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September 03, 2014

『師匠噺』

Sishow_hanashi

『師匠噺』浜美雪、河出書房新社

 コムズカシイ本の感想をまとめる気力がないんで、間に読んでいた、こんな本を先に…。

 このインタビュー集は、弟子が語る師匠の話しで構成されています。

 赤の他人を家にあげ、タダで食べさせ、一人前の噺家にするための行儀作法を教え、落語の稽古をつけ、《プロとしてやっていけるよう、それとなく心を配る》。

 《自分の子供の子育てだけでも大変だろうに、なんでそんなに苦労してまで弟子を取り、育てるのか》。

 《その師匠とても、自分の師匠にそうやって育てられてきている。落語の師弟は何世代にもわたって、いわば芸の"ペイ・フォワード"を続けてきた》という「まくら」がいい。

 昇太が柳昇を語るのがいい。「うちの師匠は実はすごいファイターだったんです。だって輸送船の甲板から機関銃で米軍機を撃ち落とそうとした人ですから」。

 「わたくしは、春風亭柳昇と申しまして、大きなことを言うようですが、今や春風亭柳昇と言えば、我が国では、わたし一人でございます」という冒頭のマクラで必ず笑わせてくれた柳昇は、中国戦線で機銃掃射を受けて利き手の指を失い元の職場に復職することができずに噺家となったというのは有名な話し。日本会議代表委員などをつとめる右派の論客でもあった柳昇ですが、「戦争には勝たなきゃダメだね。それには敵のことをよく研究して、敵がもってない武器で戦わないといけないね。それは落語も同じだね」なんて教えてくれたというあたりはジーンとしました。

 小さん師匠を語る現落語協会会長の市馬師匠もいい。小さん一門は立川流も入れると120人。別に落語協会の会長が偉いわけじゃないけど、馬風、小三治、市馬と三代続けて柳家から出るのもむべなるかな。その源流となれたのは先代小さんが「万事素直」「自然流」だったからかも。市馬師匠が「うちの一門は弟子の個性が全部違う。その筆頭が立川談志師匠でしょう。ああいう弟子を生んだというのがうちの師匠の師匠たるところー中略ー多士済々の弟子を育てたことは本当にすごいと思います」というあたりは、今や別門になった談志のことをよく言ってくれたと思います。

 とはいっても、同じ小さん門下でも小三治師匠の弟子である喜多八師匠は大の談志嫌いというんですから、色々あるな、とw喜多八師匠の「志ん朝師匠の押すほうの芸なら、うちの師匠は引くほうを持ち味とした芸」というのは納得。喜多八師匠は志ん朝が好きだったけど、忙しそうだから小三治師匠を選んだと語っていますが、立川流とはそこが違うのかな。立川流は「談志になりたい」と思って弟子入りし、なれないことに絶望するんですが…。

 小さん門下の柳家さん喬と柳家喬太郎は、どちらも個人的には肌が合わない感じなんですが、ある日、納豆が嫌いだと言った喬太郎に、さん喬は昼飯のおかずに納豆しか買わなかったそうです。なんて意地が悪いんだろという思ったけど「お前は噺家になるんだから、お客さんや先輩のお付き合いで食事に行った時"あれが食えないこれが食えない"では通用しないんだ。だから、何でも食べられるようにしておきな」と諭すくだりはいいな、と。

 離婚した女房の持っていた家からおん出され、新しいアパートを借りる敷金を協会から辞める時の退職金であてるために廃業したという破滅型の春風亭小柳枝に弟子入りした瀧川鯉昇師匠の話は驚きました。なにせ、食べるものがなくて、庭に生えている食べられる草をむしるのが朝の仕事だったというんですから。廃業後は柳昇師匠の元に預けられるんですが、さすがの柳昇もあきれて1年ぐらい口を利いてくれなかったというんですね。そしたら、兄弟子がおかみさんに「みなしごでかわいそうだから、師匠にちゃんと口を利くように言ってやってください」と頼んでくれたそうで、ああ、いいな、と。

 一番笑ったエピソードはやっぱり談志。ある日、志の輔師匠が猛スピードで飛ばせと命令され、「免停になります」と言ったら「俺が知り合いの元防衛庁長官に電話してもみ消してやる」というんでその通りにしたら、案の定パトカーに捕まってしまった、と。もちろん談志は掛け合うけど、もちろんやんわりと断られる、と。その対応に怒った談志は「交通違反のひとつももみ消せねえで、国が守れるか」と怒鳴ったそうです。

 おあとがよろしいようで。

目次

笑福亭松鶴と笑福亭鶴瓶―「いっぺんに惚れてしもたんですよ」
春風亭柳昇と春風亭昇太―「歳取って、僕もこんな面白い生き物になれたらなあって」
柳家小さんと柳亭市馬―「師匠は死なないって思ってました」
桂文枝と桂あやめ―「私にとって師匠は神様なんです」
柳家さん喬と柳家喬太郎―「一番弟子っていいもんだなって」
古今亭志ん朝と古今亭志ん五―「だって、うちの師匠は宇宙人ですもん」
三遊亭圓丈と三遊亭白鳥―「師弟って結局は縁なんですよ」
春風亭小柳枝、春風亭柳昇と瀧川鯉昇―「僕は、長男になりたかったんです」
林家こん平と林家たい平―「スピリットを吸収したい」
柳家小三治と柳家喜多八―「そっくりって言われてもいい。弟子なんだから」
林家木久蔵と林家彦いち―「家が近かったから」
立川談志と立川志の輔―「談志が師匠じゃなかったら」

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