『日本史の謎は地形で解ける』竹村公太郎、PHP文庫
『日本史の謎は地形で解ける』竹村公太郎、PHP文庫
元建設省河川局長の竹村公太郎さんの本が面白いということで読んでみたら一発でファンになりました。財務官僚の松元さんの本も面白かったけど、霞が関の本省というのは情報の宝庫だし、そこで局長級だった人の話しというのは、つまらないわけがない、という感じ。もう小説はバカバカしくて読めないでいるんですが、ノンフィクションも「突撃取材」ばかりが得意技の素人のは勘弁してほしいです。
ということですが、なんつうか、全体としては家康論。
家康は甲府城を建設している最中に、秀吉から関東への移封を命じられたわけですが、その時の江戸、関東のイメージががらりと変わりました。
当時の関東は利根川と荒川が暴れる湿地だった、というんですね。で、家康は湿地だった関東平野を利根川の流れを霞ヶ浦というか銚子の方に誘導して、巨大な農地を造成した、と。八ッ場ダムなんかも問題になりましたが、あれも利根川の流れを変えてきた最後の事業だった、というのは問題が起こったあたりからさかんに旧建設省関係者は発信していたんですが、なかなか伝わりませんでした。
「のぼうの城」で有名になった忍城も今の埼玉にある城なのに水に浮かぶ「浮城」なんて言われていたのか、というのは漠然と思っていましたが、あそこらへんも含めて湿地だからだったんだろうな、とかいろいろ思い出しながら読んでいました。北条氏も小田原じゃなくて、鎌倉は狭すぎるからパスするにしても江戸を本格的に開拓しなかったのは、湿地だったということがあるのかもしれません。そして、家康が利根川を銚子の方に流れを変えて、江戸をバイパスする川締切り工事の最初は、忍城を拠点に行われたのか!というあたりは胸熱(p.33)。
この事業で、莫大な農地を開拓した家康は、それまでのゼロサムゲームから一気に突出して天下人になったのか、みたいな。でも、昔の大川(今の隅田川)は水運にも利用されていたから、利根川みたいにバイパスする工事ができず、利用しながら水害対策をやっていたあたりなんかも凄い。結局、荒川放水路が完成するのは昭和になってからなんですが、元河川局長だけあって河川管理だけでなく、河川をつかって敵対勢力を破壊することも含めて治水というのは本当に大切だったんだな、としみじみわかる話しです。
江戸幕府のチエは凄いと感心させられたのが、この隅田川の洪水対策。洪水対策はどこかで水を溢れさせる、ということが古今の知恵だそうでして、今の言葉で言えば減災ということでしょうか。隅田川の左岸は熊谷、荒川、墨田と堤がずっと連なっていて、浅草寺のところでぐっと内陸に向かって日本堤がつくられて、ここで洪水の時には水をあふせさせれば、江戸の市中は守られる、という発想。
なんでも日本中の大名が動員されて建設されたのが隅田川の氾濫から江戸を守る日本堤だそうですが、堤というのは常に監視して、固めていかなければなりません。
その日本堤を管理するために幕府が考えたのが、吉原を堤の先に移転させて、女郎買いの客の目で堤防の弱い所がないかを監視させ、堤を踏み固めさせたたというんですから頭良すぎ!(p.237-)。
祖母からは梅は咲いたかの二番を覚えておけば、お座敷であわてないよと教えられたんですが、その文句は「柳橋から小舟を急がせ 舟はゆらゆら波しだい 舟から上がって土手八丁 吉原へご案内」でした。落語でも「かよい馴れたる土手八丁」というフレーズよく使われますが、そのことが江戸を守ることになっていたとは…宴席で、三味線の婆芸者に梅は咲いたかの二番を演ってもらう時には、いつもより誇らしげな気持ちでうなることができそうw「あさりとれたか蛤や まだかいな 鮑や そよそよ片思い さざえはりん気で角を出す しょんがへな 」なんて三番まではやりませんがw
ということですが、幕府はさらに隅田堤には桜を植えさせ、花見の客に同じことをさせ、さらには六区に芝居小屋を持ってきて、人の足によって踏み固め、監視させていたという。
江戸幕府、恐るべし。
しかし、さらに、このソフトのオリジナルは信玄堤で祭りをやって、農民に踏み固めさせた武田信玄だというんですから、戦国武将というのはバカじゃできなかったわけですよね。
とりあえず、家康は沼地みたいだった関東平野を利根川り治水工事によって耕作可能な土地に生まれ返らせ、石高を一気にアップさせたんだけど、関東平野は沼地だった、というイメージはこれからも大切にしていこうと思いました。
このほか、大阪城の前の石山本願寺はやはり湿地の中に立っていたので、信長はその奪取に勢力を傾けていたとか、同じ信長の比叡山焼き打ちは、中部から畿内に入る細い頸動脈みたいな部分を抑えていた比叡山から武装勢力を駆逐するためとか、忠臣蔵事件は実は…など素晴らしい話しがあるのですが、それは読んでのお楽しみに。
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