『それでも猫は出かけていく』
『それでも猫は出かけていく』ハルノ宵子、幻冬舎
マンガ家ハルノ宵子さんが雑誌「猫びより」に連載していていたものの単行本で、その期間は父である吉本隆明さんと母親の介護期間と重なりあっていました。
父、吉本隆明さんとの共著『開店休業』でも凄いと思ったけど、ハルノ宵子さんは、ばななさんより凄い書き手になる可能性があると思う。文中での突き刺さるようなキツイ言葉は、吉本さんの奥さんの『支配する母』を受け継いでいる感じもありますが。
それにしても、吉本隆明さんに続いて同じ年に吉本さんの奥さんもお亡くなりになっていたというのは知りませんでした。
筆者も同時期に乳がんで片乳も切除するという怒濤の日々を送っているのですが、そうした日々を支えてくれたのは、障害を持った白猫シロミだったというんですね。
シロミはお尻を踏まれたらしく、なんとたれ流し。
そんな野良猫を拾ってきて育てるとか、個人的には信じられないといいますか、想像もできません。
しかし、ハルノさんは《シロミに出会っていなかったら、私は生きることの何たるかも理解できぬまま、両親の介護どころか”金属バット”で親の頭をカチ割ることすら危ぶまれる、未熟で粗暴な人間のままだったかも知れません》とまで書くんです(p.123)。
それは《「歩きたい!食べたい!生きたい!」。それだけで、どんな障害をもった動物たちでも、ただ今日を生きのびている》という考え方にたどりついたからではないでしょうか(p.117)。
下町の一軒家である吉本家は野良猫、家猫が入り乱れていまして、ぼくが知らないだけでしょうが、猫というのは慢性鼻気管支炎、腎不全、肝不全、エイズ、伝染性白血病、胃がん、脳腫瘍や交通事故などでどんどん死んで行くんですね。
《暖かい部屋で安心しきって眠る仔猫を見ていると、涙が出てきます。それは飢えと寒さの中で、人知れず死んで行った兄弟たちへの涙です》(p.144)というんですが、野良猫の生存率というは本当に低いそうです。生みっぱなして子育てを放棄する母猫もいますし、クルマにひかれて死ぬ猫も多い。
《生きているすべてのモノは、食う権利があるのです。生きている限りは手厚く、そして避妊は非情に》というのがハルノさんの方針とのこと(p.166)。避妊手術は増えたら困るというよりも、仔猫たちがすぐに死んでしまうのを見るのが辛いからだそうです。
父・吉本隆明さんは病院で亡くなる4、5日前に「どこだって同じだよ」と語っていたそうですが、《病院だろうが、畳の上だろうが、コンクリートの地面だろうが、犬も猫も人も、すべての生き物は、死ぬ時には必ずたった”独り”。場所はどこだって同じなのです》という考え方があるのかもしれません。
動物病院の看護師さんは強者揃い、つーか、そういう人しか残らないのか?というのを読んで、真っ先にアタマに浮かんだのは、人間の病院だけど、広島サポの方でありますw
開店休業状態にあるとは本職はマンガ家。猫の表情、動作が見事に描かれたイラストが素晴らしいです。
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