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September 03, 2012

『浄瑠璃を読もう』と文楽への弾圧

Bunraku_1209

 橋本治さんの『浄瑠璃を読もう』は夏休み前に出たのをゆっくり読んだのですが、どうも愛憎相半ばして、なかなか感想を書きたくないと思っていたら、昨日の日経の書評欄で、思っていたことの多くをサクッと書かれてしまいました。

 ぼくも文楽をテレビぐらいでしか見たことがないんですが、まあ、歌舞伎の原作といいますか、歌舞伎が当たった文楽の脚本を勝手に演じてしまったものを見物していたので、まあ、いいか、と思っていたんですが、こんなにもオリジナルの「院本」はこみ入っているのかと驚いた次第です。

 そして、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』では脇役っぽい婚前交渉カップルの「お軽勘平」が、実は主人公といってもいいぐらいという指摘には改めてドキッとさせられたし、義経千本桜は義経=千本桜であり《『義経千本桜』とは、義経すなわち満開の桜》という発見も凄いと思います。

 水原紫苑さんの書評では、「寺子屋」が傑作かどうか議論の余地があるというところも大賛成。

 立川談志師匠が「魚屋宗五郎」について、大名の妾になった妹が不義の疑いでお手討ちになったら、屋敷に乗り込んで殿様をたたっ切らなけりゃおかしいだろ、とマクラで語っているのと同じで、なんで自分の子どもを手にかけさせたりするのか、みたいな。旧約聖書的といいますか、自分の子を大義のために殺すのが見せ場みたいなのは、ちょっと…と思うんですよ。

 で、水原さんの書評は後半の『本朝廿四孝』、『ひらかな盛衰記』、『国性爺合戦』、『冥途の飛脚』、『妹背山婦女庭訓』については書いていないので、今月の国立劇場で『冥途の飛脚』を実際に見物してから書いてみようと思います。

 にしても、公演では「竹本住大夫、鶴澤清治は病気療養のため休演いたします」とのこと…。

 橋下市長のイジメによる精神的な負担が堪えたんじゃないかと思うと、可哀想でなりません。

 以下は日経の書評。

『浄瑠璃を読もう』橋本治著、新潮社・2000円
自由に躍動する近世人の知 〈評〉歌人 水原紫苑

 橋本治ファンにとっては、待望の一冊である。近年、三島由紀夫や小林秀雄といった、いわば一般世間様向きのテーマでその過激な知性を発揮していた著者が、ホームグラウンドに帰って来た。そして、浄瑠璃という、今やほとんど読まれなくなったテキストに、現在にまで至る日本人の心を見いだしている。

 浄瑠璃は江戸時代の町人が作ったものだから、今とは作者の意識が明らかに違う。まず、幕府やその上に位置する天皇は動かせない。町人は支配層である武士になることはできない。これだけの条件をクリアしたところから、近世人の知が、驚くほど自由に躍動している。ということが本書で明らかになる。

 たとえば『仮名手本忠臣蔵』は武士の物語である敵討ちに、参加できないとわかっている町人が、それでも参加したい、とまるで現代のカップルのようなお軽勘平を登場させ、カッコいい永遠のヒーローである大星由良助とは、全く無関係に悲劇を演じさせてしまった。と言われれば、作者たちの大胆かつしたたかな、もうひとつの世界の構築力に舌を巻く。

 『義経千本桜』とは、義経すなわち満開の桜なのだ、という発見も凄(すご)い。むしろ主役は、知盛・維盛・教経という、死んだはずの平家の武将たちでそこに爛漫(らんまん)と咲いているのが義経なのである。しかもこれは「反戦ドラマ」であり、「専守防衛で交戦権を放棄する憲法九条を持つ日本人のメンタリティ」は既に出来上がっていたと著者は喝破する。

 『菅原伝授手習鑑』の分析ではわが子を身替わりにして菅丞相(しょうじょう)(道真)の若君を助ける、松王丸の真の悲劇が浮き彫りになる。絶対善の人、菅丞相に恩を受けながら、敵方の藤原時平に仕えている松王丸は、善の「全体主義」に与(くみ)しない個人として攻撃され、わが子を犠牲にせざるを得なくなる。

 この読みには敬服するが、その場面を描いた「寺子屋」が、著者の言うとおり名作であるかどうかには、なお議論の余地があろう。

 そして、動かせない体制という天井をいただいた江戸の知が、果たして最善であったかどうかも。

(はしもと・おさむ 48年生まれ。作家。著書に『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』『双調平家物語』など)

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