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August 28, 2012

『社会を変えるには』

Shakai_oguma

『社会を変えるには』小熊英二、講談社現代新書

 一応、期待して読んだのですが、少しガッカリ。

 一言で言えば、原発問題を突破口に全員が参加するような運動で社会を変えて行きましょう、と呼びかけている内容。

 目新しかったのは、「自分はないがしろにされている」という感覚を足場に、ウォール街占拠やジャスミン革命などの行動が起こっており《アメリカの場合には金融エリートが批判の対象になりますが、エジプトの場合はムバラク体制が対象になりました。日本の場合は、原発事故を通してみえてきたもの、つまり日本型工業化社会を支配してきた独占企業・行政・政治の複合体が対象になっていました》というあたりでしょうか(p.440)。

 なるほどな、とは思うわけですが、それでも、ご本人まで反原発のストーリーに乗ってしまうというのは、どうなんでしょうかね。

 戦後社会運動の絶対平和主義を批判しているのに、原発を日本が廃止しても、他の新興国では新規稼働が続くだろうということに、どうして想像がいかないんでしょうか。それこそ、倫理主義的に反原発を各国に説得できるわけないと思うんですがね。日本だけ平和でいいという絶対平和主義を批判しているのに…。

 後半で《東芝や日立が作った原発が事故を起こしたら、東芝や日立の製品が、ひいては日本製品全体が、その国や世界中で信頼を失うのは明白です》とまで書いているんですけど(p.422)、GE製の福島第一原発が事故を起こしても、米国製品の不買運動などは起こらなかったし、グローバルなサプライチェーンの中で、巨大プラントがどう出来ていくのか、ということを考えれば、こうした批判は、ちょっと世間知らず過ぎるんじゃ…とガッカリかな。

 チラ読みしている段階ですが、細野豪志さんが『原発危機500日』で主張しているように、技術を残すためにも再処理も含めてパッケージで原発を維持していかなければならないと思うし、それが世界の原発の安全水準を高めることだと思うんですが。

 『1968』のあとがきみたいな第二章「社会運動の変遷」の中で、日本の若者は『いちご白書をもう一度』のように髪を切れば就職できたが、欧米では髪を切っても就職できない不況に苦しんでいたというあたりはハッとさせられました(p.82)。オイルショックで欧米は物づくりで生きけないと判断し、やがて金融資本主義で復活するのですが、その間、若年者の失業問題で苦しんでいたけど、日本ではまだまだ第二次産業が雇用の受皿として残っていた、というわけです(それでも欧米は石油危機を乗り越えるために1930年代に作られた規制を撤廃したら、また金融恐慌に見舞われたのですが…p.332)。

 日経平均株価が一般紙の経済面以外に載りはじめたのは、1990年代末にっなてから、というのも「そうかな…」と思うし(p.233)。

 アメリカが自由平等を信じているのは、最初は皆んな裸一貫で移民してきた貧乏人の集まりだったからであり、小さなタウンシップでの直接民主主義がまずあって、そこから州が出来て、やがてUnited Statesになったというあたりは、なるほどな、と(p.319)。

 それでも第三章から五章までは佐々木毅先生の本の整理みたいな感じがして冗長でしたかね。

 『1968』を上梓した後、倒れて1年ぐらい療養生活をしていたというのは知りませんでした。秋には『平成史』を出すそうで、それは楽しみです。

第1章 日本社会はいまどこにいるのか
第2章 社会運動の変遷
第3章 戦後日本の社会運動
第4章 民主主義とは
第5章 近代自由民主主義とその限界
第6章 異なるあり方への思索
第7章 社会を変えるには

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