« 『球団と喧嘩してクビになった野球選手』 | Main | 『マーラーを識る』 »

December 29, 2014

今年の一冊は『現代秀歌』

Gendai_shuka

 年末に、今年読んだ本をまとめないと、ただでさえ忘れる一方なので、今年もやってみます。

 個人的に得た最大の知見は中山茂先生の科学史。『一科学史家の自伝』作品社は今年、もっとも熱中して読んだ本ですし、『パラダイムと科学革命の歴史』講談社学術文庫も勉強になりました。パラダイムで大切なのは、大きな科学上の転換の後、その学説を支持する学者集団が成立して、そのパラダイムに沿って様々な問題が解かれ、そこからさらにニッチな問題も次々と解決されまくっていく「通常科学」の凄さだ、と。反対に文系はパラダイムが弱いから、学説が崩れると、すぐに、根本に立ち戻って研究しようとするから、ハカがいかない、というあたりはなるほどな、と。あと、これまでずっと「凄いもんだ」と感心してきた山本義隆さんの業績も、こうした基礎的な科学史がないとできなかったのかな、と思いました。中山先生は14年5月10日に亡くなられましたが、デジタル化を手放してで絶賛する向日性が大好きです。そして、最後まで研究心を失わず、図書館を確保して勉強を続けた姿には感動しました。《世間が面白くない時は勉強にかぎる。失業の救済はどうするか知らないが個人の救済は勉強だ》(『獨逸語大講座』関口存男)という言葉とともに、中山先生のことを常に思い出しながら、これからもやっていこうと思いました。

 旧著では『海戦史に学ぶ』野村實、祥伝社新書を全ての読書家にお勧めします。読んだモン勝ちの本。

 新刊書もたいして読んではいないのですが、もう10年も続けているので、「今年の一冊」を選びます。

 ぼくの今年の一冊は『現代秀歌』永田和宏、岩波新書。

 好著『近代秀歌』の続編。百人一首を今年はことあるごとに読んでいます。かるたの札を買い、付いてきた解説書を持ち歩き、kindleには田辺聖子さんの解説を入れて、一首一首味わっています。なんで、こうした力を歌は持っているんでしょうか?。それは《歌は本来、「訴う」から来たものとされている。すなわちみずからの思いを、相手に訴える、聞いて欲しいと迫るのである》でしょうか(p.8)。そして古典だけではなく永田さんが紹介してくれる現代作家たちの歌も驚かされます。100人の作家の歌が紹介されて、ここでも百人一首という形がとられているのですが、衝撃を受けたのはふたり。それは石川不二子さんと宮柊二。戦争詠「泥濘に小休止するわが一隊すでに生きものの感じにあらず」などは衝撃でした。

 新刊ではこのほか、『大格差 機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』タイラー・コーエン、『エピジェネティクス 新しい生命像をえがく』仲野徹、『日本の雇用と中高年』濱口桂一郎、『日清戦争』大谷正が印象に残りました。

 以下は新刊について。

『大格差 機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』タイラー・コーエン、池村千秋訳、NTT出版
《私たちは財政均衡のために税金を大幅に引き上げることも、社会保障給付を大幅に減らすこともせず、その結果として、多くの働き手の実質賃金が下落し、新たな下層階級が出現する。それを回避する手立ては、おそらく見いだせない》と悲観的な見方をしていますが、《けれども、その未来は奇妙に平穏な時代だ》というあたりが新味。社会保障、セーフティ・ネットは財政難で維持できなくなるでしょうが、貧困層や高齢者たちは住宅コストの安い地方に移動して自衛するだろう、と。だから政府は最低限の娯楽としてのインターネット環境を与えるようにさえすれば、あまりインフラ整備におカネをかけずにすむ、と。富裕層に対する増税は行われるにしても財政悪化は避けられず、貧困層向けの社会保障や医療サービスは削減されるが、投票率が高い高齢者向けは温存される、と。なぜなら、貧困層向けに税金を使うより教育、インフラ、司法、警察に使う方が有権者の受けがいいから、と。著者タイラー・コーエンはハイアマチュアのチェスプレーヤーで、スマートマシンと人間の協業による生産性の高さをチェスプログラムを例に説明していますが、なんか影響されて、iPhoneでチェスばかりやっています。

『エピジェネティクス 新しい生命像をえがく』仲野徹、岩波新書
エピジェネティクス(epigenetics)はギリシャ語の接頭辞で「後で」「上に」という意味のepiに遺伝学を意味するgeneticsを付けた言葉で《遺伝子の上にさらに修飾が付加されたものについての学問》であり、DNAの塩基配列の変化をともなわずに、染色体における変化によって生じる、安定的に受け継がれうる表現型。DNAの足場と考えられていたヒストンに、いろいろな修飾がほどこされてコードとして働いている云々あたりは難しかったのですが、概念だけでも知ることができて嬉しかった。

『日本の雇用と中高年』濱口桂一郎、ちくま新書
 日本は企業がスキルのない若者向けに新卒一括採用という入社の入口を作ってくれたおかげで、別な入口から就職することが極めて難しくなってしまい、運の悪い中高年や若者は、いったんそこからこぼれ落ちると、それがスティグマになり、這い上がれなくなる、というのが問題だと指摘。ホワイトカラーの生産性が給与の上昇ほどには上がっていないというこに経営者が気がついて、給与が年功序列で自動的に上がっていく「まず中高年から狙い撃ち」という解雇方針をとった、と。結局、提言しているのか日本の大企業が90年代から導入してきた「社員2」(職務、勤務地、労働時間が限定されている正社員)をジョブ型正社員と読み替えて、中高年期からこうしたトラックに移行させようというものなんですが…。

『日清戦争』大谷正、中公新書
日清戦争の発端っとなる李朝朝鮮の内紛って複雑怪奇で良くわからなかったんですけど、李朝のグダグダぶりが、王妃や皇太后の一族が政権を握る世道という制度に原因があったというのを知りました。早くも日清戦争で、後の南京大虐殺みたいなことが起こっているんでが、原因も南京と同じで中国兵が軍服を脱いで逃亡したからという。あと、日本の現地司令官は戦闘意欲が高すぎなんですよ。中国側の低さとは好対照。

『精神療法家の本棚 私はこんな本に交わってきた』成田善弘、みすず書房
 《推理小説、SF、ポルノグラフィー、エッセイ、時代小説、碁と、私の読んできたものは所詮あってもなくてもよいものばかりである。しかしそこには手仕事がある。そしてその仕事に練達するためには人は生涯を費やす》というあたりの正直さにハッとさせられ《人間というものは一人ひとり切り離された孤独なものだと思っていること、そしてそれにもかかわらず、あるいはそれゆえに、人とのつながりを求めてきたこと、そしてそれが満たされることが少ない人生だったということ、実はエロス的なものに非常に惹かれていることなどであろうか》(p.16)という静かな諦めの人間観に共感します。《女ことばを使うことによって、人は自分をより私的=パーソナルで、情緒的で受容的で、可塑性のある人物として造形することができる。接客業にはこのような人物が求められので、女性が多く就くのではないか》といったあたりにはハッとしました。ゲイバーのおねえことばもこの理論から説明できるかも。

『開発主義の時代へ 1972-2014〈シリーズ 中国近現代史 5〉』高原明生、前田宏子、岩波新書
 国内を固めた鄧小平は85年の中央軍事委員会拡大会議で「かなり長期間にわたって大規模な世界戦争は起こらない可能性」が大きいという「世界戦争可避論」を展開し、国防費抑制と100万人の兵力削減を実現し、同時に人民解放軍は失業対策としての営利性清算経営活動が本格化して、保利集団なんかが生まれる、と。今年のブラックジョークNo.1は香港の梁振英行政長官が「住民が代表者を選ぶようになれば、香港の住民の半分を占める月収1800ドル以下の所得層が決めることになる」と述べたことだと思うんですが、とにかく、社会主義の理想も、民主主義への尊重もないまま、01年には資本家の中共への入党がみとめられ、02年には中共が労働者階級だけでなく、中華民族の前衛だと規約が書き換えられていきます。まさに、中共は開発主義とナショナリズムに拠って立つ政党であることが明らかになった、と。中共の指導者たちが、和階社会の構築とかいう具体的な成果が求められる政策を後退させ、中華民族の偉大なる復興とかいう内容のないナショナリスティックなスローガンを前面に出すようになったのは、自民党のB層向けの戦略と同じだわなとも思います。

『100分 de 名著 旧約聖書 神が動くのを待つ』加藤隆、NHK出版
 アケメネス朝ペルシャは本格的な世界帝国で、各地の少数民族を武力だけで統治するのは困難だと悟り、ユダヤ人たちもエズラが中心となったまとめた基本となる「五書」をペルシャ政府に提出。そうなると、こうした掟が「二度と書き換えられない正典」となってしまった、と。同時に誰も完璧に遵守することができない体系が出来てしまい、民は永遠に罪の状態に置かれることになります。しかし、誰も救われないなら、無駄な努力はしない、という状況をつくってくれたともいえて《「律法主義」は「世俗化」した社会をつくる強力な装置になっている》というのは途中ですが、素晴らしいまとめだと思いました。

『ヒトラー演説 熱狂の真実』高田博行、中公新書
 ヒトラーの演説はジェスチャー、舞台、ラウドスピーカー、ラジオによってエンハンストされていくんですが《受け手に伝播させるメディアがあっても、受け手に聞きたいという強い気持ちがなければ、その潜在力は顕在化しえず、受け手を熱くできなかった》というのが結論。ナチス政権は日本の大本営よりも、スターリングラードの敗北などを含めて、よほど戦況を正しく国民に伝えているんですよ。そこだけは大したもんだと思いました。スターリングラード攻防戦でヒトラーに介入されたマンシュタイン元帥がヒトラーの演説にヤジを飛ばしたなんていうあたりも、さすがプロイセンの軍人だなと思うと同時に、日本とは違うなと感じます(p.252)。

『世界の見方の転換 3 世界の一元化と天文学の改革』山本義隆、みすず書房
1572年の超新星によってアリストテレス的世界への疑義が高まり、ティコ・ブラーエが厳密な観測によって、新たなコペルニクスと地動説を融合したような太陽系モデルを提唱するのですが、それをケプラーが最終的に美しく太陽中心の太陽系モデルを打ち立てることで克服し、さらには惑星軌道を厳密に計算することによって、それは円ではなく楕円軌道であるということを証明し、最終的に思弁的な論証知の体系としてのアリストテレス自然学が克服された、という軌跡を描いていきます。そしてガリレオたちの実験思想から科学技術という思想が生まれ、西洋の優位が確立された、ということで大団円。

『世界の見方の転換2 地動説の提唱と宇宙論の相克』山本義隆、みすず書房
コペルニクスにとって天文学の研究は文献渉猟でもあった、と。そして、その背景には書籍印刷の発達があり、彼の『回転論』の普及にとっても決定的な役割を果たしたというのは『16世紀文化革命』のあたりにも通じています。やがてそれが地上世界(月下の世界)と天上の世界(月上の世界)という二元的世界像を壊し、同時に卑賤-高貴のような価値序列も含んでいるような太陽を含む神聖性を破壊。コペルニクスの革命は《地球を惑星に仲間入りさせることで天体と同列に扱ったことにより、天上から地上へと連なる貴賤のヒエラルヒーを破壊した》と。地球が不活性で賤しい物質ではなく、能動的な活性原理を持つ物質だという地球の運動に対する自然学的根拠は、コペルニクスの死後半世紀のちのギルバートによる地球が巨大な1個の磁石であるという発見であったあたりは『磁力と重力の発見』。

『世界の見方の転換1』山本義隆、みすず書房
 最初に解説される天動説のプトレマイオスの精緻な数学には驚かされました。古代の数学さえなかなか理解できないダメな文系脳ではありますが、プトレマイオスが乗り越えられるまでには1300年ぐらいかかったわけで、中世の人間たちが、自分たちは遠くグレコ・ローマンの天才たちには及びも付かない人間に成り下がってしまったという劣等感をはからずも共有することができました。プトレマイオスの天文学を超えようとする動き占星術から始まりますが、アウグスティヌスのおかげで占星術(星占いとは違う)が否定され、事実上、聖職者に限られていた知識人から、数学、天文学の知識が失われ、スコラ哲学が蔓延する代わりにハプスブルグなど世俗の権力で実学として数学などが隆盛となるというのが見たて(p.156-)。

『悪の出世学 ヒトラー・スターリン・毛沢東』中川右介、幻冬舎新書
 毛沢東は江青に籠絡され、長征での疲労からモスクワで療養している妻・賀子珍と離婚の上、4人目の妻に迎えると宣言。その時、毛沢東は朱徳や周恩来から野望の塊であった江青を《結婚後二十年間は党務と政務に関与させないという誓約》をさせられていたんですが、江青はその時期が来たら毛沢東に女性関係を黙認するのと引き替えに政治活動を認めさせ、文化大革命による大混乱をもたらした、と。スターリンとヒトラーは当局のスパイだった可能性も高いな、と改めて思えてきます。二重スパイの可能性もあるんですが、スターリンは銀行強盗事件でも、逮捕を免れています(売春宿を経営して上納していたのは知りませんでしたが…p.41-)。スターリン篇は秀逸。

『ホロヴィッツの遺産』石井義興、木下淳、アルファベータ
 中川右介さんはノンフィクションの菊池寛といいますか、ひとり文藝春秋みたいな活躍をしているな、と感じる。アルファベータを大きな会社にするというか、大きな媒体にすることは難しいかもしれないけど、身体に気をつけて来年も頑張ってほしい。

『半自叙伝』古井由吉、河出書房新社
 旅行中の宿でヘルダーリンの詩を読むうちに《これはギリシャ語のおさらいをしないことに音韻からしてわからないなと思い立ち、帰って文法のおさらいから始め、どうせ三日坊主と思っていたら案外な御辛抱で、アイソキュロスとソポクレス、ピンダロスまで読むことになり、後に前ソクラテスの哲学者たちからホメロスにまで及んだ。読んでたどたどしいながらの恍惚感があった》というあたりは「わかるな」と。《狂いに落ちる過程をたどることはまだしもできても、狂いから立ちなおる過程を追うのは、これこそむずかしい》というあたりは、中井久夫先生の寛解過程の話しにも通じるかな、と(p.153)。

『戦後左翼たちの誕生と衰亡 10人からの聞き取り』川上 徹、同時代社
 印象に残ったのは内ゲバがエスカレートしていった原因について「権力〈警察〉を認めないわけだから、抑止の力は〈当価報復〉という当事者の力ということにならざるをえない」というあたり(p.82)。

『孤独のグルメ 巡礼ガイド』扶桑社ムック
 年末のテレ東はかつてテレビ朝日がドラえもんに、TBSが水戸黄門に頼ったように『孤独のグルメ』に頼り切っていますが、そのガイド。感動したのがファンの振る舞い。《みんな騒がないんだよね。"五郎を演じて"いて、注文するときには静かに手をあげて「すいません」ってやる》《誰かが片づけを自分で始めたら、みんなが後に続いてやってくれたんだって。「もう涙が出るようだった」って言ってました》《主人公をそういう男にしてよかった》と。

 以下は旧著。

『海戦史に学ぶ』野村實、祥伝社新書
 読んでくださいとしかいいようがなく、全ての頁の情報が有益です。近現代戦というのはシーレーン攻撃みたいに圧倒的な武力によって、商船隊とか兵員輸送船みたいな抵抗出来ない部分を叩きまくり、国力を弱体化させることなんだな、と改めて思いますね。筆者の太平洋戦争の評価は《日本の敗戦の最大要因は、B-29の対日戦略爆撃を防止できなかったことと、シーレーン防衛に失敗したことである。シーレーン防衛に失敗した理由は、空母を中核とする海上の主作戦と対潜作戦に敗退したこと》と明快。アメリカが日英同盟にあくまで反対したのは、ワシントン条約で5:5:3の比率にして日本の軍艦の比率をさげても、日英同盟が存続したままでは、いざとなると日英8米5になるとして反対していたんだそうで、こんなにわかりやすい説明はありませんでした。


『全体主義の時代経験』藤田省三、みすず書房
 試練に耐えて獲得された物には成就の喜びや「物語」を伴うが、完成された製品によって営まれる生活圏は経験を生まず、「成就ではなく一過性の享受」の楽しみしかもたらない、と(p.8)。自己克服の喜びがなくなると《競争者としての他人を「傷つける喜び」が衝動として現れる》ことにもなる、というのが第一論文『「安楽への全体主義』。第二論文『全体主義の時代経験』は二十世紀はナチスのユダヤ人迫害のように社会の内に居場所を持つことが許されない者を大量生産、拡大再生産する政治体制を生み出したが、問題なのは、それが妖しげな大衆的「魅力」を持っていた、と。そこに動員されたのは「社会結合なき大衆」であり、知識人でさえ《無社会状況の中で方向感覚を失った「実存」の刹那決断主義が自暴自棄の衝動的熱狂をもって自らに対する「鉄の箍」を求めて飛び込んでいった》と。

『塩一トンの読書』須賀敦子、河出文庫
 フェリーニの『アマルコルド』への愛から、フェリーニと同じロマーニャ人の《とんでもないバカ芝居に国ぜんたいが巻き込まれたのがイタリアのファシズムの本質だったという意見を、何人かのイタリア人から聞いたことがある》というところにもっていく呼吸うなります。谷崎潤一郎の『細雪』の分析も美しかった。

『子どもたちに語るヨーロッパ史』ジャック・ル=ゴフ、ちくま学芸文庫
 思い切って略しているから、スペインのムスリムがイベリアを去ると、トルコ人がビザンツに到来したとか、十字軍的熱狂がヨーロッパ社会で共存していたユダヤ人に対する迫害を生んだなどの巨視的な関連性や、十字軍がヨーロッパにもたらしたものアンズだけとかイタリアとドイツという国はフランス、イギリスと比べて安定性と一貫性に欠ける若い国だなどと大胆に語っているのが新鮮。

『トレーダーの発想術 マーケットで勝ち残るための70の箴言』ロイ・ロングストリート著、林康史訳、日経BP社
 著者が言いたいことは、自ら欲すること、何を得たいのかを明確にせず、自らを欺いて、助けとなる情報サービス会社やブローカーに出遭うことを期待する人がなんと多いことか、ということ。「金で金を儲けることは難しい」ということなんでしょう。《完璧に予測できるということなど認めまい》《よいトレーダーは、自分の意見に固執しすぎることはない。完全に確信しているのは愚かであり、盲信するのは間抜けである》《自信過剰は、成功に必要な謙虚さを失わさせる》というあたりはしびれます。なかなか出来ませんが「最初の損が最も小さい」というのも本当だな、と…。

『読書脳 ぼくの深読み300冊の記録』立花隆、文藝春秋
『プーチン最後の聖戦』によるとプーチンが戦っているのはドル体制で、『通貨戦争』によると中国は人民元をドルペッグとしているので年率5%のインフレが生じ、中国はドルペッグを維持すればインフレが進行し、人民元を切り上げれば労働コスト上昇で外資が流出するというジレンマに陥っているということを考えると、ドル体制にチャレンジした両国のいまの苦境がわかります。

『指導者とは』リチャード・M・ニクソン、文藝春秋ライブラリー
 《偉大な指導者と呼ばれる人たちの大部分は、自分なら他者よりもはるかに巧みに権力を行使できると信じ、行使するために権力を欲した人々なのである》《陰険、虚栄、権謀術数などは一般的に悪とされるが、指導者にはそれはなくてはならない。ある種の陰険さがなければ、たがいに対立する派閥をまとめていくという政治に不可欠な仕事はできない》《学者は、うわべだは高潔だが、かといって心の底から高潔かどうかは大いに疑わしい》《偉大な目標が他の場合なら許せない手段によってしか達せられないとき、それを使うな、と言うのもバカげている》なんてあたりも素晴らしい。ただし《完全に私利ばかり図る者》はだめだ、と。
 リンカーンが1864年の手紙で《マキャベリの書いている現実が、まさにいつわりのない現実であり、人間が政治においてもビジネスや私生活においても、道徳を規範として行動しないからだ》と書いていたというのも初めて知りました。

『球団と喧嘩してクビになった野球選手』中野渡進、双葉文庫
 好きな言葉は《足りない部分は気合いで補う。それは野球も同じだ》。共感します。

『さおだけやはなぜ潰れないのか』と宝塚山田真哉、光文社新書
 面白いな、と思ったのは企業というのはゴーイング・コンサーン(継続性)が大事だというあたりと、世の経済書というのは売上増かコストダウンしか扱ってないし、企業の利益を増やすのは、このふたつの方法しかない、というつかみのあたり。あとは、「負債」「資本」「費用」「収益」は目に見えるものではないが、わざわざ数字にしているのは、義務や権利を計算に入れ、「売上」や「給与」といった受け渡しや使途も帳簿に記録することで多目的に会社を知ることができる、というあたり。

『ニューヨーク美術案内』千住博、野地秩嘉 (著)、光文社新書
美術館は壁が大事だとか、使っている絵の具に注意とか、50cmの距離から見ると、画家が描いていた時の視点に立てるとか、目ウロコ話しが満載。いまの時代の贅沢とはモノを持つことではなく、《楽しみ方を教えてくれる人、快感を伝えてくれる人と過ごす時間》というプロローグの野地さんの言葉に深く肯く。

『現代美術コレクションの楽しみ 商社マン・コレクターからのニューヨーク便り』笹沼俊樹、三元社
リーマン・ブラザーズのリチャード・ファルドCEOが倒産寸前に売りに出した玄人はだしのコレクションの件が面白かった。なにしろ、アーシル・ゴーキーが4点、ウィレム・デ・クーニングが3点、バーネット・ニューマン5点、アグネス・マーティン4点という玄人はだしの内容。アグネス・マーティンはぼくも好きですが、作品点数が少なく、需要は高いので、すでに贋作が出回っているとのこと。すごい世界だな、と。

 今年はやたら宝塚に関する本も読みました。

『タカラジェンヌの身体になりたい』天咲千華、祥伝社
 タカラヅカニュースの舞台稽古などを見ても、娘役さんたちは異常に痩せていて、腰を持ってのリフトなんかを見ても50cm台じゃないかな…と思うような人もいるので、薄々感じてはいたものの「娘役さんたちは、こんな日々を送っていたのか」と驚きました。

『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか 観客を魅了する「男役」はこうして創られる』中本千晶、東京堂出版
《本来は営利を追求すべき私企業が、あまり儲けにはつながらない舞台興業を、愚直なまでに淡々と続けてこられたことには頭が下がる。もしかしたらそれは、雨の日も風の日も、ダイヤどおりに安全に列車を運行し続けることが最重要である鉄道会社だからできたことなのかもしれない》というのはなるほどな、と。

『なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか』中本千晶、小学館101新書
 宝塚はディズニー映画にも似た健康的なお色気を楽しめるというのがポイントなのかも。

『ヅカファン道』中本千晶(著)、牧彩子(イラスト)、東京堂出版
 ファンクラブが劇場への送り迎え、お茶会と称するシティホテルの大宴会場を借り切っての交流会などを組織するようになったという姿は、ドラッカーが「非営利組織」の重要性を語っていった時代とパラレルかも。

『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判 乙女の花園の今』山下教介、鹿砦社
 文章だけ読めばSさんも可哀相だな…と思わされますが、最終的に裁判を起こして卒業だけは勝ち取った後にAVデビューしたことを思うと、虚しさが漂います。

『宝塚読本』中本千晶、文藝春秋
 歌舞伎との比較で「日本人はカッコ良ければ全て許す体質を持っている」として、多少牽強付会で強引な筋運びでも許されてしまうというあたりはなるほどな、と。

『師匠噺』浜美雪、河出書房新社
一番笑ったエピソードはやっぱり談志。ある日、志の輔師匠が猛スピードで飛ばせと命令され、「免停になります」と言ったら「俺が知り合いの元防衛庁長官に電話してもみ消してやる」というんでその通りにしたら、案の定パトカーに捕まってしまった、と。もちろん談志は掛け合うけど、もちろんやんわりと断られる、と。その対応に怒った談志は「交通違反のひとつももみ消せねえで、国が守れるか」と怒鳴ったそうです。

『フットボールde国歌大合唱!』いとう やまね、東邦出版
 そういえばワールドカップがあったんですね…。

『聞書きブント一代 』石井暎禧、市田良彦、世界書院
 《80年代まで日本の医療費はGDP比で世界20位で異常に効率が良かった。そのおかげで、平均寿命が伸びて、高齢化社会が来てしまった》p.273という見立ては、なるほどな、と。医療費が40兆円を超えて税収全体に近くなってきた今、北欧のように《食事の自力摂取が出来なくなったら治療しない、だから寝たきり老人もいない》みたいな方向に向かわざるを得ないのかも。医療は商品ではないから、保険制度によって《医者と患者はサービスと金銭を直接には交換しない》という原則があるというのは目ウロコでした。

『本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー』竹村公太郎、PHP新書
 「京都議定書は詐欺にあったようなもの」とか、
日本人は細工をしないと『不細工』と言うし、詰め込まないと『つまらない』と言う。細工をして縮めることは日本人の美意識になってしまった、というあたりも本質を突いた言葉だな(p.101)。

『戦前日本の安全保障』川田稔、講談社現代新書
 日本は日露戦争をなんとか講和に持ち込み朝鮮と満州の権益を確保しましたが、それによって米国と中国市場をめぐり対立することになり、山縣は戦ったばかりのロシアに活路を求め、日露協商によって中国の権益を米英から守ろうとしたんですが、ロシア革命でこの構想は水泡に帰した、という内容。

『宗教と権力の政治「哲学と政治」講義2』佐々木毅、講談社学術文庫
 ヨーロッパでは中世の《信仰共同体が分裂したにもかかわらず、信仰共同体第一主義だけは残った》という問題から、カトリックvsプロテスタントによる内戦が各地で起きたけど、その悲惨さから権力も宗教には介入しないという社会のモデルも生んだ、と。

『三島由紀夫と一九七〇年』板坂剛、鈴木邦男、鹿砦社
 ポール・シュレーダーの撮った『MISHIMA: A Life In Four Chapters』のDVDが付録で付いてるからと買いましたが雑紙「薔薇族」に寄せた美少年に見取られて切腹する体育教師という『愛の処刑』を読めたのは幸いでした。川端康成は睡眠薬中毒で晩年はまったく書けなかったらしく『眠れる美女』『山の音』は三島の代筆とか言っているのは本当なのかな…。

『中学生への授業をもとにした 世界一簡単な「株」の本 「お金に困らない子」はこうして育つ!』松本大監修、竹川美奈子
 少し古い本ですが、7人の子が運用レポートを書いていて、利益が出たのは1人というのは、「敗者のゲーム」をよく表していると思います。

|

« 『球団と喧嘩してクビになった野球選手』 | Main | 『マーラーを識る』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/60886304

Listed below are links to weblogs that reference 今年の一冊は『現代秀歌』:

« 『球団と喧嘩してクビになった野球選手』 | Main | 『マーラーを識る』 »