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June 09, 2012

『学ぶとはどういうことか』

Manabu_sasaki

『学ぶとはどういうことか』佐々木毅、講談社

 相変わらず、佐々木先生の御著書を読ませてもらっています。今回は前半が福沢諭吉の『学問のすゝめ』と『文明論之概略』を改めて読み直すことによって、学ぶということにはその範囲も含めて歴史的な制約が常につきまとっているものであり、東日本大震災を経験したいま、疑いをもって学ぶことの範囲を拡大していかなければならない、みたいな流れでしょうか。

 東日本大震災では、想定外という言葉が多く使われ、それが専門家の無能の証しのように語られたこともありましたが、想定範囲を設定しなければ、問題解決などできないわけで、現実を丸山真男さん的に「可能性の束」としてとらえる姿勢が大切だ、と。

 こう短くまとめてしまうと、まったく面白くないのですが、いつもの通り、深い引用と、展開力によって、素晴らしい本に仕上がっています。

 ということで、勉強になったところを箇条書き風にまとめてみます。

 04年の中越沖地震で直下型地震に襲われた柏崎刈羽原発は、本体に全く問題が出ず、海外では高い安全性が注目されたそうですが、今回は、そうした高い安全基準でもかなわなかった、と。吉村昭の『三陸海外』によると、この年は稀に見る豊漁だったが、古老の中には安政3年(1856年)の時もそうだったと警告していたそうです(p.11-)。

 佐々木先生は戦後の高度経済成長の時代は、たまたま日本列島の地震活動が静かな時期と一致していたというのを、内閣府の勉強会などで地震専門家が口にしていたことを聴いていたそうです。それが1995年の阪神・淡路大震災から活発期に入ってきた、と(p.22)。

 想定を踏まえた上で、可能な限り、自らの運命を切り開いていくというのは人間精神の現われ、みたいな言い方は、吉本隆明さんが、エンゲルスあたりの論理から借りてきて、自然の人間化を止めるのは人間を猿(自然)に戻すことと同じだ、みたいな言い方をソフトにしたものかな、と(p.27)。

 ただし、想定なしに生きることはできないのにしても、想定しかないと思い込むのとは別だ、と(p.29)。

 『学問のすゝめ』で「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」はよく引用されるけど、すぐ次の段落の「ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり」はあまり引用されていない、と(p.38)。

 『文明論之概略』の「平時は物を売買して互に利を争ひ、 事あれば武器を以て相殺すなり」という言葉は資本主義社会のダイナミズムを表した言葉であり、人類史上の大転換期にあたって、必死に学んでいったんだな、と(p.60。産業革命以前は、ハンニバルとナポレオンのアルプス越えの困難さにさほど大きな違いがないような飛躍のない時代が続いていた、と)。

 産業革命は人間が作りかえられる自然の範囲を極端に拡大しただけでなく、社会を含めた現実をも作りかえることができるものとして認識されていった、と(p.105)。

 人間は新たなことを「学ぶ」よりも、自分の理解できないことは「ないことにする」という安定性に固執し、そこに止まろうとすることが多い、と。だから、「学ぶ」ことには主体性が求められる、と(p.135-)。

 日本が失われた○年から脱出するためには、まず「疑い」「超える」といった形で「学ぶ」ことの範囲を広げていくしかない、と(p.177)。

 ということですが、佐々木先生はあまり、あとがきを書かない方で、スパッと本文の中で言いたいことはいい、紙幅がうんぬんということも言う必要がないので、あとがきなど書かなかったのかな、と思ったら、エッセイ風の本書で書いてるのには驚きました。

 以下のところは特に印象に残ったので、拳々服膺いたします。

《また、長く生きる人間が増えてきたことは、「学ぶ」ことの時間とチャンスが増えてきたことを意味する。一つのことしかできなかった人生からいろいろなことができる人生へと、明らかに社会は変わりつつある。また、社会的にもその必要性はますます高まっている。私はよく講演などで「二度、三度生きよう」と呼びかけているが、それは「学び続ける」ということと一体の関係にある。これを活用し、自らのため、世のため社会のため、新しいチャレンジをしないのは許されない話であるし。もったいない話である。》


 この向陽性は大切でしょ。

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