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October 06, 2014

『鰯売恋曳網』

Iwasi

 鰯売恋曳網(いわしうり こいのひきあみ)を見物してきました。

 松竹も八月納涼歌舞伎で谷崎潤一郎の『恐怖時代』を久々に上演したし、十月大歌舞伎では三島由紀夫原作の『鰯売恋曳網』をかけるなど、昭和の文豪系の作品は古典並みに積極的に上演していこう、ということなんでしょうか。この姿勢や良し。

 とはいっても同じ午後の部は、何回上演したら気が済むんだとウンザリする菅原伝授手習鑑の寺子屋や、傘寿を過ぎた役者が静御前を舞うというキビシイ内容でしたので、見物したいのは、鰯売ぐらいでした。金曜日に行ったんですが、けっこう空席が目立っていたというか、団体客が多く、拍手のタイミングも違ってきて舞台が盛り上がらないですよね。掛け声かける大向こうの会の人たちは唯我独尊だし…。魅力のない演目や役者陣が続くと建て替えた歌舞伎座も輝けない日が来るような気がしてなりません。

 この作品は三島由紀夫が猿源氏草子を元にして書いた新作で、新作なのに浄瑠璃も入れて丸本らしい体裁整えています。才気煥発に愛する六世歌右衛門さんのために書いた本なんでしょうが、たいしたもんだな、と思ったのはちゃんと、ゆったり時間が流れていること。現代人がイライラしない程度にゆったりと物語は進み、途中の「軍物語」あたりは一気呵成に見せるなどメリハリもきいているのは、さすがだな、と。挿絵なんかも参考にしていたりして。

 筋書きの上演記録を見て驚いたのは。一応、主人公となっている猿源氏は先代と先々先代の勘三郎しかやってないこと。今回は勘九郎なのでこの追善興行の、この狂言で、中村屋的には勘九郎が十九世勘三郎を継ぎますよというアピールなのかもしれません。

 まあ、歌舞伎の世界というのは政治なんだな、と改めて思ったりして。

 さらに驚いたのは、恋の相手の蛍火も歌右衛門さまと、玉さまだけか演ってないんです。公式記録に残るような話しではありませんが、三島は歌右衛門さんに恋して作品を捧げたので、三島が生きている間に蛍火を演じたのは歌右衛門さまだけ。歌右衛門さまは、三島の自死の2年後の1973年に供養でもするかのように蛍火を演じたのを最後に、その後、蛍火を演じたのは、三島が贔屓にして新作『椿説弓張月』で抜擢した玉さまだけ。歌右衛門さまは玉さまに何かを託したんでしょうかね。

 外から見て気軽だったとしても、役者を見る目は大したもんだというか、この二人しか自分が蘇らせた蛍火を演じさせていないというところに三島の狷介固陋なところを感じます。あと、女形の見せ方も映画的にやっていた印象も残りました。声だけ聞かせて、バーンと襖を開けて蛍火が登場とか。

 ということを踏まえると、七之助はいい女形だと思うけど大成駒と大和屋さんを継ぐというのは…。勘九郎が一度は名跡が途絶えた勘三郎を継ぐのは結構ですが、三島に認められた歌右衛門さまと玉さまのポジションを七之助が継ぐというのは…。

 児太郎なんかも含めて、今の若い女形には我慢できない感じというのが舞台から感じられるんすよね。その危うさもいいんだけど発散しちゃうから、内に秘めた危うさとかは出ないっつうか。身体の線もゴツゴツしはじめているのも気がかりでした。七之助が正岡やれるようになったら大したもんですが、いまは想像できない。

 まあ、十月の公演なら、玉さまが出ている昼か、これ。夜7時ぐらいからの幕見でぜひ、鰯売恋曳網を見てください!いろいろ文句はいってましたが、男の兄弟が、男役と女形で恋人同士なんて、凄いですよw

 とりあえず、勘九郎がますますオヤジの声そっくりになってきたな、というのが改めてわかった、今回の見物でした。

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