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October 19, 2013

『実録!あるこーる白書』

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『実録!あるこーる白書』西原理恵子、吾妻ひでお、月乃光司、徳間書店

 書店で『失踪日記2 アル中病棟』の隣にディスプレイされていたので購入。『アル中病棟』が出る半年前に上梓された本。

 アル中関連の本は、四半世紀前に集中的に読んだんですが、それ以降は、断続的に新書レベルの啓蒙書などを読んでいただけなので、新しい情報にも触れることができたと思いますし、ギャグ漫画家ならではお二人の言葉からは、人間の真相(ますがた)が浮かび上がってくるようでした。

 例えば、ぼくが知らないだけだったのかもしれませんが、食道静脈瘤は本当に怖いな、と思いました。《通常、腸で吸収された栄養分は、門脈という太い血管を通り肝臓に運ばれて処理される。門脈圧があがり、本来であれば門脈に流入するはずの静脈血が側副血行路を流れるようになり、主に食堂粘膜下層の静脈が拡張・蛇行し、瘤状に隆起して静脈瘤を形成》(p.68)するんだそうで、だいたい2回それが敗れて血を吐くと死ぬんだそうです。

 血液が肝臓を通りにくくなると《「栄養を消化する肝臓が機能しなくなると死ぬしかなくなる」「肝臓にいく血の流れが止まって、別なところに溜っちゃう。それが敗れてドバッとでてくる」》というのはリアルに怖いな、と。

 連続飲酒の後に、血中アルコール濃度を一定に保つ山型飲酒という技を生み出す人もいるというか、吾妻さんもそれやっていたのか…というのは驚きでした。『失踪日記』では、飲むと地獄の苦しみを味わう抗酒剤を飲んでいても酒を飲むという人がいるのに驚きましたが、つくづく人間って凄いな、と。とにかく、医学は進歩しているな、と。アル中の本を沢山読んだのは四半世紀前ですが、ホントいろいろ進歩している。

 また、『失踪日記2 アル中病棟』ではアル中患者が減って、精神の人たちと同じ病棟にするみたいな場面が出てきましたが、それは景気が悪いために、3ヵ月間の入院を支えるパワーが家族になくなってきているためではないか、というあたりは新しい問題かな、と(p.151)。

 西原理恵子さんは『この世でいちばん大事な「カネ」の話』は大したもんだと思いましたが、『西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気』については立ち読みでしたが断酒、断酒、断酒オンリーというのが、どうもついていけませんでした。今回の『実録!あるこーる白書』では、そういった教条主義的な部分はアル中のお二人がリアルな体験談とともに語ってくれるので、より、生活感あふれる箴言が目立つようになっています。

 アル中という言葉をどうしよう、という話しは結局、結論がでない不毛な議論になるのですが、その中で、世の中に《依存症の患者さんが本当に可愛くないのが一番の問題かも(中略)汚いおっさんがかかる―かかりがちな病気だから、捨て置かれるんですよ。多摩川で大洪水が起こったときに、ホームレスの爺さんがどっさり流されてんだけど、消防団員が誰も助けにいかないの。ボロっボロの爺さんを、わざわざ命がけで助けにいかない。あれが子どもだったら全員飛び込んで助けてるんでしょうけど、しょーがねーなーと思いながら見てましたけどね。下手したら犬や猫の方が助けてもらえるかもしれませんね》というのはキツイけど真実の言葉だな、と(p.95-)。アル中患者はだいたい奥さんから見捨てられるそうですが、普段から、なるべくキレイにしていないと、周りから女っ気もなくなるし、いざとなったら助けてもくれないというのは、重い言葉だな、と。

 《女はね、そこにいるだけで「可愛い」って言われる時代から、いるだけで「うるせえババア」って言われる時代へ、短期間で自分のステージが変わっちゃうんですよる。それで、自ずといろんな引き出しが増えるんです(中略)男の人って、ちっちゃなころからか心が変わらないじゃないですか。だから描くものの引き出しが男の人は狭いと思うんですよ》というあたりも至言(p.117)。この部分を感動したとつぶやいたら、この本を読んだという女性が「心にしっかりと線を引いた」と返してくれました。

 《女の人の感情ってポイントカードなんですよ。急に怒り出すって言うけど、日常な細かいことをずっとカードに判子で押しているんですよ。で、さっきのその一言が50ポイント目だったんですよ。キャッシュバックキャンペーンがはじまるんですよ》というあたりも、分かるというか怖いな、と(p.185)。

 ちなみに、西原さんの元旦那である鴨志田さんは、弱いものを見つけて襲いかかる《一番タチの悪い、典型的なアル中》だったそうで、幼子二人を抱えて、部屋の中で逃げるようにしてマンガを描いていたそうです。

 高須クリニックの人は、問題のある発言もしますが、何百年も続く医者の家系の人で《すべての患者様には希望しか与えてはいけない」というのが代々伝わっている教え》だそうで、少し見直しました(p.63)。

 吾妻さんの言葉では《子どもって夫婦喧嘩されるとすごく傷になるでしょう。布団の中で泣いていましたよ》というのは、わかるなぁ…(p.23)。

 ストーリーマンガは《ワンアイデアさえあれば、ずっと描けますからね医者がタイムスリップするとか、コピーーバンドがビー●ルズになるとか》というあたりは、1頁にいくつもアイデアが必要で作家生命の短いギャグ漫画家の恨み節なのかもしれません(p.19)。

 月乃さんの発言では《「地獄への道は善意で舗装されている」って、まさに依存症患者とイネーブラーの関係》というのが、なるほどな、と。

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