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May 01, 2013

『脳の情報を読み解く』

Bmi_2

『脳の情報を読み解く BMIが開く未来』川上光男、朝日選書

 「ATR(国際電気通信基礎技術研究所)が睡眠中に見ている夢の内容を解読する技術を開発」というのがScienceに載ったのは4月でした。

 その後、日曜日の日経の読書欄「半歩遅れの読書術」で池谷裕二先生が紹介していたのが本書。

 同じATRに所属する川上光男先生が、3年前ながら脳科学の現在をさっと紹介してくれています。

 このままでは2030年には労働人口の1/3が介護に関わるそうで、最初は外国人労働者に頼らざるを得ないかもしれませんが、やがてロボットが取って代わり、その研究・開発が日本で行われれば、新しい輸出産業になるかもれませんし(p.19)、通信ネットの速度が高速化すれば、遠隔地に分身ロボットを置いて動かすことも可能になりそうです(p.20-)。脳の深部を電気刺激する方法は最初に日本で臨床研究されたそうですが、それを規格化してFDA(米食品医薬局)の承認をとったの米国の会社だそうで、人工内耳も含めて、こうしたことが二度と起こらないようにする、というのがATRの研究者の合い言葉だそうです。ちなみに人工内耳は入力型ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)という説明も納得的。

 ARTが開発してきたBMIの基盤となる技術は1)脳の活動を測定し、心の中を「予測」する研究2)厖大なデータから本当に肝心なものを選んでくる数理的、統計的な技術3)「逆問題」―だそうです。

 この1)に関わるのがScienceに載った神谷教授たちの研究で、「脳活動から、被験者が見ている視覚刺激をデコーディングするもの、と要約されます。

2)に関しては、今や「念じるだけ」でASIMOを動かすなどの正答率が90%を超えているそうです。また、「念写」も可能になってきているとのこと。

 3)は、例えば、与えられた地震波から地殻破壊を決めることに似ているそうで、これは「このぐらいの大きさの岩盤が割れると仮定すると、こういう地震波が観測されるはず」という順モデルに基づいて解く、と。脳に電極を直接刺すのではなく、外に付けたセンサーで測定される脳磁波から測定するわけですから、なにせ大変。測定装置MEGはわずか数十から数百のセンサーの信号値で、頭蓋骨の内側で行われている脳内の1000億の神経細胞の活動を測定するわけですから。それを前頭葉はこんな活動、運動野はこんな活動をすると位置関係に置き換えてからデコーディングすると、読み取る精度が良くなる、と。

 こうした技術を組み合わせて、完全埋め込み型のBMIを実用化する、ということにATRは取組んでいるそうで、もし、実験にボランティアが必要なら、多少、古めかしいかもしれませんが、脳内に喜んでチップを入れてもらいたいかな、と(p.139-)。

 BMIを使って脳活動の制御が可能になれば、例えば、痛みなんかも制御できるそうです(p.168)。もっとも、脳は可塑的なものですが、BMIが埋め込まれて、そうした制御が行われ始めた段階から、変わってしまい、本当の自分はどこ、みたいなことになるかもしれませんし、実際にそうした訴えをする患者さんもいるそうです。

 これまでの研究は仮説主導でしたが、BMIやその基礎技術によって《脳活動や行動のダイナミクスを予測し、脳内情報表現を実験的に操作して、因果律まで含めて理論やモデルを証明する方向性》が出てきている、というのも凄い話しだな、と思います。

 池谷先生は「脳科学は人々にワクワクするような未来像を抱かせる起爆剤」と半歩遅れの読書術で書いていましたが、センスオブワンダーを感じさせてくれます。

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