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May 07, 2013

『戦争の条件』

War_fujiwara

『戦争の条件』藤原帰一、集英社新書

 「結び」に著者のイラ立ちが素直に語られています(p.185-)。

 《教育問題と並んで国際問題は素人の発言が専門家と横並びにされる。予備知識がなくても誰でも発言ができ、知識と経験に根ざした分析と知識も経験もない妄言の区別がつかない。さらに教育問題であれば自分が子どもの頃の思い出とか子育ての実際など何らかの経験をもとにして発言されるのに、国際問題の場合は経験さえ関係がない。言いたいことを言えばよく、言ったことは言いっ放しになるわけだ》

 さらに現実と分析が倒錯しているようなインターネットのブログやツイッターなどは《喧しい騒擾のなかで落ち着いた分析がかき消されてしまう》と。そこでは自分の意見に根拠を与えるような「現実」が選びとられるだけだ、と。

 こうした状況に、著者もいささか辟易としているようですが、テレビなどの仕事でわかったことがある、と。それは素人と議論させられる時におどろくのが、国際関係はスッキリとした意見や議論で理解できるはずだと確信していること。例えば戦争は招く痛ましい犠牲を招くが、逆に戦争を否定すると残虐な暴力が世界に残されてしまうなどの残酷なパラドックスにそのまま向き合えない、と。

 暴力が国際政治の現実である中、暴力に頼ることなく戦争を回避するのは難しいが、戦争を避けるための常に複数の選択肢が潜んでいることも見逃してはならない、と。

 ということで、古風な2国間の軍事介入から始まり、民族自決が拡散している現在までの状況について、Q&A方式で解説したのが本書。あえて「答えの出ない問いを通して国際関係について考えるという方法」をとったといいます。

 民主的な国同志だからといって戦争に至らないとは限らないし、国内世論は驚くほど戦争を受入れてしまうこともあるし、覇権国家の交代期に戦争が起きるかどうかもわらない、というなかなか結論の出ない議論がなされます。

 また、中国の海洋進出は統治の正統性が共産主義からナショナリズムに移行しつつあることと並行関係にありますが、《明代に行われていた交易の多くは国家の管轄から離れた私貿易》であり、《「中国」自体が本来は王朝と結びついた概念であって、それを国民国家に読み替える作業は十九世紀の終わりに生まれたものに過ぎない》という指摘はなるほどな、と(p.117-)。

 ちなみに尖閣、竹島の問題については、日本の領有権は日本が西欧的な法的な整備を先駆けて行ったことが根拠であるというのが大前提。紛争を避ける国際法上の遵守が必要との理由で領有権の主張もなされるべきで、固有の領土という概念で争うべきではない、と。それは国民国家の論理が国際法よりも優越的に受け入れられることだからというのも納得的でした(p.119)。

 また、日本に対する韓国の感情など戦争の記憶をめぐる対立は、時間がたっても沈静化しない、という指摘はやっかいなことだな、と(p.125)。例えばトルコなども1915~6年におこった100万人ともあわれるアルメニア人虐殺を認めていないなど、いろんなことを抱えていますしね。

 地続きのヨーロッパと比べて、大陸とは海で隔てられている日本にはイレデンティズム(irrendentism)の問題などがないのはせめてもの救いでしょうか(p.111)。

 マルコス政権崩壊後にフィリピン経済が疲弊したのは、対外債務を否認すべきという議論が政府の中で行われていたため、というのは知らなかったな(p.75)。

 改めてユーコスラビア解体の過程も述べられていますが、クロアチア人を父に、スロベニア人を母に持つチトーが死去したとたん、ミロシェビッチがセルビア人優遇策をとりはじめるわけで、民族問題というのは根が深く、少数派は暴力に訴えることしかできないという構図の問題点はいまも解決されていません。

 非暴力を国際関係に投影することができない以上、第二次大戦前のナチス・ドイツや日本のようや好戦国家が出てきたら、それを戦争によって排除するという選択肢しか残されいないのかもしれません(p.181)。

 最後のブックガイドで紹介されているナイ『国際紛争』有斐閣なんかは読んでみようかな、と。

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