« 2013年の一冊は『腎臓のはなし 130グラムの臓器の大きな役割』 | Main | 「楊」の汁なし担々麺 »

January 11, 2014

『よみがえる古代思想 「哲学と政治」講義I』

Sasaki_seiji_koten

『よみがえる古代思想 「哲学と政治」講義I』佐々木毅、講談社学術文庫

 ギリシア・ローマの哲学的議論と中世以降の神学論争から、西洋政治思想史の源流をさぐるという公開講座をまとめた2冊の本の最初。

 ギリシア神話の悪徳は傲慢(ヒュブリス、Hybris)であり、それと正義(ディケー、dike)が対決するという図式だ、と。そして人ではなく法(ノモス、Nomos)に従うというのがポリスの生き方だった、と。

 しかし、ポリス同士の戦いなどの栄枯盛衰を経ると、プラトンの『国家』の冒頭、生ぬるい議論に苛立ったトラシュマコスが語ったように《「では聞くがよい。私は主張する、〈正しいこと〉とは強い者の利益にほかならないと」》(藤沢令夫訳、岩波文庫、p.48)という考え方も出てくる、と。

 こうなると宗教も法も人間がつくったものとして尊重されなくなるので、それに対立する概念として自然が出てくる、と。そして、法律上は主人と奴隷だが人間として見れば同じだというキリスト教的方向性と、強いものが弱いものを支配するのが自然だ、という二つの方向が出てくる、と。

 ここで登場するのがソクラテスで「人間において不滅なのは魂だけだ、と主張し始めます。そして人は何も知らないと議論をふっかけては、人間は魂への配慮が大切であり、独裁君主などは人間として一番みじめな状態にあると言い始めますが、それはポリス批判にも受けとられた、と。そして弟子のプラトンは堕落したポリスは哲人王によってしか救われないとして、20世紀になると民主主義批判者として全体主義者のルーツにもなった、と。

 プラトンは善のイデアへの到達を重要視しましたが(そこから"還相"もしなければなりませんが)、アリストレスは政治と関わらない観照的生活を理想としていま。一見するとかなり違った主張ではありますが、ソクラテス以来の魂への配慮という要素が残っている、と。

 『ニコマコス倫理学』の理知的な部分が欲望をコントロールするには習慣づけることが大切だというあたりは、実戦学といいう分類を立てたアリストテレスらしい、と佐々木先生は書いてます(p.135-)。また、経済学の語源は家を意味するオイコノミアですが、アリストテレスは奴隷狩りで劣った人間を捕まえる方法なども書いているのは凄いけれど、それは自由人を奴隷にしてならないということを宣言したものととらえるべきだとしています。

 金持ちは支配すること、貧乏人は服従することしか知らないが、中間層は両方知っているから、そういう人間が集まったポリスは安定する、なんていう議論も面白い。

 しかし、プラトンにしてもアリストテレスにしてもポリス的な小さなサイズでしか政治を考えていなかったけれど、それを破壊したのがアリストテレスによって教えられたアレクサンドロスで、広い境域を覆うためにギリシア人が否定したオリエント世界のスタイルが復活した、と。また、ポリス的生活がなくなり、人間が自分と向き合うようになって、死と人生の意義の問題も浮上してきた、と。大帝国を皇帝が支配することで人間にとっての興味の対象ではなくなった、ということで新しい哲学や蹴球も生まれていきます。

 ローマも最初は共和制でしたが、植民地での支配のやり方が徐々に本国に影響を与えて皇帝が生まれるようになります。これについて《日本でも、例の満州国をつくった人たちが、やがて国内に戻ってきて満州国をモデルにして日本をつくり変えようとした》と類似性を指摘しているあたりは、なるほどな、と(p.209)。

 そして実は、共和制は戦争に人々を動員するための仕組みであり、皇帝というのは、それに対して1人の人間による支配での平和を打ち出した、というあたりの議論もなるほどな、と。カエサル以前のローマは、共和制と自由が内乱で自滅した、というんです(p.226)。カエサルの『ゲルマニア』も蛮人は自由だけど野蛮な世界を描いている、と。

 民主化することで人々を戦争に動員するという手法は、最近の先進国による徴兵制の廃止まで否定されてこなかった、と。もしかして、欧米や日本による「国民は軍事的な面で国家とは切れるが、政治的な参加だけは残っている」という試みは、歴史的にみても相当、凄いことなのかもしれません(p.248)。

|

« 2013年の一冊は『腎臓のはなし 130グラムの臓器の大きな役割』 | Main | 「楊」の汁なし担々麺 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/58926431

Listed below are links to weblogs that reference 『よみがえる古代思想 「哲学と政治」講義I』:

« 2013年の一冊は『腎臓のはなし 130グラムの臓器の大きな役割』 | Main | 「楊」の汁なし担々麺 »