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January 05, 2013

『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』

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『投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識』ハワード・マークス、貫井佳子(訳)、日本経済新聞出版社

 年末は、これを読んでました。

 バリュー投資家として、オークツリー・キャピタルを率いてきたハワード・マークスの主張を三行でまとめるとしたら、ぼくなら、こうします

1)マクロ経済の動きは誰にも読めないから、投資はディフェンシブな姿勢が大切
2)個別の銘柄を研究する場合はPERなど、基本的な数字を大切に
3)最良の投資方法とは暴落時に買うことであり、最悪は高値で掴むこと

 ガルブレイスの言葉を引用した「金融に関する記憶が持続する時間は極端に短い」(p.147)なども、ITバブルとリーマンショックを生き残ってきた投資家ならではのものでしょう。

 先日、読んだ『人はお金だけでは動かない』でも、人間心理のバタフライ・エフェクトはとてつもないランダムを発生させることが書かれていました。《ダウ平均株価が正規分布に従っているとすれば、一日の取引の中で平均株価が九・二%以上上昇する日は、一〇〇三兆五六一三億九七八三万一五九〇年にたった一回しかめぐってこないことになる。現実では、一〇七年の間に九・二%以上の上昇が一〇回起きている》(『人はお金だけでは動かない』、p.156)そうです。逆に言えば、それだけ上がったということは、バブルが発生しやすく、市場は正規分布に従わないのだから、人は往々にして《実際のリスクをひどく過小評価することに》になる、と(ibid、p.156)。そして典型的な投資家は一貫して悪い時期に市場に参入したり市場から撤退してしまう、と(ibid、p.158)。

 こうしたことからハワード・マークスは、逆張りが有効だとしています。

 ここでも、他の本を思い出しました。それは中井久夫先生の『世に棲む患者』ちくま学芸文庫。中井先生のよると、株式で生活している統合失調症の患者さんは少なくなかったそうで、それは逆張りができるからだそうです。統合失調症の患者さんは慎重さと微分回路的認知に適しており、トレンド・フォロワーになりがちな一般人よりも有利だからだ、と。中井先生は《株の売買では躁うつ患者やいわゆる正常人の多くの方が、人に追随して損をするようだ》とも書いています(p.74-)。

 個人的なことを書かせてもらうと、ぼくも、ご多分にもれず、トレンドフォロワー的な傾向が強い一般人的な投資をしていましたが、まだ、続けられているのは、三分法を守っているのと、信用取引はしないという親の遺言を守っているのと、臆病なので勝負しないというディフェンシブな感じでやってきたからかもしれません。

 逆に周りで痛い目にあっている人たちを見ると、やはり上げ相場で強気に買って失敗している人が多かったと思います。筆者であるハワード・マークスは、高い価格は、それだけでリスクだ、と何回も忠告してくれます。これは《人は価格が上がっているものを買いたがらなくなるが、投資においてはしばしば価格が上がっているものを買いたがるようになる》傾向があるからかもしれません(p.59)。

 今となっては信じられないのですが、リーマンショックの前には、世界でも何人しか理解できないような理論で組み立てられた商品だからリスクはない、なんてことがマトモに信じられていましたから、人間というのは、騙されやすいんでしょうね。また、だから、いつまでたっても詐欺まがいの事件が起きるんでしょう。ハワード・マークスもリスクは、リスクがないという思い込みから生じる、と書いています(p.9)。

 さらに、ハワード・マークスは《この世界に入ってから幾度となく、私は人がいとも簡単に「自発的な不信の一時停止(ありえないはずの話を進んで受入れてしまうこと)を行う姿に驚かされてきた(中略)「自己欺瞞ほど安易な道はない。そうあってほしいと願うことが真実だと思い込めるのだから》とまで書いています(p.146)。

 長いものには巻かれろで、人はトレンドに降伏していまう傾向があるし(p.152)、さらにはポンジ・スキーム(Ponzi scheme 高配当の投資をうたって資金を集めるが、実際には新規の投資家の出資金を既存の投資家への配当に回すだけの詐欺行為)にひっかかったりする(p.170)。

 もちろんこの本で引用されているケインズが語っているように「市場は、あなたが支払い能力を保てる期間よりも長く、不合理な状態を続けることができる」ので、逆張りも必ずしも有効ではないかもしれませんが、それでも《本質的価値を下回る価格で買う方法は絶対に確実なわけではないが、それでも最も信頼性の高い選択肢である》といえるかもしれません(p.64)。

 《投資は華々しさを追求するために行うものではない》という言葉も印象に残りました(p.152)。

 だから、逆にギャップダウン(前日の安値よりも低い値で寄り付き、さらに下落)するような暴落が続く時こそが、チャンスなんだ、と。バブルで熱狂的に上がる人間心理の裏を考えれば、悲観的な時には、必要以上に悲観的になるから、と(p.173)。しかし、「割安」と「まもなく反転する」は同義語ではない、と(p.305)。

 もっとも、バブルが発生するのは心理的な要素だけではく、有り余った資金が投資先を奪い合うことも原因となっています(p.224)。《市場が熱狂に包まれると資金は革新的な投資商品へと集中するが、その多くは時の試練に耐えることができない》という言葉も資本コストが低下しているいまだからこそ覚えておこうかな、と(p.276)。野球と違ってストライクを何回見逃してもバッターアウトにならないんですから、ずっと好機を待っているという戦略でいいのかな、と。

 大儲けをした人間はたまたま運がよかっただけで、そうした人間が本を書いたら、眉唾だ、みたいな感じも実にわかります(p.235)。

 未来がわかるならディフェンシブな投資を行うことは愚かなことだが、将来のことが分からないのであれば、レバレッジを効かせすぎた投資を行うことは正気の沙汰ではない、と(p.215)。

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