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October 05, 2013

『恐慌に立ち向かった男 高橋是清』

Takahashi_korekiyo

『恐慌に立ち向かった男 高橋是清』松元崇、中公文庫

 もうかなり前に読み切ってはいるんですが、再読しながら、気になっていたところを確認していたもので、まとめるのが遅くなってしまいました。

 それにしても、財務官僚である松元崇さんのご著書にめぐりあえ、日本の近現代史を財政と地方自治という切り口でみることができたのは、今年得ることのできた最大の知見だと思っています。

 『「持たざる国」への道 - 「あの戦争」と大日本帝国の破綻』、『恐慌に立ち向かった男 高橋是清』、『山縣有朋の挫折―誰がための地方自治改革』を読むと、日本は日清戦争では勝ったものの対露戦争を前提に厳しい臥薪嘗胆の日々を過ごさざるを得ず、それを耐えてなんとか軍事的には勝った日露戦争でも賠償金をとれずに財政を悪化させて「財政的には負け戦」となり、無理強いのきいた中国相手に「無礼千万なこと」by中曽根康弘を要求し、第一次大戦で一息ついたけど、関東大震災で1/3の国富を失い、結局ますます儲からない満洲に入れ込んで自滅した、という感じの近代史の見取り図を得ることができます。

 それにしても、明治政府にとっての帝政ロシアの重要性は、大使館が現在の財務省にあったことからもわかる、というあたりは知りませんでした。また、松下電器なんかも大正時代の天佑と言われた、第一次世界大戦の好況下に生まれたんですね(p.126)。

 そして、日清戦争の準備や臥薪嘗胆の日々、昭和恐慌後の財政を支えたのは、ほとんど地方だったというのは驚きました。だいたい農業国から出発したんですから、よく考えれば当たり前かもしれませんが、明治期には選挙権を持つ人間が東京より新潟の方が多かったというイメージはありませんでした。そうしたことから、教育費やインフラ整備などの費用を国は負担せず、地方税の課税制限の緩和の道を選択。この結果、地方民にとって税負担の不公平は耐え難いレベルに…というのは知らなかったな…。

 だから、2.26事件の青年将校たちも、中央と地方の税制のゆがみを正し、満州経営をサンクコストとして撤退できれば…とできもしない妄想も膨らむのですが、同時に、今の時代も未来からみれば「なんでちゃんとやれなかったんだ」と思うことがあるな、と思います。

 今の日本の予算を考えると、旧軍と同じなのは、もしかして福祉予算じゃないかな、なんて思っています。

 医療、年金、介護などの給付は100兆円を突破。社会保障関係費は30兆円の大台に近づき、納税額にも迫っていて、これを切り捨てられないと財政破綻は必至にな気がします。戦前は軍隊の無謀な要求を撥ねつけることができずに財政が破綻し、イチかバチかの勝負に出て対米英戦に突入して壊滅した、という流れだったんですが、今の日本はどこに向かっていくんでしょうか。

 旧軍も福祉も善意の塊であったことは共通点。こうした善意を剥き出して、反論を許さないような無謀な要求を合理的な水準にカットしないと大きな過ちを犯しそうだな、と思いつつ、いまは『山縣有朋の挫折―誰がための地方自治改革』を読んでいます。

 ということで『恐慌に立ち向かった男 高橋是清』で気になったあたりを、例によって箇条書きで…。ちなみに文庫本の解説は『「持たざる国」への道 - 「あの戦争」と大日本帝国の破綻』と同じ加藤陽子先生。

 日清戦争はアジアの覇権国である清国に新興国日本が挑戦し朝鮮を独立・近代化させたが、それは米国がキューバの独立を求めてスペインと戦って保護国とした米西戦争と同じ、とp.78。どっちも本格的な独立後は仲が修復されてないってのも似てますなw

 それにしても、明治期からみると、大久保利通の偉大さというか、屹立した姿というのは改めて印象に残ります。大久保は14年かけて地租改正をやり遂げて明治政府の財政基盤を固め、秩禄処分で武士の大リストラを行うと共に大軍縮を断行し、藩の債務も整理し、それに不満の武士を佐賀の乱、西南戦争で殲滅した、本当の英雄なんだな、と。西郷などは革命軍を押さえきれずに征韓論を唱え、最後には不平武士に担がれて反乱に加わるという衆愚の道を歩んだ。

 鹿児島で西郷が人気で、大久保が不人気というのは、2.26の青年将校が高橋是清を国賊とテロったのと同じだわとも思います。それにしても、フランスは王の代替わりのたびにデフォルトを行っていたために戦費調達は困難になっていたというんですが、一方、幕末に500万両もの借金を調所広郷による250年払いで事実上の踏み倒しを行った薩摩藩は、業者に外国との密貿易でなんらかの利益供与をしたのでは、というあたりも面白かった。

 航空産業に政府保証を与えるなどして支援した結果、上海事変で日本の戦闘機は米国機と空中戦を戦えるまでになったが、第二次世界大戦で乱発し過ぎて、今では、政府保証は原則禁止、となったというあたりは、今にも影響を与えてますよね(p.127)。

 日清戦争の勝利による賠償金を金本位制の下にあった英貨で受領することによって、松方正義は金本位制を導入することができ、外国からの資本が導入された、というあたりや(p.102)、遼東半島の割譲より賠償金獲得を優先すべきとか、すごく現実的な男だな男だったと感じます(p.151)。

 それにしても、日清戦争の真の勝者はロシアだったんですよね。清には旅順までの鉄道敷設権を認めさせたし。これで朝鮮王室はロシアへの接近を図り、それを阻止しようとして日本公使は閔妃を殺害。大院君を担ぎ出そうとするが失敗。親日派が一層されてロシア優位が確定、という流れになるんですね(p.148)。

 『アメリカの反知性主義』という本は読んでみたくなりました。アメリカの様々なニュースを見ても、「反知性主義」という言葉で括ると、すっと理解できる気がします。いまも議会ではモメまくっていますが、19世紀では、議場でウィスキーを呑んで暴れたり、痰を吐いたりナイフを振り回す議員が当たり前だったそうですから(p.133)。

 南北戦争の戦費調達のために導入されたのが米国の所得税。それでも足りない戦費調達のために応えたシヴイルウォーバンカーズが起源となったのが米国の投資銀行。この投資銀行は鉄道建設やボーア戦争を契機に更に発展したんですが、日本で最初に銀行恐慌が起こった明治33年には米国でも金融恐慌が起こり、その反省から生まれたのがムーディーズ(p.180)とか、いろいろつながっています。

 米国の次期FRB議長に有力視されている、ジャネット・イエレン女史は元サンフランシスコ連邦準備銀行総裁ですが、米国はFRBとこうした地方連邦準備銀行が並立する形となっています。それは、南北戦争までは、各州がてんでんに通貨を発行するというシステムをとっていた名残り。明治政府は、各藩が藩札を出していた状況と似ているということで、米国の制度を研究したというのは知りませんでした(p.81)。

 しかし、日本というか江戸時代はすごいな、と思うのは大阪で米の先物市場が設立されたのが1730年だということ(p.200)。大久保利通も山県有朋も江戸の自治制度を優れたものとして尊重したというのが『山縣有朋の挫折―誰がための地方自治改革』にも書かれているんですが、ナチョラルに凄かったな、と。

 昭和5年、1930年が日本のターニングポイントであり、大不況に豊作貧乏の翌年の凶作が襲い、レーヨンの発明で養蚕の対米輸出もピークの1割まで落ち込み、農家は疲弊して行った、と(p.258)。

 今日でも、世界中に単一民族から成る国家は一割以下で、人口の75%以上を一つの民族が占める国家も半数にとどまっている、というのも改めてなるほどな、と(p.311)。

 旧軍の陸大では、ノートを取ることを許さず、教官から具体的な課題が指示されると、いきなり議論を戦わさなければならなかった。それによって軍の参謀たちは瞬時の判断能力だけでなく、ディベート能力が鍛えられ、他の官僚や政治家は、議論になると陸大出身者に歯が立たなかった(p.342)というのも、イメージできませんでした。

 ぼくの理解が悪く、勉強も進んでいないからなのですが桂園内閣について《政友会の西園寺公望と藩閥代表の桂太郎が交替で政権を担当する》という説明はわかりやすかった。つか、初めてスッとアタマに入りました(p.131)。

 第二次奉直戦争では張作霖が危機的な状況に追い込まれたんですが、其れは旧陸軍が馮玉祥(直隷派)に寝返り資金を出していたためであり、幣原外相の不干渉政策なども事実上、無視されていたんですね(p.216)。

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