十二月大歌舞伎の松也と團子
十二月大歌舞伎は昼も夜も大好きな七之助祭だなと思って楽しみにしていたんですが、どちらも良かったです。
というか、尾上松也が新しくスターシステムに乗ったんじゃないかと確信するとともに、子役で出ている市川團子(中車=香川照之の長男)の上手さに舌を巻きました。
玉さまが出ているにもかかわらず相変わらず空席が目立っていたのは心配だったけど、古手の幹部連中が中心の編成から少しずつ変わりつつあるのかな、とも感じました。
昼の部では『本朝廿四孝 十種香』しか見物していません。
ここで驚いたのが勝頼に尾上松也が抜擢されていたこと。11月に続いての歌舞伎座本公演での主役。一年前には信じられないほど。20歳のときに父・松助を亡くし、後ろ盾がいなくなってから、よくここまで来たと思います。14年には『三人吉三』で勘九郎、七之助を相手にお坊吉三を演じ、今年は東宝版『エリザベート』で狂言回し役のルキーニを歌い倒した松也は「スター誕生」の予感がしていましたが、まさか、ここまで短期間に上りつめるとは思ってもみませんでした。
御曹司系の役者にはひ弱い印象が強いんですが、必ずしも名門ではない彼には力強さと色気が舞台から匂ってきそう。勝頼で松也はカツラにシケ(乱れ髪)を垂らしていたんですけど、そんな勝頼見たことない。最近の本朝廿四孝では菊之助の勝頼が綺麗だったけど、菊之助は単にすっと座っている感じだったけど、松也は座っているだけで色気ダダ漏れさせていました。昔なら文句つけられていたんじゃ…なんて。どうなんでしょ?
夜の部の『妹背山婦女庭訓』では淡海を演っていますが、これも凄い出世の役。これからも太らないで、体型を維持してほしいと思います。そして海老蔵、染五郎に互していってほしい。
ヒロインのお三輪は七之助と玉さまが役替わりというか、杉酒屋と道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)を七之助、三笠山御殿を玉さまがやる趣向。玉さまは、女形の大役であるお三輪を七之助に託しているんだと思います。
ぼくの永遠のディーバである歌右衛門さまの役はぜんぶ玉さまが継いだけど、そのうち、玉手御前や政岡は菊之助、お三輪などは七之助などに分けて継がせようとしているのかな。菊之助は菊五郎になるから女形ばかり演っていけないので、できない部分を七之助にやらせようとしているのかな、と。
『妹背山婦女庭訓』は高い桟敷から見たんですが、玉さまの足をずっと見ていて、微動だにしないところはさすがだな、と。
にしても苧環を背中に挿して動き、時には愛おしそうに抱くというビジュアルは人形にはできないわな、と改めて思いました。
『妹背山婦女庭訓』の杉酒屋では市川團子に舌を巻きました。團子は中車(香川照之)の長男。ヤマトタケルの稽古場をテレビでしか見たことなかったけど、天才っていうのはいるんだな、と。子どもなのに演じきっている。舞台を背負っている。
歌舞伎で杉酒屋は1970年以来の上演で、その時は片岡我當(仁左衛門のお兄さん)が丁稚小太郎を演っていたけど、将来が楽しみ。
團子で気がかりだったのは、ちょっと太っていたことかな。まあ、歌舞伎の子役では時々あることなんで、順調に育って、できれば男前になって、将来は猿之助を継いでもらいたい。なんつうか澤瀉屋に生まれた初めての御曹司系の役者って感じ。拍手も凄かった。
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