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November 08, 2013

『みんなの空想地図』

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『みんなの空想地図』今和泉隆行、白水社

 忘れもしない6月29日。タモリ倶楽部で放送された『地図マニアの最終形 ひとり国土地理院大集合!』には驚かされました。

 大規模な都市の精密な地図を、B0を2枚ぐらい並べるほどの大きさで描いている人が3人も登場。共通していたのは、3人とも若く、しかも小学校低学年ぐらいから架空地図を描きはじめていること。また、2人はそれを引きずっていたことも信じられませんでした。

 さらに一驚を喫したのは、子どもの頃からかの趣味なのに、最初から洗練されていたこと。まったくこましゃくれてなくて、地名のセンスも含めて趣味が良すぎる。しかし、満たされないものを感じつつ、決して暴れるようなことはせず、子どもの頃からかずっと心の空白を地図で埋め続けてきたという上品さ。趣味の良さの基準を自分たちで確立させているというか、ごく普通にいい。利休か!と思うほど。すでに一派を成している感じ。

 作者たちの子どもの頃から描いていた地図を見せてもらうと、同じ都市が幾何級数的に豊かになっていく様は、宇宙的な広がりさえ感じます。なんで、そこまで凝ることができるんだ…とも思ったけど「そういえば都市計画はダ・ヴィンチが最もやりたかった事だ」と気づかせてもらいました。趣味の王様、至高の仕事なのかもしれない、と。

 ということで、ツイッターでもフォローしはじめた今和泉さんなんですが、なんと白水社から本を出すというんですから驚きましたよ。やるな、白水社。さすが伊達に社内にカレー部とか持ってませんよね。

 ということでさっそく読み始めたんですが、見せてもらった地図の背景まで教えてもらった気がします。

 タモリ倶楽部に架空地図作家のトップバッターとして登場した阿部さんは、子ども頃、父親のクルマに乗って行くドライブが大好きで、最初は道路地図を描いていたというんですが、今和泉さんも、父親がよく連れて行ってくれた、郊外行きのバスに乗り、終点まで行って帰ってくるという純粋バス・トリップが大好きだったそうです。

 今和泉さんは御著書の中で生い立ちとか書かれているんですが、タモリ倶楽部を見る限り、空想地図作家の方々は、ドライブやバストリップなどの小旅行が週末の楽しみという新興住宅地に育った感じがしました。アメリカの子どもたちは、昔、父親のクルマに乗せられて、ドライブに行って外でランチを食べるぐらいしか休日の過ごし方がなかったというのを聞いたことがあるんですが、日本でもモータリゼーションが進んで、マイカーやバスでどこかに行くことで時間をうっちゃるという家族の姿というのが80年代以降は増えていったのかな、なんてことも考えさせられました。

 1950年代のアメリカのホームドラマでも、父親はクルマで仕事に行き、休日はクルマで遊びに行くわけですが、そこには、仕事場と家を2つの焦点にして、クルマを糸として描いた楕円エリアの中に閉じ込められた人生というのも感じました。そうした子どもたち、家と学校を2つの焦点にした楕円の中で育ち、エリアの大きさは獲得する交通手段によって広がり、やがては2点が事実上の1点となるほどの移動能力を身につけ、ホームタウンを出ていくのかな、と。

 今和泉さんの本を読むと、アイソメトリック方眼紙を使って立体化するという試みもなされているようですが(p.30)、描いている中村市の架空トリップなんかを延々と描いているあたりも含めて、空想地図作家の方々は、最終的には自分で描いた地図を立体に立ち上げ、その街をバスなり、クルマなりからの視点で見物するというところまでいくと思います。

 さらには、紙幣や住民票、鉄道ダイヤなども協力者を得て揃えているというのですが(p.153)、そこまで読んで思い出したのが吉本隆明さんのヨーガ修行についての考え方。

 吉本さんによると、ヨーガの肉体的な修練は《仏教の世界観である生死を超える理念をつくるところにたどりつく》そうです。議論を単純化すると、ヨーガの修行によって、自分が精子と母親の卵子に分かれるところまで行きつき、最後に再び子宮に飛び込むまでの過程がリアルに視覚化できるというんです。

 すると《この世の全てが幻影だと感じるようになる》というんですね。

 さらに、《「この世」と違う別の世界を創り出し、そこで遊ぶことができるようになる。その創られた世では、触れることも、見ることも、聞くことも、匂うことも、味わうことも、また考えることもできると書かれている。そして著者はこういう実体験と同じ如実な感覚体験がこの創られた世界でできることが逆に「この世」も無常なイメージに過ぎないのではないかと感じさせる》と(「ロッキング・オン」1992年から)。

 ひょっとして空想地図はそこまで行くんじゃないかと感じます。それもヨーガなどではなく、コンビュータを使って。

 そんなことを考えさせられました。

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