『世界の見方の転換1』
『世界の見方の転換1』山本義隆、みすず書房
東大全共闘議長だった山本義隆さんの近代科学誕生史三部作の完結編。《厳密な論証の技術を身につけた知的エリートの一部が、職人の世界で培われてきた経験主義的で実証的な研究方法の有効性と、そして得られる認識の有用性を認めることで、近代科学への道は開けていった》という三部作に通底する認識がまえがきで披露されています。
科学革命はルネサンスで学者と職人が同じ市民社会というルツボで相合し、インターナショナルな活動というスコラ的エートスを保持しながら、観察や測定によって論証の厳密さによってスコラ哲学的な学問を駆逐していったから、という感じでしょうか。
それまでの煮詰まった観念的なスコラ学から、《精密な観測にもとづきこみ入った計算によって論証される新しい科学としての天文学が形成されいった》ということで、レギオモンタナスからケプラーまでの展開がニュートンなどに先んじて世界と学問の見方の転換がなされた、と。
ということですが、最初に解説される天動説のプトレマイオスの精緻な数学には驚かされました。古代の数学さえなかなか理解できないダメな文系脳ではありますが、プトレマイオスが乗り越えられるまでには1300年ぐらいかかったわけで、中世の人間たちが、自分たちは遠くグレコ・ローマンの天才たちには及びも付かない人間に成り下がってしまったという劣等感をはからずも共有することができました。
それは《経験にてらして内容を吟味するとか、観察にもとづいて記述を検証するという姿勢》ではなく、「私は古代の慣行と様式を踏襲するものを無条件に賞賛する」というものでした(p.97)。
それにしても、三角関数で月との距離図るとか、少ないツールで古代の人はよくやったな、と思います。プトレマイオスは、緯度と経度で地球をグリッドで覆うことを『地理学』でやってるというし、すごいとしかいいようがありません( p.83-)。
さらに、アリストテレスの同心球理論に対し、観測によって離心円と周転円理論で妥協を図ろうとしていましたが、これは当時、アリストテレス的な自然学が、天文学よりも上だと見なされていたからです。ですから《中世までの天文学を改革するということは、たんに惑星の位置の計算にあたって宇宙の中心を地球から太陽に取り替えるだけではなく、自然学でありなおかつ数学的であり、原理的な基礎を有するとともに観測によって定量的に裏づけられる天文学なるものを新しく創りださねばならなかった》のであり、山本さんはその過程を描いていきます(p.82)。
プトレマイオスの天文学を超えようとする動きは意外な方向から始まります。それは占星術。そして《占星術の広がりは、同時に地球表面の各地点にたいする経度と緯度による正確な座標づけを必要とし、このこともまえ数理地理学の発展を促すことになった》と(p.178)。実はレギオモンタナスも占星術師としてハプスブルグ家の宮廷で認められていました(p.182)。
ハプスブルク家は、自分たちが創設したウィーン大学に神学、法、政治や外交、医学や医療まで相談していた、というんです。これによってドイツの大学には実際的で世俗的な性格が与えられたというんですね(p.102)。
その前はというと、アウグスティヌスのおかげで占星術(星占いとは違う)が否定され、事実上、聖職者に限られていた知識人から、数学、天文学の知識が失われ、スコラ哲学が蔓延するようになったというのが、山本義隆さんの見たてです(p.156-)。そしてハプスブルク家に仕えた占星術師たちは数学官Mathematicusと呼ばれていたそうです。
数理地理学の発展は大航海時代の要請によるものでしたが、それによって新大陸が発見されます。そして、新大陸が描かれていないプトレマイオスによ世界地図が否定されることによって、《古代崇拝・文書信仰の動揺》(p.322)が始まり、それが天文学による『世界の見方の転換』を促していった、というのが1巻の流れでしょうか。
また、15世紀のイタリアやフランスでギリシャ語を解読できる人間は極端に少なく、ビザンチンが西方にギリシャの古典を提供してルネサンスを生み出したというのはあきらかに眉唾」というEugenio Garinの言葉を紹介してくれていますが、まるほどな、と(p.191)。
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