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June 11, 2015

『近現代日本を史料で読む』

Kindai_nihon_siryo

『近現代日本を史料で読む 「大久保利通日記」から「富田メモ」まで』御厨貴、中公新書

 御厨貴先生の『知の格闘』を読んでいたら、研究者向けに書いたら一般にも読まれていると書かれていたのに驚いて読んでみたのがこの『近現代日本を史料で読む 「大久保利通日記」から「富田メモ」まで』。新書というのは、研究のエッセンスという印象なのですが、もう単行本が売れないので新書が研究者向けになってきているんでしょうか。まあ、「それがどうした」みたいなのを大部な単行本で細々やられるよりは、よほど生産的でありがたいと思いますので、こうした傾向は歓迎したいと思います。

 いつものように箇条書きで。

 原敬日記と並び、西園寺公望の秘書、原田熊雄文書は重要というのは知りませんでしたね(p.5)。

 最初に紹介されるのは大久保利通日記ですが、冷静なハズの大久保が時に感情剥き出しにしている場面が印象的。佐賀の乱で敗北し捉えられた江藤新平に対して「江東醜態笑止ナリ」と、わざと江東と書いているのか知りませんが、梟首が申し渡された様子を記していたのには驚きました。これには西郷との決別をもたらした江藤への憎しみが現れていると解説されています。台湾出兵後の清朝と交渉で「断然」を繰り返して書いているところは、大久保の孤独な決意が伝わってくるようで好きです。

 征韓論は反対派の勝利に終わりましたが、大久保利通が権力を強化したことは、木戸孝允に愚痴を吐かせ、そうしたものが記されている木戸孝允日記は大久保政権のあり方を逆照射したものというのはなるほどな、と。

 廃娼論を唱えた植木枝盛が日記に遊郭での性交渉を200回以上記しているあたりは笑いました。

 藤原鎌足の嫡流である近衛文麿の父、近衛篤麿はアジア主義の論客で、死後、日露戦争勝利で英雄となったというのは知りませんでした。

 宇都宮徳馬の父、宇都宮太郎は佐賀藩出身の陸軍大将で、山県率いる長州閥の解体を夢見ていたんですな。

 死の直前まで書かれ、整理されていた原敬日記の入った箱の清浄さには心を動かされます。

 戦前日本の首相で衆議院議員であったのは原敬、犬養毅と浜口雄幸だけだったというのには驚きました。3人とも暗殺されているんですよね…(p.87)。

 西園寺の秘書だった原田熊雄は、年来の友人である近衛と木戸に加えて、西園寺と宮中官僚さらには海軍穏健派を軸に展開され、主として陸軍に強く押されて均衡を失う内外情勢の回復、対英米協調路線の再建につとめるものだった、という政治の見取り図は分かりやすかった。

 重光葵(まもる)という外交官と言いますか政治家は、岸信介回顧録などこれまで読んだ本の印象で、個人的には侮っていたのですが、巣鴨プリズンで書いた『昭和の動乱』あたりは読んでみますかね。

 宇垣一成の「軍は弥陀(阿弥陀如来)の利剣なり」「これは容易に抜くべきものでもなし、常に研ぎすまして切れ味のようやうにして置かねばならない。けれども之を使はず世の中を渡って行くということが一番必要である」という言葉には深く肯きます。集団的自衛権に反対する人たちには、研ぎすませておくことと使うことは別なんだということを理解してほしいかな、みたいな。

 天皇機関説問題で政府を追い詰めた真崎甚三郎日記を読むと、2.26事件で真崎首班構想というのは本当に可能性があったというのが「過去は夢未来も夢か今も夢」というあたりでわかるな、と。その真崎は終戦直前、吉田茂を介して近衛と接近したが、近衛首班に真崎が不満を難色を示して流れ、結局、鈴木内閣で終戦が決断されたというあたりは知りませんでした。

 「天皇にとって一番危険なのは宮さんだ」と木戸幸一が鈴木隆先生に晩年、語っていたというのは凄いな、と。高松宮は海軍、秩父宮は陸軍をバックに首班を目指していたんですかね。しかし、昭和天皇が皇族内閣の首班と目していたのは東久邇宮で、実際、鈴木内閣の後任になっているんですね。木戸は東條への信があつく、それで昭和天皇もそうした印象を抱いてたという構図なのかな、みたいなことも感じました。

 温厚なイメージの高松宮には何回か謦咳に接したことがあるのですが、昭和天皇と感情的に対立していたというのは知りませんでした。細川護貞日記には東條など陸軍の強硬派が宮城を近衛兵で囲むことを恐れ、そうした「承久の乱」みたいなことになったら、高松宮に「中大兄皇子と御成り遊ばさるる御決心」を進言していたというのは驚きます。

 佐藤栄作日記には鬱然たる大家の風情を感じます。酒を飲まず、日記の記載が就寝前のお決まりの作業だったとは…結局は新喜楽で倒れたけれど。

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