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August 15, 2015

『国を守る責任 自衛隊元最高幹部は語る』

Kuni_o_mamoru_sekinin

『国を守る責任 自衛隊元最高幹部は語る』折木良一、PHP新書

 元統合幕僚長である折木良一さんの『国を守る責任 自衛隊元最高幹部は語る』を読んでみました。

 海外の災害派遣でも自衛隊の統合運用が評価され、それは日本人の気質によるものだと書いているような箇所は噴飯ものでしたが、とりあえず、自衛隊の考え方がどう変化してきたのか、ということがうっすらでもわかるような気がしたので、まあ、読んでよかったかな、と。

 著者が防衛大学校を卒業した1972年は内閣府調査の自衛隊の好感度が最も低い58・9%だったそうで、これが2015年には92・2%と過去最高を記録したんですから、少なくともこの間の自衛隊の努力は認めなくてはならないでしょう。

 日本の実力部隊が本格的に海外進出したのは、朝鮮戦争当時の海上保安庁による掃海部隊を除けば、1991年のペルシャ湾での掃海艇派遣が嚆矢でした。当時、自衛隊初の海外派遣ということで、社会党を中心に野党は大反対でしたが《半年にわたる厳しい海外任務で一人の死傷者も出さなかったことも、各国の海軍を驚かせ》た、とのことです(p.27)。まあ、こうした積み重ねをやってきましたよね、自衛隊は。

 ちなみに、折木さんは全て西暦で書いていて好感度アップ。米国相手の仕事などが多いために、西暦ファーストじゃないとこんがらがって話にならないんでしょう。

 高坂正堯の《平和な国家は、その独立を守るだけの力を持っていなくてはならないが、その軍備によって国家が軍国主義化されていてはならないし、その軍備を十分に規制することができなくてはならない。経済的に言えば、他国に支配されざるをえない国家も、他国を支配しなければない国家も、ともに平和な国家ではない。そして、国家の権力は制約されていなければならず、言論の自由の欠如、多数の専制、ある理念への狂信などは、国家権力の制約をいちじるしく困難にするものとしてしりぞけられなくてはならない》(『国際政治 恐怖と希望』中公新書、p191)なども引用して、まあ、自衛隊絶対反対みたいな言い方をする人たちよりはよほど穏当な考え方をしているな、という印象。

 ちなみに、2014年の読売・ギャラップ共同調査によると「信頼している国内の組織や公共機関」は自衛隊が75%でトップ、アメリカも軍隊が85%でトップとのこと(p.51)。まあ、こうした数字を前提に話さないと、現実的な話はできませんよね。

 折木さんは日本が軍事大国になることは絶対に不可能だということを、1887年から敗戦の1945年までの約60年間の平均で、国家予算の46%が軍事費に費やされていたことを理由に説明していますが、こうしたあたりも納得的。いまや、戦前の軍事予算比率に近い社会保障費を支出するようになったソーシャル・セキュリティ・ステイツ(社会保障国家)日本では《その恩恵に与る世代が、社会保障費削減=軍事費増大を認めるはずがありません》と(p.162-)。

 ホルムズ海峡、アデン湾からマラッカ海峡、スンダ海峡、ロンボク海峡、バシー海峡を通る《シーレーンのチョークポイントが、領土問題を抱え、価値観を異にする中国の影響下に置かれる事態は避けなければなりません》という言い方も納得できます(p.103)。

 にしても、中国にしてみれば、太平洋への出口も、いよいよ利用が開始されはじめた冷戦時代は民間人の立入が厳しく制限されていた北極海航路も、すべて日本に抑え込まれているということも理解しないといけないわな、と思います(p.114-)。だから、中国がシーレーン確保に向かうのもしょうがないわけだし、それに対して、現実的な対処を行っていけばいいんじゃないの、みたいな。

 安保法案はまあ通ると思いますが、その後は、交戦規定のネガティブリスト化(「これをしてはいけいない」こと以外は武力を行使できるようにすること)なども必要でしょうね(p.159)。

 日米ガイドラインも含めて「これ以上は憲法を改正しないとできない上限」(p.186)に達しようとしている今、こうした問題に関して、一人ひとりが勘を持つための基礎的な知識を持つことが重要になってきているのではないでしょうか

 ちなみに、p.145あたりで自慢気に書いてある、途上国などを中心に海外の軍隊が陸軍や海軍など軍種ごとの対立が根強いのに比べ、自衛隊がそうした意識が比較的薄く、統合運用が可能になってるというのは、和をもって尊しとなす、という国民性からではないと思います。太平洋戦争時の陸海軍の相互連絡のなさを反省して、防衛大学から陸海空が一緒に学ばせようとした旧内務省出身官僚の発想の賜物だと思います。こうした部分の歪曲はいただけませんが、まあ、全体的に有益な本だと思います。

 ちなみに戦前の旧帝国陸海軍の反目で、一番笑える話は、互いが勝手に開発していた戦闘機に積むドイツの新型エンジンの特許料を別々に払うと内密に連絡してきた話で、同盟国の陸海軍のあまりの意思疎通のなさにナチスに心配されたというんですが、ぼくはこうしたセクショナリズムが日本人の特質だと思っています。

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