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November 24, 2015

『生命の星の条件を探る』

Abe_life

『生命の星の条件を探る』阿部豊(著)、阿部彩子、文藝春秋

 宇宙の話しとはいっても、ビッグバンからの全宇宙史的な進化論という究極の歴史もあれば、太陽系惑星に関する本もあり、さらに、この本のように生命論とからめたものも全てにセンス・オブ・ワンダーを感じます。

 なんか政治がらみの本ばかり読んでいたので、ココロの清涼剤的にこうした本を読みたくなりました。

 と同時に、漠然とは知っていた断片的な知識を補強してくれたというか、その知識の持つ意味みたいなものを提示してもらった感じがしました。

 例えば水とリン。

 この本は「生命誕生に果たす水の役割の重要性について」みたいな副題をつけてもいいと思いますが、水というのは、宇宙全体でもありふれた物質だろうという指摘には驚かされました。よく情緒的に「たったひとつの青い星」みたいな言い方で地球のことを語る環境バカみたいなのがいますが、ビッグバンで宇宙が出来て以来、元素で多いのは化学進化によって水素、ヘリウム、酸素の順。このうちヘリウムは化学反応しないので、水は化学反応する物質の中で一番目と三番目に多いもので出来ているという説明には唸りました。

 水がなくても死なない生物はいますが、増殖・繁殖することはできないといいます。アポロ12号はサーベイヤー3号のカメラを回収し、そこにはカメラにくっついていた地球上の連鎖球菌が付着して生きていたことに全世界が驚愕したんですが、生きてはいても繁殖はできていなかったそうです。水も大気もないところで2年半も生きていたこと驚きですが、とにかく水がないと繁殖はできない、と(p.20)。

 しかも、水は分子量が小さいのに高温まで液体常態を保ち蒸発しないというんです。それは電荷の偏っている極性分子の構造を持っているから。

 極性のない油は溶かせないが、水はなんでもよくとかす、と。生物の細胞は水に溶ける性質と溶けない性質をうまく使って細胞膜をつくります。土星の衛星タイタンはメタンの湖がありますが、もし生物がいても細胞膜の作り方から違うだろう、と(p.25-)。

 なんか水って凄いな、というか、この本自体、生命に水は不可欠という自明と思われることを、改めて考えみる、みたいなところからスタートしたんだそうです。

 次にリン。

 ATPの中にも含まれるリンは生命活動にはどうしても必要で、他の元素では対応できず、常に不足気味。特に海の生物では不足しており、逆にリンを含む合成洗剤が大量に放出されるとプランクトンが異常に増えて赤潮になるんだそうです(p.73-)。そうか、赤潮は生命の異常発生なのか、と。ちなみにATP(アデノシン三リン酸)はDNAの構成要素であるアデノシンにリン酸を2つ付けたもので、化学エネルギーの通貨のような役割を果たします。

 ちなみに、生命活動に不可欠な元素のリンのかわりにヒ素を取り込んで生きる細菌を見つけたとNASAが発表した論文は間違いだったそうです(p.214)。

 後は二酸化炭素の重要性。

 地球の平均気温は15度ですが、温室効果がまったくない場合にはマイナス18度になり、液体の水など存在できない氷の惑星になってしまうそうです。

 地球は地表の温度を一定に保つため、二酸化炭素を減らしてきたんですが、5億年後には大気中の二酸化炭素は今の10分の1ぐらいに減り、それではシノバクテリアを含めて光合成生物が生きられないので、生物圏はなくなる、という話しを『松井教授の東大駒場講義録 地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探る』松井孝典で読んだことがありますが、二酸化炭素というは凄いもんだな、と。

 地球に氷河期があったことが提唱されたのはたった170年前だそうですが、いまでは全球凍結状態のスノーボールアースがあったことも定説になっています。こうした全球凍結状態からの脱出は、地下のマントル活動からの火山による二酸化炭素の脱ガスが不可欠だったと考えられるそうです。凍った地表では化学反応が起こらず膨大な二酸化炭素がたまって温室効果が進み、数百年から数千年で氷は溶け、平均気温はマイナス40度から+60度になった、と(p.100)。

 ちなみに海洋地殻は玄武岩、大陸地殻は花崗岩でできていますが。花崗岩は地球以外の天体では発見されていないそうです。

 そうか花崗岩ってまだ発見されていないのか、と。マントルを溶かすと玄武岩ができるが、マントルをただ溶かしても花崗岩はできず、水と一緒に溶かして、溶けた成分を抽出しなければならない、と(p.78)。

 科学書らしく、各省の最後にサマリーが書かれていて、そこを読むだけでも全体が理解できます。

 最後に…。

 著者の阿部豊さんはALSだそうです。妻であり同僚の研究者である阿部彩子さんの協力でこの本を執筆できたそうですが、早くALSの研究が進むことを祈るばかりで。

 各章のサマリーは文春の紹介によると以下の通り。

序章 地球以外のどこかに
私たち以外にもこうして星空を見上げている存在はあるのか、満天の星空の下で、そう考えるところからこの本は始まる。そのことを解明するために、様々な分野を横断した研究が始まっている

第1章 水
なぜ、生命には水が必要だと言えるのだろうか? 土星の衛星タイタンの湖のようにメタンでは駄目なのだろうか? その秘密のひとつには、水は宇宙のなかで、あまりにありふれたものということがある

第2章 地面が動くこと
我々の足元では、大陸を乗せた巨大な石の板「プレート」が動いている。こうしたプレートが動く惑星は太陽系では地球だけだ。なぜ、このことが生命にとって重要なのだろうか? 鍵は二酸化炭素にある

第3章 大陸
陸地がない海だけの惑星を考えてみよう。そこで生命は繁栄するか? 陸地には生命にとって重要ないくつかの働きがある。それは二酸化炭素を貯え、リンを供給することだ。そのメカニズムとは?

第4章 酸素
酸素がないままでも微生物は存在できる。しかし現在のような複雑な進化をとげた生物、知的生命は存在できないだろう。エネルギーを効率よく生み出す酸素の機能とは? 生物の大型化と酸素の関係とは?

第5章 海惑星と陸惑星
地球の海の水の量を10分の1にしたら生命は存在できるだろうか。
直感に反して、そうした「陸惑星」の方が生命が存在する期間は長い。「海惑星」の地球はあと10億年で生命の住めない環境になる

第6章 惑星の巨大衝突
太陽系の惑星は形成の最終段階に、惑星同士の巨大衝突「ジャイアントインパクト」を繰り返していた。衝突の衝撃で地表はすべて荒れ狂うマグマの海と化す。惑星の形成過程を探ってみよう

第7章 大気と水の保持
水は宇宙空間でありふれている物質であるために、惑星は形成期に水を含んで誕生する。では、火星と金星に水がなく、地球にある理由は何か? 太陽からの距離と惑星の大きさが大きく関わっている

第8章 大きさ
太陽系外に巨大な地球型惑星「スーパーアース」の発見が相次いでいる。生命の条件に惑星の大きさは関係するのだろうか。計算すると「ミニ地球」にも「巨大地球」にも思わぬ難点が生じるとわかった

第9章 軌道と自転と他惑星
もしも、太陽系に木星がなかったら、地球はどうなるだろう。地球の300倍の質量を持つ木星はその重力で、太陽系外からの彗星から地球を守る働きをしている。変化する軌道と自転軸の働きとは?

第10章 恒星
太陽の寿命はおよそ100億年。しかし恒星のなかには、わずか1000万年程度の寿命しかないものもある。恒星の大きさは恒星の明るさと寿命を決め、惑星の環境を大きく左右する

結び 「ドレイクの方程式」を超えて
1961年、地球外の生命体の存在について、確率論から迫った科学者がいた。ドレイクの方程式と呼ばれるその考察は、その後の観測技術の発達の中で、どう評価されるべきなのか。そして将来は?

補遺 磁場は生命に必要なのか

解説 「信念」を「科学」に変える 阿部彩子

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