『地図と愉しむ東京歴史散歩 地形篇』
『カラー版 地図と愉しむ東京歴史散歩 地形篇』 竹内正浩、中公新書
ブラタモリやタモリ倶楽部などのネタ本となっている『地図と愉しむ東京歴史散歩』の第三弾。都心の謎篇に続いては地形篇として、よりアカデミックな内容に。
江戸城のお堀はダムだったとか、徳川家康は万が一、江戸城に攻め上がられた場合に、将軍が甲府城に逃れられるように、甲州街道を尾根伝いにつくり、高低差で敵を撃退できるようにつくったというあたりには、さすが、と思いました(p.41)。
幕末に近藤勇は甲府城を押さえるために甲陽鎮撫隊として体よく江戸城から追い出されたんですが、「なんで一大事に甲府城を…」と思っていた長年の謎が解けました。甲府城は幕府にとって再挙の頼みだったんですね。八王子千人同心という農民に近い身分に生まれた近藤勇は、そうした事情を心得ていたのかもしれません。
「はじめに」でも書かれていますが、今回の大きなテーマは高台と崖下の差。
崖下が河川の氾濫や崖崩れ、地震被害の増大などに悩まされたのに対し、高台は関東大震災でも深度5程度で済んだ地盤のしっかりしたところが多く、明治の元勲たちは、旧藩邸跡地などに、豪邸を建てまくります。
例えば3ヘクタールもある西郷山公園は、西郷従道の邸宅跡地です。従道の死後、家督を継いだ次男は、堤康次郎にその他の土地を含めて28万5000坪もの土地を売り、西郷家は南満洲鉄道の株式を購入したそうです。しかし、敗戦で無に帰したといいます。
従道はこの場所に兄である隆盛を呼ぼうと思っていたようですが、なんといいますか、南州翁の言葉の通り、子孫に美田は残せない結果になったのが素晴らしい(p.119)。
明治の元勲たちが豪邸を競って建てたのは、西南戦争による貨幣価値の下落に対して、不動産へ資産を逃避させたからなのですが、この他の豪邸も関東大震災か太平洋戦争の空襲で灰燼に帰しています。あるいはその前の金融恐慌で手放すとか。あるいは意匠をこらして家を建てても、完成間も無く病死したり、完成を見ずに逝く人のなんと多いことか。諸行無常を感じさせます。
それにしても、堤康次郎は元勲たちや旧華族の土地や建物を箱根土地を通して買いあさるなど、ダークなイメージがつきまとうのですが、そうした土地を分割して中流階級のために住宅を提供した、という評価もあったそうで、なるほどな、と(p.222)。
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