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August 28, 2013

『棺一基』

Daidoji

『棺一基』大道寺将司全句集、辺見庸(序文・跋文)、太田出版

 今年の一行詩大賞に選ばれたそうですが、『棺一基』を知ったのは電気新聞の元読売新聞の編集委員だった新井光雄さんのコラム。

 新井さんは「一句一句が重いとしかいいようがない」、坂口弘の歌稿も含めて「ことの是非を超えているとだけは言い得るかもしれない」と書いていましたが、ぼくもそれ以上の言葉は思い浮かびません。

 引用して終わります。

死者たちに 如何にして詫ぶ 赤とんぼ

国ありて生くるにあらず散紅葉(ちりもみじ)

彼岸花 別して黙す ことひとつ

ゲバラ忌や小声で歌ふ革命歌

鬼ならぬ 身の鬼として 逝く秋か

死ぬるため 夜の独居に 羽蟻来む

方寸に 悔数多くあり 麦の秋


蟇鳴くや 罪の記憶を 新たにし

てんとむし 今日繋がるる いのちかな

今日が日を また越えにけり 法師蝉

寒の朝 まず確かむる 生死かな

刑場の 入口に立つ 松飾り

死囚ゆえ 思ふことあり 露の玉

棺一基(かんいっき) 四顧(しこ)茫々と 霞みけり

刑死者の 服を纏ひし 寒き春

虫の音や 杖に縋(すが)りて 母の来る

無駄足を 母に踏ませて 秋の雨

とんぼうや 獄舎にありて 人恋し

起き伏しに 骨の軋むや 油照

陰晴の あひを鞦韆(しゅうせん:ブランコ) 揺らぐかな

実存を 賭して手を 擦る冬の蝿

暗闇の 陰翳刻む 初蛍

時として 思ひの滾(たぎ)る 寒茜

しがらみを 捨つれば開く 蓮の花

うつそみの 置きどころなき 花吹雪

再びは 還り来ぬ日の 木の実かな

海鳥の 一声高く 海氷る

鈍(にび)色(いろ)の 空置き去りに 帰る雁

紫陽花の 哀しみ色の 尽くしけり

よるべなき ことのは紡ぐ ほととぎす

天日を 隠してゆける 黒揚羽

韃靼の 風をゆんでに 揚羽蝶

雲の峰 絶顛にして 崩れけり

星揺れて 銀杏落葉ぞ 急ぎける

月光の きはまりて影 紛れなし

再会の 笑み零るるや いぬふぐり

まなかいの 憂きこと消ゆる 四十雀

採血の 細き指先 冷たかり

露草の 瑠璃のかなたの いのちかな

枯れ木立 抜き身のままで たじろがず

ふと洩らす 吐息のはての 銀河かな

虫の音や 杖に縋(すが)りて 母の来る

無駄足を 母に踏ませて 秋の雨

とんぼうや 獄舎にありて 人恋し

起き伏しに 骨の軋むや 油照

風に立つそのコスモスに連帯す

いなびかりせんなき悔いのまた溢る

身を捨つる論理貧しく着膨れぬ

在日を生くる友あり雁来(きた)る

咳(しわぶ)くや慚愧(ざんき)に震(ふる)ふまくらがり

夏深し魂消(たまぎ)る声の残りけり

胸底は 海のとどろや あらえみし

はろばろと 夜寒の古里を 浅眠り

狼は 檻(おり)の中にて 飼はれけり

げぢげぢの 地を這(は)ひ回り 逆徒臥す

水底の屍(かばね)照らすや夏の月

戻られぬ地の片陰(かたかげ)に笹子(ささこ)鳴く

垂るる紐捩(ねじ)れ止まざる春一番

まなぶたに 危めし人や 稲光り

夏深し 魂消る声の 残りけり

縊られし 晩間匂ふ 桐の花

虫の音や 杖に縋りて 母の来る

小六月 童女の如き 母なりけり

その時の 来て母還る 木下闇

寂寞の 苔の獄舎に 仔猫かな

初雪や 濁世の底に 救ひあり

海市立つ 海に未生の 記憶あり

鬼を呑む 夕べ哀しき 曼珠沙華

セザンヌの暮色めきたる小春かな

アイヌ史に 涙を零す 弥生かな

かぎろいて 命の消ゆる またひとつ

春疾風 なほ白頭に 叛意あり

春雷に 死者たちの声 重なれり

まなうらに 死者の陰画や 秋の暮

寝ねかねて 自照はてなし 梅雨じめり

ちぎられし 人かげろふの かなたより

新涼の 闇に倒れし 人の貌

花冷えや 罪業てふ 身の火照

まなぶたに 危めし人や 稲光り

秋の蝶 病気見舞いに来る 窓辺

蚊とんぼや 囚われの身に 影は濃き

二の腕も こむらも痩せし ちちろ虫

虚空をば 蝉の足掻くは 一途なり

群れ飛びて 独りと思ふ 蜻蛉かな

たましひの 転生ならむ 雪蛍

わが床の 熱を慕ひし かまどむし

暗闇の 陰翳刻む 初蛍

水底の 屍照らすや 夏の月

人去りし 野霧を牛の 疾駆せり

日盛りの 地に突き刺さる 放射線

若きらの 踏み出すさきの 枯野かな

死は罪の 償ひなるや 金亀子

ゆく秋の 死者に請はれぬ 許しかな

夢でまた 人危めけり 霹靂神

笹鳴や 未明に開く 懺悔録

ででむしや まなうら過る 死者の影

独房の 点景とせむ 柿一個

遠くまで 沈丁の香を 追い掛けし

囚らの 声華やげる 弥生かな

紅(くれなゐ)の いとも愛(かな)しき 枯木の芽

草萌(くさもえ)や 死の告知めく 病舎入り

原発に 追はるる民や 木下闇(こしたやみ)

生者より 死者に親しき ゐのこづち

花影や 死は工(たく)まれて 訪るる

(日の丸・君が代法制化の報に接して)

君が代を 齧り尽くせよ 夜盗虫

蟻地獄 後戻りする 戦前に

愛国を 強ふる教への 寒さかな

すめらぎを 言寿ぐぼうふら ばかりなり

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