『政治学は何を考えてきたか』
『政治学は何を考えてきたか』佐々木毅、筑摩書房
冷戦後に突如現われた「政治が市場を管理しきれない状態」は、欧州の経済危機をみてもまだまだ続いていますが、それは20世紀型の民主政治が両大戦を経て、冷戦を勝ち抜いたものの、そこで新たに保守政治が民主主義を国家から切り離して、市場というイデオロギーによって現状批判を展開したあたりから始まったものかもしれません(はじめに)。
この本は政治分析と政治思想史研究の二部構成で、こうした流れを俯瞰したもの。読み応えありました。
全体を俯瞰してまとめるなんていうのは無理ですので、例によって、箇条書きみたいな感じで…。
[第1部 二〇世紀政治の見取り図 第一章 両大戦の意味と無意味について]
《金本位制崩壊までは十九世紀が継続していたとも考えられる》(p.11)
第一次大戦は総力戦を戦う準備もなくクリスマスまでには終わるだろうという思い込みから始まったが《第二次世界大戦はこの体験を踏まえ、経済政治体制を総力戦に向けて整備した上での戦争であった》(p.11)
十九世紀型戦争には政治的目的に伴う限定性が戦争にはビルトインされていて、《日清戦争、日露戦争の体験にしても、この例外ではない》(p.12)
総力戦のような《「無限定の目的のための戦争」は、「無意味な戦争」とほとんど区別が不可能であった》(p.15)
同時に、第二インターには戦争阻止能力があると考えられてきたのは、第二インターが十九世紀型体制のある種の砦であったからであり、二十世紀になると、ロシア革命のように国家の《全面的崩壊・破壊を前提にする》ものも現われた(p.16)
一方、優生学的に国民を良質に保つために、福祉国家が総力戦と表裏一体的に浮かび上がってくる(p.20)
《第二次世界大戦は破壊そのものを自ら進んで選択するリーダーの存在によって他のアクターが戦争に引き摺り込まれた》が、この経験を活かして人類が《戦争を政治生活において可能な限り周辺化》させたのが冷戦(p.22)
[第二章 二〇世紀型体制についての一試論]
《自由主義の強みは個人の自由な活動がいかにして利益の調和につながるかをそれなりに弁証したことろにあった。その最後の理論的定式化が社会進化論》(p.31)
しかし恐慌を淘汰のメカニズムとして考える見方は両大戦を経て決定的な打撃を受け、《生き残ったのは国民経済という概念を基礎にした福祉国家、社会奉仕国家》となった(p.38)
しかし、こうした「埋め込まれた自由主義」は80年代に「アメリカの覇権の動揺」とともに激変する(p.55)
アメリカ政府は市場との関連で権威を失ったが、他の国は市場だけでなくアメリカとの関係においても権威を失った(p.57)
[第三章 苦悶する民主政]
アメリカでさえ、民主政が「豊かな産業社会」に寄り掛かりながら、様々な団体への配分を続ける利益政治に専念することを不可能にし、国際的な問題が原因の課題についても責任だけはとらされるようになった(p.75)
ここから政治的平等の強調から、リーダーシップと権威の強化が論議されるようになってきた(p.76)
それは《参加の実質を確保しようすれば、参加人員とテーマはおのずから限られたものにしかならない》から(p.78)
その中で、日本特殊論がささやかれ始め、それは冷戦終結後、具体的な要求になってあらわれてきた。そして日本の政治も業界、地元などの断片化された部分がその時々の外圧によって譲歩させられるという段階から、システム全体が「苦悶」する段階に入った(p.93)
[第四章 これからの政治の構図―「新しい政治」のパラダイムは存在するのか]
市場経済は民主政とは無縁な形で成立した権威主義の産物であり、民主政にかかる負担は過大(p.98)
多国籍企業は国民経済の現実的基盤を奪い、労働運動からも昔日の面影も奪った(p.109)
こうした中でナショナリズムが、その攻撃的側面を見せ始める(p.115)
民族・人種は政治の荒々しい情念がなお動員される数少ない媒介項だから(p.117)
《近年の注目すべき見解によれば「民主的政治体制は互いに戦争することない」》(p.125)から、中東でもアジアでも、こうした方向性が求められる。
[日本における二〇世紀型体制の解体]
日本の政治行政が、国際競争力の生み出した膨大なストックを有効に活用する構想力と権力構造をなぜ欠いていたのかという疑問は、日本の政策的・精神的限界に関わる問いかけ(p.134)
こうした中で内需主導型経済への転換は進まず、規制緩和も進まず、財政が収支均衡志向に支配される中で、政治的利害の絡む度合いの最も少ない金融政策に負担がますますかかっていった(p.135)
やがてバブルは崩壊し、奉加帳方式も不可能となった中で住専問題が起き、母体行は債権額以上の負担を拒否し、多くを預けていた農林系金融機関が農林族を巻き込んで乱戦となった(p.147-)。
橋本内閣は、他の先進国の財政状態好転に焦り、消費税率アップや医療費の自己負担アップなどを決めたが、国民の総負担額が九兆円になったという、その総額に気づいたのは、予算案確定後だった(p.150)
三洋証券の破綻はコール市場に支払い不能問題を発生させ、そのターゲットになったのが大手二十行の中で最下位の拓銀だった。これによって、大蔵省の大手二十行は潰さないという方針が破綻した(p.153)
かろうじて底が抜けることを回避できたのは、日本が膨大な金融資産を持っていたからで、他のアジア諸国は海外資金の急速な流出でIMF体制に組み込まれた。しかし、こうしたソフトランディングによって問題解決に時間がかかった(p.158)
金融システム危機が全産業システムへと波及する姿はさながら復讐戦のように見えた(p.161)
日本の政治にとって大切なことは《ナショナリズムや倫理主義的渇望を巧みに管理すること》(p.164)
[第2部 自由主義をめぐって]は、ぜひお読みになってください。
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