職員局職員課長、同次長として取り仕切り、しかも同時並行的に国鉄社内の国体護持派との権力闘争を闘うという中で、いよいよ分割・民営化の実務段階となった時点で、葛西さんは資産の切り分けから外され、「看板会社」としてのJR東日本に東海道新幹線も入っている東京駅などの重要資産を持っていかれたばかりでなく、東海道新幹線のリース料金も高く設定されるなど不利な扱いを受けた、という主張が本書の中心となっています。そして、欠陥制度である新幹線保有機構を解体させて、リース料では立たなかった減価償却費を立つようにして、東海道新幹線のインフラを強化した、ということを誇らしげに主張しています。

 まあ、東日本と比べれば多少不利な面はあったにせよ、西日本と比べればマシだし、三島・貨物とは比べものにならないほどの優良資産を継承していながら、何を名経営者面しているのかな、というのが正直な感想ですが、とにかく本人にとっては不満だったということはわかります。

 せめて1社だけは確実に成功するようにということで「看板会社」として仕立てられた東日本の社長を国鉄再建監理委員会の事実上のリーダーだった住田正二氏にもっていかれたことによって、この2人は敵対関係となります。そして、品川新駅の問題では「他人の土地をタダ同然で寄こせというのは(葛西氏の発言は)フセインと同じ」とまで住田さんから罵倒されるようになります。

 結局、新幹線の品川新駅は国鉄時代の簿価で払い下げとなりますが、揉めたせいで、あのようにほとんど余裕がないつくりになって、乗客に「弁当も満足に買えない」という不満を残すことになります。

 あと、個人的に面白かったのは、旧労働省というのは、国労寄りだったというか、組合が頼ってくるので、最大労組の国労にもう少しなんとか花を持たせてやってくれ、という姿勢だったこと。元厚生族だった橋本運輸相からも同じような要請をされたのを蹴ったら、治安当局が懸念している動労の問題について説明責任を果たしていないと罵倒され、会食の途中で「これからは直接会うことない」と帰られてしまう一幕もあったというのは迫力ありました(p.149-)。

 また、『未完の国鉄改革』でも固有名詞を避けていたのに、p.118だけ縄田副総裁と太田常務理事の名前を書いているのはなぜなのでしょうか。縄田さんが、影の運輸大臣と呼ばれた加藤六月と学生時代、星島二郎代議士の書生をやっていた奇縁から、国会対策調査役として出世していったので、同じ選挙区の橋龍は太田さんが担当、ということをわかりやすく説明したかっただけなんでしょうかね。

 ちょっとひっかかりました。

 まあ、これからも当事者の本が出れば、読んでみたいと思いますが、日本人は去り際を綺麗にしたいのか、国鉄内部の敗者側からの記録があがってこないのが残念です。

 『己を知らず敵も知らず―国鉄労働組合運動―風雪の記録』武藤久も読んでみようかな、と思いますが、現物が手に入りません。


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