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April 18, 2014

『ラスト・タイクーン』とアーヴィング・タルバーグ

Last_tycoon_poster

 宝塚歌劇団の花組公演『ラスト・タイクーン ハリウッドの帝王、不滅の愛』を見物してきました。

 過去最高の48.25倍という倍率の中で音楽学校をトップの成績で入学し、82期では首席を通したトップスター蘭寿とむさんのサヨナラ公演でもありました。歌・踊り・演技の3拍子が高いレベルで揃っている蘭寿さんですが、個人的に好きなのは浪々とした響く歌声。素晴らしかった!踊れる組長、高翔みず希さんの立ち居振る舞いに感激しました。決めのポーズ、踊りでも明らかに、一人、決まっている。特に身体の線が抜群にキレイ。

 でも、宝塚で一番好きなのはミュージカルでもレヴューでも、左右の花道まで組子が全員で並んで歌い踊るシーン。これだけは、ちょっと他の舞台では味わえないなと思います。

 舞台からキラキラ感が目に飛び込んでくるみたいな。

 それは約80人の組子がみんな「わたしを見て!」と全力で演じているからなんじゃないですかね。少しでもお客さんの目線を奪おうと目立ちながも、全体のバランスも考えながら頑張っている姿は感動ものです。

 宝塚はミュージカルが90分、30分の休憩をはさんで、レビューが60分という3時間の公演が基本。前半の90分というのはプログラム・ピクチャーの長さですよね。だいたい、普通の人間が集中できる時間も90分が限度。大学の授業の長さもこれですよね。少し物足りないと感じるぐらいが、ちょうどいいのかも。

 制約の中でも、ちゃんとアメリカ共産党の影響をハリウッドが受けた事実も描いているのはさすが。

 原作はF・スコット・フィッツジェラルドの未完の小説。そのモデルになったのは、ハリウッド創生期のユダヤ系プロデューサー、アーヴィング・タルバーグ。

 タルバーグはエーリッヒ・フォン・シュトロハイム、キング・ヴィダー、エルンスト・ルビッチなどの監督をアゴで使いこなしたと言われますが、プロデューサー優位の転機となったのは、シュトロハイムが7時間にも及ぶ上映時間にしてしまった『グリード』(1923)を2時間弱にぶった切らせたこと。

 ゴダールは『映画史』の中でたしか《それはシュトロハイムの敗北だったのか。いや、そうではなく映画の勝利であったのである》と語っていましたが、90分のミュージカルで描くタルバーグをモデルにした作品も、物足りないところもあるし、唐突と感じるところもありますが、ゴダール流に言わせれば「舞台の勝利」なのかもしれません。

 タルバーグは宝塚の舞台版『ラスト・タイクーン』でも触れられていましたが、ユニット単位での製作という手法を確立しました。

 驚くのはその多作ぶり。シュトロハイムとアート系の『グリード』『愚かなる妻』をつくったりしながらプロデューサーの地位を高め、最後にはマルクス・ブラザーズの『オペラは踊る』『マルクス一番乗り』などのスラップスティック・コメディもプロデュースしている。
 
 『ビッグ・パレード』『ベン・ハー』『群衆』『ブロードウェイ・メロディー』『ビリー・ザ・キッド』『トレイダ・ホーン』『チャンプ』『グランド・ホテル』『怪僧ラスプーチン』『戦艦バウンティ号の叛乱』『椿姫』『チップス先生さような』など、その後、何回もリメイクされた作品を選んでいるところさすがすぎ。

Ben_hur

 『ベン・ハー』などは、戦後のリメイクで倒産寸前だったMGMを一気に立ち直らせたとも言われています。

 しかも『グランド・ホテル』形式と呼ばれる作品のジャンルさえも生み出している。なんでもござれ。ゴダールは「ラスト・タイクーン、 アーヴィング・タルバーグの歴史=物語 イストワールを語る」で《テレビのディレクターは、1年につき最大で200の映画を構想する。アーヴィング・タルバーグは、毎日52本の映画を考えたただ一人の男だった》としています。

 しかし、彼は映画のクレジットにプロデューサーとして名前をほとんど出していません。

 それは"Credit you give yourself is not worth having"だから。

 「自分で裏書きしたクレジット(手形)なんて価値がないから」というはカッコいい言葉だな、と。

 写真はBen-Hur: A Tale of the Christ 1925から。

 1959年版の『ベン・ハー』を監督したウィリアム・ワイラーは、この1925年版の戦車競技の場面でB班の助手をしていたと言われていたと思います。

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