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January 29, 2015

『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』

Takarazuka_strategy

『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』森下信雄、角川oneテーマ21新書

 100周年記念のイベントをすべて無事に終えた宝塚歌劇団ですが、100年以上も続く劇団というのはなかなかありません。新派は離合集散を繰り返していますし、民芸だって発足は戦後。だいたい、ちゃんと劇団員を社会保障に入れて給与を支払っているような劇団はいくつあるんでしょうか。

 もちろん、宝塚が100年続いたのは連結売上高で7000億円近い阪急阪神ホールディングスを親会社にもっているからではありますが、そうはいっても独立採算を求められる時代ですので、キチンと利益を出し、連結決算にも貢献していかなければなりません。

 宝塚歌劇団は発足当初からの幸運なリソースを活かしつつ①歌劇作品を「創って作って売る」効率的な垂直統合システム②興業ビジネスで最も重要な「自主制作」「主催興業」の質・量両面での充実③卓越した独特な著作権管理手法④地方での興行を上手く取り込んだ実質的ロングラン興業戦略の実践―というビジネスモデルを構築したと著者は書いており、しばらくは安定した経営を続けていけそうです(もっとも著者があげている4点のうち、著作権管理手法については?なんですが)。一般の男性サラリーマン向けに書かれた本ですが、宝塚ファンにとっても、知っていた情報の整理という面だけでなく、思い込みを修正してくれたところも多く、楽しめました。

 以下、ランダムに。

 タラジェンヌは基本、いつかは退団しますが、その話は各組をまとめる年長の組長・副組長ではなく、男性プロデューサーにまず相談するそうです。《同性よりも異性の方が相談しやすいという女性のみの劇団ならではの事情もあるのではないかと思います》とのこと(p.17)。

 年間スケジュールを策定するのは阪急電鉄歌劇事業部(p.21)。それを基本に宝塚歌劇団、宝塚舞台も交えて調整する、と。その場合、機密事項であるトップスターの退団が決まっていたら、団体客の貸切公演を極力減らして利益率を上げる、と。

 一度に10人近くが退団することもあるが、2番手、3番手、新人公演主演経験者などが抜ける場合は、あらかじめ他の組から補充しなければならないという理由で組替えが行われる(p.24)。

 土日祝日に実施する貸切公演は、チケット代の利益率は落ちるものの、土産物を中心とする物販や飲食面の販促でカバーするとともに、平日公演に個人客を誘導することで、全体の稼働率を上げることが目的(p.29)。

 発足当初(創立は第1次世界大戦の始まった1914年!)、宝塚歌劇は利益計上することは求められず、鉄道へ
の旅客誘致が主目的だったので、公演回数の拡大を進めやすかった(p.41-)。公演回数を可能な限り増やして宝塚温泉に旅客を誘致するという目的のため、大劇場周辺に衣装・道具の製作場所、劇団事務所、稽古場、スタジオ、音楽学校といった関連施設を集中させ、それによって「創って作って売る」効率的な垂直統合システムが形づくられた、と(p.44)。

 宝塚歌劇団は各組が宝塚と日比谷で1ヵ月ずつ公演を行うというスケジュールで動いているため、1公演当たりの制作費のコストダウンを図るためのロングランはできない。しかし、バブル期に乱立した「公共ホール」を活かした全国ツアーによって、実質ロングラン化を図っている(p.46)。

 ハコモノ行政のおかげで、1975年には520館だった公立ホールは1996年には1870館と3倍に増えたといいます(p.47)。上演ソフトが慢性的に不足している地方ホールにおける宝塚歌劇興業の位置づけは相当高いというか、羨望の的だそうです。

 ただし、地方の興業主にとってチケット販売は重要なので、こうした全国ツアーにはトップスターや2番手、3番手などの「スター口」を揃えなければならない、と(p.58)。

 地方のホールでは宝塚歌劇の公演を打てることは一種のステータスになっているそうですが、毎年やることは不可能であり、それがまた宝塚のブランド価値を高めている、と(p.72)。中日劇場と博多座は毎年、1ヵ月単位での公演を行っていますが、博多座は大階段まで自前で用意しているそうです。

 また、地方公演では宝塚らしい「芝居+ショー」の2本立てが求められるというのは意外でした(p.78)。宝塚の収支的には、1本モノの方が衣装代その他が安く済むそうで、できればバウや梅田芸術劇場での1本モノ公演をもっていきたいそうですが…。

 新人公演経験のスター候補生にとって、次なるハードルはバウ主演ですが、2番手からトップになるためにはバウ+日本青年館という「東上」が実現することが重要だと言われています。それは、バウの3倍近い席数をファン・クラブとともに埋め、さらに本公演(宝塚大劇場、東京宝塚劇場)でのチケット販売にも貢献することを証明し、トップ候補としての実力を示さなければならないためだ、と(p.80)。

 また、900席の梅田ドラマシティ劇場を埋めるにはファンがつききっていないという若手スターの事情にあわせ、Wキャストで公演を行うそうです(p.82)。

 そして、約80人ほどで構成されている各組の半分ぐらいが全国ツアーをしている間には、若手スターたちが、やや実験的な作品を宝塚大劇場内(座席数2550席)に併設されているバウ・ホール(同526席、bow:船首の意)で小規模な公演を行って経験を積んでいく、と(p.61)。

 しかし、バウ公演単独では収支が取れないので、日本青年館に同じ公演をもっていくわけですが、青年館は1300席とキャパシティが多く、東京宝塚劇場(2069席)もあるのでチケット販売は苦労する、と(p.63)。

 今後、開拓する分野としてはアジア市場と、これまでは退団しっぱなしだったOGたちのマジメント、さらには台本読みや立ち稽古の有料化だとしていますが、さっそく今夏には台湾公演が半月にわたる14公演で2万1000人の観客動員を見込んでいるというのは、さすがだな、と。

 宝塚のファン・コミュニティは学校、会社、地域でもない「自らの尊厳を奪われない場所」を提供する意味もあるというのも、なるほどな、と(p.133)。

 週末に初日が開いた次の月曜日からの週の平日がもっともチケットの売り上げが悪いというの知らなかった。今年は100周年なので売れまくっているけど、次の友の会の抽選は、これ中心に申し込むぞ!と決意しました。

 森下さんはプロ野球のクライマックス・シリーズによって、なんとかして1位か2位に入れば、主催者として満員御礼確実な興業を打つことができ、チケット、物販、飲食、放映権販売だけでなく、冠スポンサー収入も期待できると主催興行の重要性を書いています(p.64-)。Jリーグも来期から2シーズン制にすることで、各チームに対して優勝決定戦に進出するだけでなく、上位に食いこんで満員御礼確実な試合を主催させるモチベーションをあげ、収益の最大化を促すことによる競争活性化を狙っているんだと思いますが、サポータからは「真の王者を決めるシステムにはなりにくい」など子どものような議論しか聞こえてこなかったのには驚きました。ぜひ、この本を読んで、収益をいかにあげていくかということを勉強したらどうかと思います。

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