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August 08, 2013

『影たちの棲む国』

Kagetachino

『影たちの棲む国』佐伯裕子、北冬舎

 夏には太平洋戦争に関する本を読むことにしているんですが、今年はこれに。

 著者の佐伯裕子は歌人で、東京裁判でA級戦犯となり処刑された土肥原賢二陸軍大将のお孫さん。

 昭和天皇が逝去し《わたしはかすかな動揺すら覚えなかった。これで何もかも忘れしまっていい、きっと悲しくてしかたなくなるだろうという予測に反して、わたしはみずみずしい解放感を味わっていた》筆者が、涙したのが昭和終焉の企画として新聞に掲載された『入江侍従日記』。

 そこには東京裁判の判決日に「木戸さんが絞首刑にならな」かったことで宮中が祝宴のようになった、と書かれていました。この箇所を中井久夫先生が『「昭和」を送る』で引いていて、印象に残っていたんですが、確かにA級戦犯として絞首刑にされ、肩身の狭い思いをしていた家族にしてみれば、《祖父が"陛下を守って死んだ"と思いこむことが、一家の支えであり、誇りであった》ことが打ち砕かれた瞬間だったのかもしれません(p.11)。

 丁寧に描かれている東條英機の奥さん勝子夫人の気高さも印象的です。一家は勝子夫人を頼って、多摩川沿いの「丘の上の家」に移ってきたのですが、あたりを払うような凛とした姿勢で、戦死者の遺族を思って尼のような暮らしをしていたそうです。

 東條元首相ら七人のA級戦犯者たちが、処刑直前に回し呑んだワインがあり、そのボトルが金沢市の浄土真宗の寺、宗林寺に残されているそうです。それがカリフォルニアワインだったというのも、なんともいいませんが、数センチ残った酒がゼリー状にこびりついているというあたりも、著者ではありませんが震えるような感じを受けます(p.15)。

 著者の学習院時代、学生運動の高まる中、吉本隆明さんを読んでいるような友人が、たまたま保田與重郎を推していた文章に出会い、「やぽん・まるち」に出会うなんていうところもよかった。歌人としては、保田與重郎が評価した和泉式部論も興味深く読みました。

 地味な本で、古本でしか手に入らなかったのですが、どこかで文庫化するのは難しいんでしょうかね。

もの思へば 沢のほたるも わが身より あくがれ出ずる たまかとぞみる 和泉式部
身を分けて 涙の川の 流るれば こなたかなたの 岸とことなれ 和泉式部

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