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June 07, 2014

『世界の見方の転換2』

Sekai_yamamoto2

『世界の見方の転換2 地動説の提唱と宇宙論の相克』山本義隆、みすず書房

 山本さんの近代科学史三部作の締めくくりをずっと読んでいます。で、ご存じの方は当たり前のことなので、ぼくが改めていうことは無知をさらすことになるんですが、近代科学史というのはアリストテレスがほぼまとめあげたギリシア以来の四大元素の克服という側面も含んでいると思います。

 月下の世界の物質は、軽い方から火・空気・水・土の4つの元素から構成されるとする考え方で、それより上の世界にはエーテルがある、というものでしたが、実は最も身近な自然現象である燃焼のメカニズムというのがよくわからなかったんですよね。

 山本さんには『熱学思想の史的展開 熱とエントロピー』というご著書もあるんですが、これも文庫本3冊という分量で、燃焼のメカニズムが解明されるまでの過程を解き明かしてくれています。18世紀に生きたラヴォアジェでも熱素(calorique)の存在を信じていたというのですから、燃焼と熱の原理を探る人類の旅がいかに困難を極めたものか、ということを教えてくれます。

 こうした熱素みたいな考え方が彗星の成り立ちについても適応されていて、地上から立ち上った熱素のようなものが月下の世界の上部で燃えていると考えられていたんです。でも、ハーレー彗星などの観測によって、明らかに月よりも高い位置にあることから、徐々にアリストテレスに基づいた世界観が崩れるというのが三巻なんですが、とにかくそうした世界観の破壊という要素もあったということで、まず二巻から…。

 二巻の中心人物はコペルニクス。

 重要な指摘は、コペルニクスにとって天文学の研究は文献渉猟でもあったという点(p.363)。そして、その背景には書籍印刷の発達があり、彼の『回転論』の普及にとっても決定的な役割を果たしたというのは『16世紀文化革命』のあたりにも通じています。

 『回転論』の序文での主張は1)暦法改革にとって月と太陽の運動の正確な予測が必要2)しかしアリストテレスの同心球理論とプトレマイオスの離心円・周転円は分裂している3)その克服には太陽系全体の構造的把握が必要だ、ということだとまとめられています(p.368-)。

 コペルニクスの太陽静止理論で初めて、惑星の動きに関して《合理的な理由が与えられた》といいます。あるいは《金星と水星がけっして衝にならない》ということも、コペルニクスに理論で説明が付けられた、と(衝とは太陽の反対側で、太陽-地球-外惑星と並ぶ時)。そして惑星軌道の並び順が水星、金星、地球、火星、木星、土星に確定された、と。

 それまで、例えばプラトンは月-太陽-水星-金星、プトレマイオスは月-水星-金星-太陽と考えていたそうです(p.381)。

 《コペルニクスは物理学者(自然学者)というよりは数学者であるが、しかし精度の向上を追求する観測者でもなければ、惑星の予報に徹する計算屋でもなく、彼の問題意識は実用的というよりは原理的であり、彼の改革はあくまで理論的な説明能力と原理的な一貫性の観点から進められたのである》というのが山本さんの見方。

 そして、それが地上世界(月下の世界)と天上の世界(月上の世界)という二元的世界像を壊し、同時に卑賤-高貴のような価値序列も含んでいるような太陽を含む神聖性を破壊した、と(p.432-)。コペルニクスの革命は《地球を惑星に仲間入りさせることで天体と同列に扱ったことにより、天上から地上へと連なる貴賤のヒエラルヒーを破壊したこと》だ、と(p.437)。

しかし、地球が運動している証拠は1725-28にかけてイングランドのブラッドリーが検出した恒星から来る光の方向が変動するという現象まで待たなければまりませんでした(p.453)。だから、コペルニクスの『回転論』が明らかにしたことは《太陽を中心とする宇宙の数学的記述が可能》だということを、プトレマイオスの『数学集成』以来1300年後に初めて行ったことだ、と。

 地球が不活性で賤しい物質ではなく、能動的な活性原理を持つ物質だという地球の運動に対する自然学的根拠は、コペルニクスの死後半世紀のちのギルバートによる地球が巨大な1個の磁石であるという発見であったことは『磁力と重力の発見』で山本さんが詳述しています(p.463)。

 コペルニクスは太陽系をシステムとして把握して、アリストテレス以来の二元論的世界観を否定したのですが、円軌道と等速運動という古代のドグマに囚われていた、というのが山本さんのまとめです(p.465)。アリストテレスの同心球理論を捨てない代わりに、地動説を持ってきた、という感じでしょうか。

 これ以降は教皇庁の権威に抵触しないようなまえがきのようなものをつけたりするコペルニクスの影響を受けた人々の物語になります。そして、これまではコペルニクスの革命的主張を弱めたとするオジアンダーの「読者へ」などは、実は本質的な不可知論にあったという評価を引いています(p.568)。正直、以降は細かいので略します。

 3巻までも含めて、経済上の理由から医学を学んで自立してから数学、天文学の研究をしていた人々が多いのかな、という印象。

 あと、プロテスタントの宗教改革はキリスト教の終末論に影響されたもので、印刷によって大量に飛び交ったパンフレットやちらしがヒステリー状況を生み出していった、みたいなあたりは、印刷技術以来の革命かもしれないインターネット時代の現代にも通じる話しかな、と思いました。

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