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December 10, 2015

『財務省と政治 「最強官庁」の虚像と実像』

Zaimushow

『財務省と政治 「最強官庁」の虚像と実像』清水真人、中公新書

 内容が濃くて、新書なのにいちいち思い出しながら読んだので読みあげるのに時間がかかったけど、本当に面白かった。

 大蔵省というのは、ぼくが物心ついた時から、大きく変身したと思っています。

 子ども頃は人口ボーナスとベトナム戦争なんかで経済は高度成長が続いていた時代でした。この頃は再分配だけがテーマでしたから、インフレにならないうちに早くカネを使ってしまえとばかりのバラ蒔きが仕事で田中蔵相なんかが一番似合っていたような時代。そのご本人が首相になった時に起こった石油ショックで久々のマイナス成長となり、1974年から赤字国債がどんどん発行されていき、大平さんが一般消費税導入を訴えるんですから、一気に景色って変わったんだな、なんてことも思いました。

 個人的には失われた10年と言われた1990年代の閉塞感も思い出しました。高度成長期の分配を公平に保つために最適化された政官財の鉄のトライアングルが時代に合わなくなり、新しいことに真水を入れようとしても、大蔵省の主計局にある「これが公共事業だ」というリストに載っていない限り、受け付けともらえなかった、みたいな。

 結局、2000年代に小泉さんが公共事業のカネの出口である郵政改革をやって元の蛇口を絞め、民主党が公共事業そのものにメスを入れるという二段階でやっと熊が通りそうな田舎に4車線道路をつくるみたいなムダを止めることができたんだと思います。これはある種の社会実験をやりきったんだと思うぐらい、個人的には評価しています。

 にしても、内閣というのは長くやるだけの運を持っているか、絶対的な与党内での権力を持っていないと大きな仕事はできないな、なんてことも考えながら読んでました。田中内閣は当初、圧倒的な国民的な支持があったから日中国交回復ができたし、同じように短命でしたが竹下内閣も消費税導入という大平内閣でも中曽根内閣でもできなかったことをやってのけました。また、政権交代を実現した細川内閣は有無を言わさず選挙制度改革を、民主党内閣は公共事業の改革を実現しました。

 田中首相が倒れて田中派が跡目相続を起こしたという僥倖に恵まれて長期政権となった中曽根内閣は国鉄改革など三公社五現業の民営化に道筋を付けましたし、マジックみたいな手腕で長期政権だった小泉内閣は道路公団と郵政改革を実現したという実績を残せたんだと思います。

 高度成長が終わった後、財政再建のためには公共事業と社会保障をどう削るかが問題となっていたんですが、小泉首相の前の自民党政権では具体策がまとめられなかったんですよね(p.78-)。

 今の官邸主導の基礎をつくったのは橋本内閣ですが、それを使いこなすスピード感覚をつくったのは小泉さんだよな、と思います(p.127)。ここら当たりは『官邸主導』もお勧め。

 また、よく分かっていないヒトたちが語る官僚排除の政治主導は、民主党政権が嚆矢ではなく、98年の金融国会で政策新人類たちが与野党協議から財務省の官僚を外したあたりからなんだよな、ということも再確認しました(p.104)。

 本書の通奏低音となっている財政再建なんですが、後に国鉄総裁となる高木文雄は、二兆円減税に尽力したというか、田中内閣の末期に福田赳夫蔵相が二兆円減税を止められなかったことは、三木武夫政権での赤字国債発行の伏線となります。田中角栄が福祉元年を宣言したことも、社会保障費の増大を招いたわけですが(p.10)、あれほど好調だった高度成長は、ベトナムで戦争が終わり、なんでも買ってくれて蕩尽してくれた米軍が撤退すると、オイルショックがあったとはいえ、あっという間にマイナス成長となるんですから、世の中、一瞬先は闇なわけです(1974年に-1.2%という戦後初めてのマイナス成長を記録)。

 この後、三木内閣の蔵相として赤字国債を発行した自責から一般消費税の導入を目指した大平さんは病に倒れ、鈴木内閣を挟んで就任した中曽根首相がヴェネチアサミットを前に決断したのは、円高不況に対応する6兆円の経済対策というんですから、財政再建派にとっては踏んだり蹴ったりの状況が続くんですよね(p.13)。

 大蔵省解体もドラマです。

 1997年の金融危機は、景気も回復して対抗馬も出ずに再選された橋本首相が消費税再引き上げをやったことが遠因。4-6月の成長率は-11.2%に落ち込み、三洋証券の会社更正法適用につながります。もっともまずかったのは、三洋証券の破綻が無担保ゴール資金のデフォルトをともなったこと。経営破綻しても、これだけは返すという仁義が崩れて信用は収縮。わずが2週間後に北海道拓殖銀行が経営破綻。さらには山一証券を富士銀行が支えきれなくなり、飛ばしによる場外債務発覚で自主廃業するというめくるめくような負の連鎖が続きます(p.86-)。

 住専への公的資金投入で大蔵省批判が高まり、それに乗じて日銀は独立性を求めて実現するんですが、「大蔵省から独立するなら、日銀は政治と直に向き合わなければならない。その厳しさが分かっているのだろうか」というあたりも面白かった(p.69)。

 竹下さんが「巻物」と読んだ大蔵省時代からの予算編成スケジュールに沿って官僚たちは政治家を動かしてきたんですが、赤字国債を出す際にも様々に法律の裏をくぐり抜ける策を大蔵官僚は知っていたというあたりは、さすがに凄いと思わせます(p.94-)。

 しっかし、小泉内閣時代に毎日のように語られていたプライマリーバランスと、ドーマー条件の議論とか、どこにいっちゃったんでしょうね…。

 財務省は結局、誰とつるむかしか、考えてなかったんだろうなとも感じた次第(p.201-)。

 消費税率10%アップは菅、野田と二代続けて財務大臣が首相に就き、相手方の野党自民党も党首の谷垣が財務相経験者だったからできたというあたりも目ウロコでした(p.222)。

 安倍政権の日本経済再生本部など経産省中心の検討会に各省が乗り気じゃないのは、予算編成は財務省に査定権があるが、成長戦力を取りまとめる経産省は横並び。政策のタマを提供する筋合いはない、というあたりもなるほどな、と(p.249)。

 完治の見込みのない左翼小児病児や日共シンパのヒトなどはどうでもいいんですけど、夢見がちなナイーブ左派、誰かを助けたい系の良心的リベラルレフトの人には、これを読んでもらいたいというか、こうしたシステムを知らずに何を主張しても、それはただの風にしかならないということを知ってもらいたいとも思いました。

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