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November 15, 2015

『大人のための図鑑 脳と心のしくみ』

Brain_ikegaya_book

『大人のための図鑑 脳と心のしくみ』池谷裕二、新星出版社

 お亡くなりになった米原万里さんが池谷裕二さんの書評で、もし若ければ大脳生理学の研究者になりたい、と書いていました。哲学が"知覚の現象学"として扱ってした心の動きといいますか脳の動きがリアルな動画として見られるようになったことへの驚きが背景にあるのですが、MRI革命によって、脳細胞のリアルな細胞の動きで説明されてしまう時代に立ち会えることは、なんと凄いことでしょうか。

 そういえことで池谷先生のご著書も出れば必ず読んで、凄いな、と思っていたのですが、今回は美しいカラーの精密な写真で脳の動きを教えてくれます。なんかハッブル宇宙天文台で撮った深宇宙(Deep Space)の写真を初めてみた時のような衝撃を受けました。宇宙に負けず劣らず、深層心理(Inner Space)も凄いな、と。

 例えば、脳の活動を描く拡散テンソル画像法による神経細胞のネットワーク図。これを見ると、神経線維が同じ方向に整然と束ねられたような構造になっていることに驚かされます。ゴチャゴチャに絡み合ってない。こんな写真が「図鑑」として見られる時代になったんだな、と。

Brain_ikegaya_1

 自意識といいますか自我の成り立ちに関する池谷先生の解説もスカッとクリアカットといますか、有無を言わせない説得力があります。

 動物は生存可能性を高めるために何か現象が起きたら、その原因を探るんですが、人間にはそうした「知りたい」という探索対象に自分自身が加わったというんです。なぜ、そんなことになったかといいますと、おそらく大脳皮質が発達したことによる空間探索がカギだ、と。それは自分の外に視点を置いて俯瞰できる能力はエサの捕獲に便利で、これが自分への探索心に結びついたからだ、と。

 まるでいまのクルマに付いている縦列駐車などをサポートしてくれるアラウンドヴューモニターみたいな感じといえばいいんでしょうか(p.38-)。

 この本で再確認したのが嗅覚の重要性。

 魚類、両生類、爬虫類、哺乳類までは、嗅球が大脳に覆われていないんです。だから、見るより嗅ぐ方が得意なのか!ということが視覚的に理解できます(p.46)。といいますか、鼻は耳や目よりも、前にありますよね。世界を探るのは鼻なんです。

 無意識の活動を担う脳幹の中で、視床は嗅覚以外のすべての感覚情報を脊髄や脳幹から大脳に伝える、というんですが、嗅球って古くから発達しているだけあって凄いな、と。

 嗅球と嗅神経、嗅上皮の近さが異常なのも図解でみるとよくわかる。さらに、ニューロンは一般的に再生しないが、嗅細胞は数種類サイクルで生まれ変わるそうで、とにかく匂いというのは凄いな、と。生命の本質に関わっているんでしょうね。

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 嗅覚の電気信号は大脳辺縁系の扁桃体、海馬、視床下部、眼窩前頭皮質など記憶や情動に深くかかわる部分にも送られるため匂いによって遠い日の記憶が蘇るのは、こうした伝達経路がかかわっているかも、と(p.79)。

 さらに好き嫌いを判断する扁桃体に、嗅覚の感覚情報だけは、大脳経由ではなく、嗅球から直接送られるそうです(p.112-)。

 プルーストもマドレーヌを口に含んだ時、香りが刺激されたりしてなんてと思ったりしましたが、女性が二枚目のことを「いい臭いがする」と表現する理由がわかったような気がします。逆に不潔で汗臭いとそれだけで、マニア以外からは拒絶されるわな…。

 シナプスの間を通って情報をやり取りする神経伝達物質が100種類以上あるというのにも驚きます。

 人間の脳の一番外側に発達した大脳皮質の30%を占める前頭葉はクオリアを生む「心」を担当すると言っても不自然でない部位だといいます。しかし、その内側にある大脳辺縁系は、恐怖や不安、好き嫌いなど原始的な感情を司る扁桃体など動物が生きていく上で欠かせない部分を担う、と。

 こうしたことから《記憶は勉強などによって意識的に行っていると思うかもしれないが、好きなことは早く覚えられたり、苦手なことはなかなか覚えられなかったりする。これはこうした原始的な脳の働きによるもの》というあたりは唸りました(p.60-)。

 小脳の重さは大脳の10%ぐらい。大脳と同じようにシワで覆われているが、溝は幅が狭く、表面積では75%程度。神経細胞は大脳の数百億個だが、小脳の神経細胞は800億個以上もあり、大脳よりはるかに多いとか、知らないことばかり!

 美蕾は500個しか、持ってない人や2万個持っている人もいて個人差が大きいそうで。少ない人って味音痴なんでしょうかw

 シナプスのうち、情報を受けるスパインは信号を受ければ受けるほど大きくなるので記憶に残るらしいというのも、感覚的に理解できます。

 いま、個人的には宝塚で一番注目しているのは星蘭ひとみさんという今年入団したばかりの101期娘役です。彼女が気になっていった経過を自己分析してみるさ、大運動で「オードリー・ヘップバーンか!」と思えるほど綺麗な音楽学校生を発見→卒業前の文化祭で準ヒロインを熱演しているのを目の前で見物→パンフをガン見→本名Yさんと確認→卒業式の芸名発表で星蘭さんと確認、と興味に惹かれどんどん記憶が強化されていったことが、確認できました。

 臨死体験は、心停止のような臨死状態になると、覚醒状態よりも活発に活動しているのが原因ということで、ちゃんと理由があるんだな、と(p.111)。

 最近では脳の可塑性という言い方に変えて「可鍛性」という言い方も出てきているそうで(p.109)、これからも大したアタマではありませんが、せいぜい脳を使っていこうと思いました。

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