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July 29, 2015

三津五郎の『踊りの愉しみ』

Mitsugoro

『踊りの愉しみ』板東三津五郎、長谷部浩(編)、岩波現代文庫

 2010年に岩波から出た『踊りの愉しみ』が文庫化されました。

 歌舞伎は子供の頃から見物しているのですが、正直、踊りの勘所はよく分からないでいました。

 その理由がこの本を読んで、よくわかった気がします。

 それは自分で着物を着て日本舞踊を踊ってみる、という経験がなかったから。

 何も肌感覚がないものについて良し悪しは論じることはできないというか「ああ、キュッキュッと体幹を使って踊っているな」とか「肩甲骨や股関節の可動域が広いな」ぐらいの感想しかでてません。これから、深く鑑賞するためにも、いつか機会があれば、一差し舞ってみるようなことができれば、と思いました。

 「踊りの神さま」と呼ばれた七代目三津五郎とは血もつながっていませんし、父である九代目は藤間流で師匠は六代目菊五郎ですが、十代目三津五郎も坂東流の家元として踊りを大切に育てられたあたりがよくわかります。「舞踏は、出があって、クドキ、手踊り、段切れでおさめる」とか「衣装をつけて小道具を持ち、ツルツルの舞台を草履で踊ると滑る」というあたりも具体的で新鮮!。こんなこと誰からも聞いたことないから。

 国立劇場にある平櫛田中作の下帯姿の鏡獅子でもその様子をうかがえますが、六代目菊五郎の稽古は、まず自分が裸になってやってみせたそうで、なるほどな、と。

 《振りと振りの間が埋まっていない》踊りはダメで《「振りから振りに移る間も踊りなんだよ」「その間も見えているんだよ」とぼくはよく注意します》というのも目から鱗です。つなぎが埋まっていないと上手く見えませんもんね(p.14)。

 見物客は顔を見ているんだから、顔がぶれずに正確に動かなくてはダメで、そのためにも下半身が重要だ、というあたりも論理的。

 「八十回稽古してできないのでやめてしまうと苦手のまま残ってしまうけれど、できるまで百回やれば必ず克服できる」「逆に苦手だった振りが、稽古によって得意になれば一番いいわけです」なんてあたりは芸の道を志す人に教えてあげたい(p.19)。

 十代目三津五郎は最初、宝塚花組の寿ひずるさんと結婚して巳之助を授かるなど、宝塚とも縁が深いのですが、月組公演『1789』で個人的に一番感動したのは珠城りょうさん(たまきち)のボディーパーカッションでした。とにかく踏みしめる音が他の生徒さんと違って桁違いに凄かったんです。三津五郎も踏む音は生命の音として「踏む音がするというのは、肉体があるということ」「舞台を踏む音というのは、その人が生きていることの証」と語っているんですが、『1789』ではたまきち扮するロベスピエールの生命の音を聴かせてもらった感じがします。

 宝塚つながりで、もうひとネタあげると、宝塚の生徒さんがお衣装というのは当たり前だなんですが、三津五郎も「お扇子」というのは渋いな、と。

 以下、箇条書きで…。

 「観客席にお客さまがいなければ、誰も踊りません」というのもわかるな(p.29)。

 手がきたなく見えるのは、指先まで力を入れているから、と(p.30)。

 動物を演じる場合、狸、猫、狐の淳で甲を平らにしていく、というあたりの手さばきのところも面白かった(p.138-)。

 奴(やっこ)の踊りは丸みが大切なんてことも大事な言葉です(p.148)。

 能の舞台で踊ると、見所(けんしょ、客席)の奥にある将軍、天皇、あるいは自然神に捧げている感じがする、というのは能楽堂に立ったことがあるから言える言葉でしょう(p.35)。

 最後の《歌舞伎は誰かがやってくれる、舞踏は誰かがやってくれるはずだとお考えになる方々がふえるのは寂しいことです。一年に一度で構いませんので、読者の皆さんが着物を着て、歌舞伎をご覧になる、舞踏を愉しんでいただくだけで、何かが変わるのだと思います。皆さんの行動が、文化を守る。私はそう考えています》という言葉を覚えていようと思います。

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