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October 27, 2014

『エリザベート』新人公演

Elizabeth_shiko

 『エリザベート』の新人公演を見てきました。

 主役の黄泉の帝王トート閣下を演じるのは柚香光さん(れいちゃん)。若い頃の美輪明宏さんのようなビジュアルが、オリジナルドイツ語バージョンでは「死」そのもののである「トート=Tod」の役にはまります。

  Todはギリシア神話に出てくる有翼の神Θανατοs(タナトス、Thanatos)からきているんでしょうか。とにかくれいちゃんは、ダークな衣装で現れたトート閣下が、死んだばかりのエリザベートを黄泉の国に誘う代わりに生き返らせて死を愛するように仕向け、最後は真っ白な衣装で共に雲に乗って去っていくラストまで、舞台に立っている時も、いない時も、常にその存在を意識させる強烈な支配力を発揮します。これだけ引きつけられる役者さんって、今は海老蔵ぐらいなんじゃないかな。

 とにかくれいちゃんが出てくるたびに、劇場中のオペラグラスがサッと上がります。

 これ舞台から見ると、どんな風景なんでしょうか。

 2069席プラス立ち見の観客のオペラグラスが自分に向けられるというのは。

 歌に難があるのは隠せないし、得意の踊りを披露する場面もなく、ただ妖しくエリザベートをはじめとするハプスブルグ家の人々にまとわりつき、滅亡に向かわせるダークな役を、圧倒的な存在感だけで演じきっていました。で、そうした存在としてのダークさが、最後に死を克服して、死を受け入れたエリザベートを迎え入れた後の歓喜につながっていくのかな、と。

 本公演のルドルフも、れいちゃんが演じると広がる闇の深さが違うというか、舞台に立つだけで、ブラックホールのようにすべてを引き寄せてしまう感じ。

 ビジュアルだけでなく、立ち居振る舞いが美しいというか、フワッと雲に乗るシーンだけでもカッコ良い。歩く姿も決まっている。驚きでした。

 これまで、「エリザベート」はルキーニの芝居だと思っていたんですが、やはり死を克服する人間と、それを祝福する死という大きな流れがプロローグからエピローグまでを貫いているんだな、と思いました。それを初めて気づかせてくれたのが柚香さんのトートだったかな、と。

 とはいっても、エリザベート暗殺犯にして舞台の狂言回しをつとめるルキーニは魅力的。これまでルキーニを演じた役者すべてがトップに上りつめていますが、特に歌唱力が求められる役でもあります。宝塚は歌劇だから歌は大切。水美舞斗(マイティ)は、本公演のためか、新人公演のルキーニ役のためか、7~8kgは痩せたんじゃないかと思いますが、顔にシャープさが出てきていました。日経で植田先生が「私の履歴書」を連載しているんですが、役者を育てるには《芽を出しそうな頃合いを見計らって、資質に合った役に就けること》と書いていることが、その通りだな、と(連載18回「スター育成 芽出す頃、見計らい配役 新人公演では上級生が指導」)。

 エリザベート役の花乃マリアさんは、クラシック唱法ではない地声でソプラノが楽々出る歌い手。でも、地声の高い声は、声帯をコントロールするのが難しいのか、時々、不安定になります。でも、裏声に逃げる必要がないソプラノは魅力的。技術をあげていってほしいと思います。

 羽立光来(身長178cmの愛称ビック)と峰果とわさんの唄の上手さには驚きました。二人は本役の専家さんや副組長より圧倒的に唄が上手いかも。

 若手では革命家カロリィの綺城ひか理さんが綺麗になったな、と。舞台挨拶で前列一番下手に立っているだけで、背の高さと美しさが光りました。

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