« CF-AX2を導入 | Main | 『デジタルネイティブの時代』 »

April 05, 2013

『新宿末廣亭うら、喫茶「楽屋」』

Surhiroteigakuya

『新宿末廣亭うら、喫茶「楽屋」』石井徹也(著)、石川光子(述) 、アスペクト

 新宿末廣亭は何回も側を通っていますが、まだ入ったことがありません。濃厚すぎる下町の雰囲気というか(新宿は下町ではありませんが)、寄席の雰囲気に、ちょっと苦手意識があって…。

 ですから、末廣亭の裏に「楽屋」という喫茶店があるというのも知りませんでした。

 その「楽屋」の女将が末廣亭の初代席亭である北村銀太郎さんの長女、光子さん。というか、この本によって、その偉大さといいますか大物っぷりを初めて知った五代目柳亭左楽師匠のお孫さん。

 お孫さんとはいっても、もう創業54年というのですから《朝鮮戦争で景気がよくなるくらいまではお客が全然入らなかった》とか、新宿の闇市を牛耳ってた《小津組と付き合いがあったおかげで、興業物に付きものの所場代とかの要求がなかった》なんていう時空を超えた話しがポンポン出てきます(p.28)。

 《百円の入場料のうち二十円は入場税で、お客さんから末廣亭が預かっている。それをためておいて、税務署に持って行くと来月の切符が来る、というシステム》なんていう話しも興味深い。もちろん、《テケツで切符を売っても、モギリで半券切らないで回収してテケツに戻すっていう「回し」なんていう》テクニックも庶民の側としては駆使するわけですが(p.31)。

北村銀太郎さんは、天下の名妓、まり千代さんにも可愛がられたようで、絶対にマスコミに出なかった「まり千代」さんが、たまたま「楽屋」に遊びに来ていて、当時の円鏡さんのラジオに生出演してしまった(p.46-)なんていうエピソードも素晴らしい。

 個人的に興味があったのは、やはり立川談志師匠の話し。家元の麻雀はエレベータばっかりで「あんな小ぎたない麻雀をする人はいなかった」なんていうのを柳家さん吉師匠が語っています(p.81-)。もちろん、今でも一番好きな噺家なんですが、談志師匠に関しては反社会性パーソナリティ障害じゃなかったのか、なんて最近思っているんですけど、ますますそんな気がw

 黒門町を贔屓にしていた樋ィ様については「つるつる」「愛宕山」のモデルだったというのは知っていましたが、やっぱり「そんじょそこらのご贔屓じゃなかった」と語られているのはさすが。黒門町に関しては、三平師匠との二人会では「あたしは前座」と言っていたなんていうぐらい買っていたといいます(p.108)。落語協会でも会長の黒門町が「三平みたいな化け物が出ればいい」とか言うと、それに円生師匠がぶるぶる震えながら「古典をやらなけりゃ認められない」なんて反論していた、なんていう談志師匠の本で読んだエピソードを思い出します。

 どうしても、こうした本を読むと贔屓の芸人さんに関しては良いエピソードを、そうじゃない師匠には、それなりのが印象に残ってしまうんですが、円生師匠に関しては、北村さんが三遊協会の脱会騒動の時、義理の父である左楽師匠が睦会をつくる時には、当時のカネで数千万円をつくってやったんだ、なんて諭したらのけぞったなんていうのが一番、思い出されます(p.230)。

 談志師匠のエピソードでは、小ゑん時代に若手落語会を一緒にやっていたけど、しくじりをして廃業した五十嵐さんという末廣亭の表方を大事にしていた、というのが素晴らしかった。この「いがちゃん」は志ん朝師匠が『越後屋』を教わりたかったというぐらいの人。談志師匠が夜主任で上がった時、《マクラを振ってから、突然、楽屋へ向かって大きな声で「おい、五十嵐を呼んでこい。『二階ぞめき』演るから聞きに来いって言え」と叫んだのがものすごく印象に残っています。「談志師匠が噺を聞かせたい、と言うくらいの表方さんなんだ」ってのは驚きですもん》とのこと(p.132)。出入り自由な談志師匠の高座が眼に浮かぶようです。

 女性2人が掛け合いで三味線を弾き、歌を唄い、面白い話しを聞かせるのが「女道楽」で、音曲漫才は「吹き寄せ」って言うんだそうで、そもそも、そうした違いがあるのは知りませんでした(p.156)。

 先代の馬生師匠が、食道癌で最後は生卵しか飲めなくなっていたというのは可哀想でしたね…もっとも、そうなっても「楽屋」では冷や酒を飲んでいたそうですが(p163-)。

にしても、五代目柳亭左楽師匠というのが芸協、落語協会の元となった睦会の元締めで、無冠の帝王だったというのは初めて知りました。睦会を解散した時に、「文楽、柳橋がひとつ協会にいると、そこに客を取られるから、落語協会、芸術協会、二つに分けよう。それであたしは引きますから」というので黒門町と柳橋を分けたというあたりも凄い話し(p.81-)。

 その左楽師匠では《「寝床で、ものをねだるのは女郎だ」っておばあさんを叱って、井戸の水を浴びせた》っていう話しも素晴らしい。今なら、ねだられて買えなかったら「甲斐性なし」って男が寝床からおん出されそうですがw(p.206)。

|

« CF-AX2を導入 | Main | 『デジタルネイティブの時代』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/57110695

Listed below are links to weblogs that reference 『新宿末廣亭うら、喫茶「楽屋」』:

« CF-AX2を導入 | Main | 『デジタルネイティブの時代』 »