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October 12, 2013

『アル中病棟』

Alcoholic

『失踪日記2 アル中病棟』吾妻ひでお、イーストプレス

 傑作『失踪日記』のp.167に登場するアル中病院の患者さんたちを、再び大集合させて、アル中病棟の日々を振り返ったのが『失踪日記2 アル中病棟』。

 『失踪日記』では同室のナベさんを中心に描いていますが、人生を捨てて福祉で生きている人、はた目には痛々しいアル中同士のカップル、詐欺常習者、サラサラヘアでなんでもできるけど自殺未遂を何回もやった人など忘れがたいキャラクターを思い出します。そして『アル中病棟』では、名前こそ全て変えられていますが、そうした懐かしい顔が300頁超にわたって活躍します。

 アル中患者の入院生活を描いた作品としては、中島らもさんの『今夜、すべてのバーで』がありますが、あの作品は本人が入院を希望して、一般病棟で療養するという内容なので、離脱症状などから基本的に「閉鎖」される1期目、限られた区域での散歩が認められ、自助グループへの参加が奨励されるなど社会復帰に向けた準備が始まる2期目、外泊も許可されて退院に向けた準備が行われる3期目という約3ヵ月のローテションは描かれてはいませんでした。

 『アル中病棟』では家族に捨てられて、何回も入退院を繰り返す患者の様子や、2割ぐらいしか禁酒が続かない自助グループの硬直した活動内容などが淡々と描かれていきます。

 自助グループではカトリック教会などが登場しますが、吉祥寺教会には、途中に有名な居酒屋「いせや」があって《焼き鳥1本のつもりがつい飲んじゃって》という「いせやスリップ」という言葉もあるというのに笑いました(p.97)。

 吾妻さんが入院していたのは90年代後半ですが、当時すでにアルコール依存症の入院患者が減少し始めていたため、《軽度の精神》の人々と病棟を分け合うようになるのですが、この頃から《気軽に通院治療する方向に変わってきた》ということなのかもしれません(p.172)。

Alcoholic2

 考えさせられたのは《なにかと「退屈だ退屈だ」と言っている人は1人を楽しむことができない自己愛(自立)が育っていない》という言葉。違和感とともに、なるほどな、とも思うんです(p.218)。

 自己愛=自立という説では、境界性パーソナリティ障害では、すぐ怒るけど常に人の中にいてかき回していないとダメだというのが多いんだけど、それに関係するのかな…なんてことも考えました。そういえば、談志師匠やジョン・レノンなんかも、本当に自分が好きというより、ヤケというか、突き放している感があるしな…

 『アル中病棟』では、自己愛を確立していない人間は過剰な依存要求を他人に向ける、と。そうすると拒否される、と。そうなると不安、自己否認、失敗、自責感、飲酒、自己否認というループにはまると。

 さらに薬物摂取は母親の取り入れに他ならならず、依存症の人は中庸がないとして、健全な依存関係をつくるために、AAや断酒会などの自助グループで仲間をつくることによって、自己愛を確立する、と書いてあって、うーん、と。

 地図はあっても目的地には辿り着けないというあたりは詩だと思いました。

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