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November 16, 2013

『国家と音楽家』

Kokka_to_ongakuka

『国家と音楽家』中川右介、七つ森書館

  厖大な資料から知識人のためのエンターテイメントを再構成するという作風がすっかり板に付いた中川さんの最新作は「音楽家は権力に利用されやすい。音楽は感情に訴えるし、セレモニーで必要になる。魅力的であるがゆえに危険なもの」という日経に載った著者インタビューが気に入って読むことに。

 《政治家は藝術を愛好していると好意的に受け取られる。料亭通いをすれば批判されるが、コンサートやオペラ、あるいは歌舞伎などに行くことへの批判は少ない。文化・藝術への予算を増やすと言えば、反対する声は出ないだろう。その逆に、文化・藝術への予算を削ると批判される。最近の日本の例では前者が小泉純一郎、後者は橋下徹だ。史上最も藝術に理解があり、藝術を保護し支援した政治家は、おそらく、アドルフ・ヒトラーである》という書きだしもいい。

 ナチ政権の政策により、バイロイトの音楽祭の出演者やスタッフから、ユダヤ系のみならず、自由主義者、民主主義者、社会主義者、あるいは同性愛者たちが排除された結果、藝術的レベルが低下してしまった、というのは皮肉ですが、そうしたことも含めてナチスドイツ関連は震えるほど面白かった。不勉強ですが、カルロスの父親のエーリヒ・クライバーがこんな偉い人とは知らなかったな。

 ベルリン・フィルの楽団員は徴兵を免除され、併合されたオーストリアのウィーン・フィルはメンバーの4割がナチ党員になるなどして第二次大戦を生き残っていったのですが、指揮者たちもサバイバルに必死でした。

 カラヤンは併合前の33年4月8日にオーストリア・ナチ党に入党しているのですが、ヒトラーに敬遠されたことによって、戦後、復活を遂げるのですが、党員だったことは今でも批判され続けています。映画『 愛と哀しみのボレロ』ではアメリカで戦後、ヒトラーと一緒に写っている写真をコンサート会場の天井から大量に降らされるというシーンがあったと思いましたが、もう一回見てみたくなりました。

 それにしても、カラヤンといいレナード・バーンスタインといい、オマリー、ベイカーの『芸術家に学ぶリーダーシップ』という本があったが、『国家と音楽家』を読み終えて、一流の音楽家は人々をうっとりさせるほどのルックスだけでなく、持続する意志の力とともに、長期的な目標を現実とスリ合わせさせる政治力がないと成功しないんだな、と改めて思いましたね。

 カラヤンがショスタコーヴィチの10番にシンパシーを抱いたというのは、初めて聞きました。は、スターリン時代をなんとか生きのび、自分なりの手法で陰々滅々なスータリン主義批判を行ったというのがショスタコーヴィチの10番だそうですが、カラヤンはもし作曲をするとしたらショスタコーヴィッチのような曲を書きたかったと言っているそうです。カラヤンが演奏したショスタコーヴィッチ作品は、この10番だけで《独裁政権のもとで生きた二人の同世代の音楽家の接点となったのが、この第十番なのだ》というのは、納得的。

 カラヤンはこの曲を4度レコーディングしていて、82年のCDは持っているのですが、69年のベルリン・フィルのモスクワ公演ライブもいつか聴いてみようと思います。そういえば、ベルリンの壁が崩壊したのは、カラヤンの死後、3ヶ月たった頃というのも、なるほどな、と。

 ヴィシー政権下のフランスは退屈したが、スターリン時代のソ連、戦後の東欧ではまた面白くなる。音楽家は精神的な弾圧が必要なんじゃないかと思うほど。

 レニーのところで、ジョンソンは60年の大統領選挙でケネディがマッカーシーに対する譴責で棄権したことを批判したというあたりを、必要もないのによく書いた思います(p.302)。ジョンソンは北爆ですっかり評判を落としてしまいましたが、南部出身なのに人種差別を心底嫌い、ケネディがすっかりもてあましていた公民権法案や投票法案をなんとか通したリベラル派だったんですよね。メディケアが通ったのもゾョンソン時代(国内政策はリベラルだけど、ベトナム戦争など対外的にタカ派というのは、オバマも含めて民主党の伝統なんでしょうか)。

 レニーが親友ケネディの追悼演奏会で選んだのがマーラーの『復活』だったというのは知りませんでした。レニーといえばマーラーの『復活』というぐらいの名盤で、もちろん何回も聴きましたが…。そして、弟ボブのミサではマーラーの五番の第四楽章アダージェットを演奏したそうです。

 様々な音楽家と政治の関わり合いを読んでいる最中、ずっと頭の中で鳴っていたのはフルトヴェングラーが指揮するカッコ良いタンホイザーの序曲、あるいはマイスタージンガーの前奏曲でした。


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