« 『宗教と権力の政治「哲学と政治」講義2』 | Main | 『本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー』 »

February 02, 2014

『戦前日本の安全保障』

Kawat_senzen2

『戦前日本の安全保障』川田稔、講談社現代新書

 『昭和陸軍の軌跡 - 永田鉄山の構想とその分岐』中公新書が抜群に面白かったので期待して読みました。

 得られた知見は、ざっくり言うと山縣有朋は、日英同盟で英国が、米国との関係は除外するとなったことから、むしろ日露協商によって中国の権益を米英から守ろうとしたが、ロシア革命でこの構想は水泡に帰した。そこで何回目かの日支友好路線に走るが、袁世凱の死や段祺瑞の失脚で失敗する、と。同時に、かえってロシアを継いだソ連との間の関係はシベリア出兵によって決定的に悪化し、アメリカからも疑義が広がり、ドイツとの関係も第一次大戦時の「ごっつぁん参戦」で中国権益を奪うなどして最悪の状態となっていった、と。

 山縣のロシア接近は、日英同盟の中で英国が、米国との間は条約が適応されない、としたからでしたが、政友会内閣を組織した原敬はこうした現実を踏まえて米英支配下での平和的な交易型軽武装産業国家を目指し、国際連盟の舞台を活用することによって「米国のなすがまま」となる事態を回避しようとしたが、1921年に暗殺された、と。

 蒋介石による北伐が26年に始まるなど中国は内乱状態でしたが、田中内閣の山東出兵などには浜口雄幸は反対していた、と。軍部は張作霖よりも親日的な人物の満蒙での擁立を狙い、爆殺します。1929年に民政党内閣を率いて首相となった浜口雄幸は、東三省の権益については保持する立場でしたが、同時にはワシントン体制の元、ロンドン海軍軍縮条約、不戦条約、中国をめぐる九ヵ国条約などによって対米協調を補完するという原敬の構想を引き継いでいましたが、満州事変の三週間前の1930年に狙撃された傷が元で死去します。

 1920年代の陸軍を統括した宇垣一成も原、浜口的な対米協調を目指していましたが、永田鉄山らの反薩長グループが陸軍内部で実験を握り、ドイツによる対英仏戦は不可避という認識の元、満州の独立を目指す方向に舵を取った、とというような感じでしょうか。

 個々のトピックスで印象に残ったのは、中国における袁世凱以降の権力は、独立と同時に関税自主権などの不平等条約を改正しようとしていたのですが、アジアで唯一、資本主義にテイクオフした日本は、独立と関税自主権は別だと理解していたから、欧米と話があったというあたりかな。

 シベリア出兵時の日本って寺内首相は重病で、米騒動は起きるは、例によって陸軍は勝手に増派するわで改めて大変だったんだわな…そんな中で原敬が初の政党内閣をつくるわけで、大変な人だったんだな、と。

 しかし、山縣有朋篇を読んでいる時に、安倍首相がダボスで第一次世界大戦について不用意なことを口にしたんですが、第一次世界大戦って、日本にとってはお気楽な戦争だったんですが、欧米にとっては、その後の世界のあり方を変えた深刻な戦いだったということが、あまりに認識されていないんじゃないかと思ったりして。

 第一次世界大戦の前、日本は日露戦争をなんとか講和に持ち込み朝鮮と満州の権益を確保しましたが、それによって米国と中国市場をめぐり対立する状況となってしまいます。

 頼みの日英同盟も、こうした状況にかんがみ、英国が米国との対立関係は同盟から除外すると宣言します。これに焦ったのが日本政府。

 重複しますが、山縣は、こうなったら、むしろ戦ったばかりのロシアに活路を求め、日露協商によって中国の権益を米英から守ろうとしたんですが、ロシア革命でこの構想は水泡に帰します。そこで何回目かの日支友好路線に走ることになるのですが、こんどは袁世凱の死や段祺瑞の失脚で失敗する、と。

 八方ふさがりの中、なんと山縣は「ええい!」とばかりにシベリア出兵したりするんです。日本人って「守り」に弱いですよね…。よく言われる女流の囲碁、将棋みたい。攻めるだけ…。受けられない。

 そして、第一次世界大戦の時の日本は補給のない青島を占領してドイツの恨みを買い、 中国権益を伸ばし過ぎたことで米国の懸念を深め、シベリア出兵ではソ連からの決定的な恨みと、米国のさらなる不信を高めたんです。

 シベリア出兵はソ連との関係を最悪にし、米国からも叱責受けて終了したんですが、第一次世界大戦は結果的には勝ったけど、パリ候補会議ではあまり相手にもされなかったという…。

 世界からは、第一次世界大戦の日本はそういう見られ方をされていたということを安倍首相は知らなかったんじゃないでしょうか。これじゃ、ドイツは親日的とかいう勝手解釈史観の信奉者たちと変わらない…。

 ダボスでの安倍首相の発言が危険視されたのは、ヨーロッパやアメリカから見れば、こんなことを100年前にやっていたことを棚に上げて、日中関係を英独関係にシレッとなぞらえたからではないでしょうか。さらに、ソベリア出兵の時みたいに、勢い込んでやったことを米国から怒られるというのも変わってないな、と。

|

« 『宗教と権力の政治「哲学と政治」講義2』 | Main | 『本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/59058906

Listed below are links to weblogs that reference 『戦前日本の安全保障』:

« 『宗教と権力の政治「哲学と政治」講義2』 | Main | 『本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー』 »