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February 07, 2013

『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』

Nakadai

『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』春日太一、PHP新書

 個人的には過小評価しすぎていたんだろうな、と感じた次第。

 年末からWOWOWで黒澤映画のデジタルリマスター版をフル・ハイヴィジョンで放送していて、『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』などの演技がシャープだな…と改めて感心し、この本が出たというのでさっそく読んでみたんですが、熱中して午前中の通勤時間と、出先までの行き帰りで読んでしまいました。

 春日太一さんが「はじめに」で書いているんですが仲代達矢さんは《日本映画のありとあらゆる名匠・名優と、しかもほとんどが重要な役どころで撮影現場を共にしてきている》《つまり「仲代達矢」は役者であると共に、映画史の生き証人でもある》わけです。そして10回、15時間弱のインタビューをまとめたのが本書。少しでも映画に興味がある方なら、面白くないわけがありません。

 最初に語られるのは生い立ちですが、けっこう凄まじいんですよね。疎開先で空腹のあまり、とんでもないものまで口にしたり、疎開先から返ってきたら、お母さんが住み込み先の弁護士先生とできて弟が生まれていたり。さらには、《毎日のように空襲で逃げまくっていました。ある時、親戚の女の子と手をつないで逃げて、やっと逃げおおせたと思って、フッと見たらその子の腕だけ持っていたんです。-中略- 決闘の瞬間にそういうものが無意識の中に蘇ってくる》というあたりは鬼気迫るものがあります(p.104)。こうした体験が『椿三十郎』『切腹』などの息詰まるような緊張感を生んでいるんでしょうね。

 バイト先の大井競馬場で「顔がいいから」と薦められて俳優座の養成所に入った後も、喰えない日々を送っていましたが、やはり、目立ったんでしょうね。『七人の侍』のエキストラ出演から、徐々に映画監督の目にとまり始めます。しかし、一年の半分は映像作品に出るが、半分は芝居と決めているため、銭にならなくても芝居には出る、というスタンスを崩さなかったところが素晴らしい。

 仲代さんは、五社協定に縛られないフリーの役者として、黒澤明、小林正樹、市川崑、岡本喜八、成瀬巳喜男、五社英雄などの作品に出まくりますが、役柄が一定していないのは、こうした個性豊かな監督たちの要望に応えていったからなのかな、と。もし、専属俳優になったら一本当り役が出ると同じような役ばかり来るようなことになっていたとも語っています。

 とはいっても、若い頃は売れたいもの。チョイ役で出る芝居が先に入ったために、仲代さんが小林正樹監督の映画に出られないということを知って、後に黄門様になる大先輩の東野英次郎が俳優座の芝居に代演してくれた、というのはいい話しでした(p.41)。

 侍の歩き方が出来てないと半日も黒澤明にダメ出しくらったような、ある意味、贅沢な日々はもう映画界には期待できないんでしょうね。《とにかく役者は歩き方だ、とくに時代劇の歩き方はこういうもんだと徹底的にそこで意識しました》というんですが(p.62)。

 にしても、『影武者』のラストでは馬300頭をフラフラの状態にするため、北海道中の獣医100人が集められたけど、何頭も死んで、人も馬の下敷きになって何人も骨折して救急車10台っていうんですから…《あの一週間は今思い出しても身震いします》というのもわかります(p.222-)。

 大映京都撮影所がつぶれても、スタッフやいい技術だけは残しておこうということでつくられたプロダクション「京都映像」も2010年に解散。侍の歩き方、刀の抜き方、収め方も知らない俳優が多くなっていく中で、時代劇っていうのは、どうなっていくんですかね。

 観たくなったのは、小林正樹監督の『食卓のない家』、五社英雄監督の『人斬り』ですかね。『人斬り』なんて、三島由紀夫が死ぬ一年前に仲代さんと共演したんですが、他にも勝新、裕次郎などが共演していて、ある意味、すごいカルトムービー。撮影の合間に三島由紀夫と祇園で飲んでるとき、なんでそんなに肉体を鍛えているんだ、と訊いたら「俺は死ぬ時に切腹して死ぬんだ。その時にこの腹筋のところから脂身が出ると、俺の美学に反する」という答えが返ってきたそうです。

 仲代さんのぎらつく目は、様々なものを見てきたんだな、と。

はじめに 春日太一
序章 役者になるまで
第1章 俳優デビューと『人間の條件』
第2章 黒澤明との仕事ー『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』
第3章 京都の撮影所と時代劇ー『炎上』『鍵』『切腹』など
第4章 仏の喜八との日々ー『大菩薩峠』など
第5章 成瀬巳喜男、木下恵介と女優たち
第6章 前衛、左翼、俳優座
第7章 五社英雄と名優たちの情念ー『御用金』『人斬り』『鬼龍院花子の生涯』
第8章 黒澤明と勝新太郎ー『影武者』『乱』
第9章 小林正樹の挫折、映画界の黄昏ー『上意討ち』『怪談』、幻の『敦煌』
おわりに 仲代達矢

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