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May 18, 2015

『安倍官邸の正体』

Abe_kantei

『安倍官邸の正体』田崎史郎、講談社現代新書

 究極のヨイショ本と言われていますが、田崎さんはいわゆるカネをせびるような政治評論家ではなく、朝早くから永田町で取材をしている現役記者というか時事通信社解説委員であるという違いは歴然としてあります。野中広務さんがテレビに出て保守っぽいことを喋っては官房機密費をせびるような輩のことを暴露したことがありましたが(返してきたのは田原総一朗だけだったとか)、そうした人物とは一応、違うということはアタマの隅においておいた方がいいと思います。

 では、なぜヨイショになるかもしれないほど中に入り込んで取材をするのか(常識的に批判ばかりする記者はガードされるでしょうし)。

 「おわりに」では《「書くことは、イコール批判することだ」とたたき込まれて、それが基本と思っていた時期もあった。しかし、次第に真実を知ることにのめり込むようになった。この本を読んで、安倍首相に寄りすぎている、批判が足りないと思われる方が多いかもしれない。しかし、それでも権力構造を解明し、伝えることがわれわれの最大の使命であるという私の確信は揺るがない》と書いている気分は分かります。

 批判も大切ですが、それより、世の中がどういう仕組みで動いているんだ、ということを「見える化」して批判は読者にまかせるという機能も必要だと思っています。実際、批判は簡単ですしね。

 例えば武器輸出三原則が解禁されたのは《「防衛装備品は一国だけでは開発できない時代になったんです。それに、民主党政権の時代にある程度、やったからできたんですよ》という菅官房長官の説明は分かりやすいし、納得的だと思います(p.238)。ここでは旧式のパトリオットミサイルPAC2の部品については三菱重工業が生産して米国内で組み立てられていている例も紹介されています。ライセンス元は新型のPAC3の生産に集中しているんでしょう。

 ということで、安倍官邸の政策は安倍首相と菅官房長官、今井尚哉主席秘書官、それに副官房長官の加藤勝信、世耕弘成、杉田和博の6人が入る「正副官房長官会議」で決められるケースが多いというのが結論。

 首相の主席秘書官は通常、財務省から出ますが、今井さんは経産省出身。こういったところで財務省のマインドコントロールを逃れ、消費増税の延期なども可能になった、と(p.221)。

 こうした官邸主導は橋本内閣から始まりました。それを最初にうまく使ったのはご存じ小泉さん。しかし、異能の飯島勲秘書と福田官房長はしばし対立していたそうで、現在のようなスムースな形になったのは、一度、第1次政権で失敗した経験を活かしたからだ、と。

 本論以外で面白かったのは大臣候補者の身体検査。

 小泉内閣時代は飯島秘書が一手に引き受けていたそうですが、第二次安倍内閣のように、いくら30人ぐらいの警察関係者を使ってやるとはいっても、やはり魂は入っていないのか、女性大臣のダブル辞任と代わって就任した宮沢洋一経産相のSMバー通いなどが発覚しています。小渕優子の政治資金の問題ですが、政治資金収支報告書はあらかじめ監査人が見ているので、官邸が短期間の身体検査で不備を見つけるのは難しいとのこと。

 また、政治家が罰金の対象となるのは「会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠ったとき」であり、選任と監督を別々にしておけば、小沢さんや橋本さんのように適用されません(p.80)。こうした「仕組み」は正直、知りませんでした。

 選挙の心得「論争に勝って票逃げる」という言葉は初めて知りましたが、納得です(p.112)。

 集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更は、従来、内閣法制局が「憲法を変えなければ難しい」という立場だったんですが、元外務省の故・小松一郎氏が内閣法制局長となって、横畠裕介次長以下を論理で説得したからだ、というのも、そうなのかな、と(p.142-)。

 筆者はやたらニクソンの『指導者とは』から引用するんですが、ぼくと同じように文春学藝ライブラリーで再刊された時に読んだんだと思います。

 これも未読の方がおられましたら、お勧めしておきます。

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