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June 01, 2012

 『高校野球「裏」ビジネス』

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 『高校野球「裏」ビジネス』ちくま新書、軍司貞則

 この本で追求されるのは、ボーイズリーグの「スーパー」な選手を野球強豪高校が集めるノウハウと、鶴岡一人がつくったボーイズリーグに、まるで投資のように子どもを預ける親や、それにつけ込もうとする元プロ野球選手たちの姿です。まあ、でも、高校野球に純粋なものを求めて見ている人たちもすくなくなっているでしょうし、これだけプロ野球や社会人、大学、高校と野球が盛んならば、そこでは様々なビジネスが生まれているだろうという予想はつきます。

 でも、「ボールの仕組み」と呼ばれる、換金システムは、なるほどな、と思いました。

 野球をするのにはボールが必要で、しかも硬式球は1000円ぐらいするので、まともに用意していたら、おカネはいくらあっても足りません。そこで、考え出されたのが、選手を送ったチームからもらうこと。もちろん、中古のボールも多いんですが、中にはニューボールが贈られる場合もあって、それは、パチンコの景品のように、換金される場合が多いようです。

 まあ、子どもたちを預かって、野球の技術を教えるだけでなく、社会に出てからも役立つような作法も教えてくれるんですから、ボーイズリーグなどの監督には、親からもらう月謝の他に、それぐらいの余禄があるのは当たり前だと思います。ボールだけでなく、バット、グラウンドの貸し借りなどもあるようで、余人にはうかがい知ることのできない、濃厚で独特なシステムができあがっているようです。

 まあ、それはそれとして、こうした本題とは別に猛烈に感動した話しがありました。

 野球部を通じた高校再生で知られる水城高校校長である山野隆夫さんの定時制教員時代の話し。

 山野さんは、水戸南高校のダメ野球部の監督を前任者から土下座されて嫌々引き受けたんだけど、部員は体がひょろひょろで、ろくにキャッチボールもできない有様。でも、練習にはくる。硬式は危ないから軟式にしようと説得したら、部員たちが硬式にこだわる理由を初めて知った、と。

 近くの児童養護施設出身者が多かった彼等の夢は、甲子園の予選大会なら新聞に名前が出るから、もしかしたら、親たちに会えるかもしれない、というものでした。

 以下、長く引用します。


 彼らは朝5時か6時に起きて仕事をし、昼間働いて、夜学校へ来る。彼らの職場は印刷所だったり工場だったり、立ち仕事で身体を酷使する場所だった。疲れた体でやって来て、夕方から授業を受ける。その後、また夜の9時から11時まで野球の練習をして帰る。家にたどり着くとメシも食べられないほど疲れて倒れ込んでしまうという。そんな毎日を、彼らは辛いとも苦しいとも言わず、送っている。

 そして唯一の夢は1年に1回、夏の高校野球県予選の選手紹介なのだ。新聞に自分の名前が載るので、もしかしたら、父親か母親が会いに来てくれるかもしれないと、待ち続けているのだ。そんなことも知らず、陽の当たる甲子園レベルの野球だけしか考えていなかった自分が恥ずかしくなった。

 山野はさっそく行動を開始した。母校の水戸一高はじめ知り合いをまわってボールを集めた。まともなユニフォームもないので寄付を集め、背番号は墨で書いた。

 さらに゛朝練゛もした。昼間の明るさの中で練習をさせてやりたかった。教室の板の間で寝て、午前3時45分起床、午前4時練習開始。そこから仕事に行くまでが練習時間だった。(中略)

 その夏、水戸南は1回戦、0―38で姿を消した。5回コールドだった。しかし、山野は敗戦をひとつも恥ずかしく思わなかった。むしろ誇らしかった。子供たちが全力でプレーしたことにである。

 この年の「毎日グラフ」に高校野球の特集として、日本全国の数千校の高校から3校を選んで特集した。「原辰徳を擁して人気と実力を誇った東海大相模(神奈川)「日本一東大に進学する灘高校(兵庫)」、そして3校目は、水戸南高校であった。

 なぜ、水戸南が取り上げられたのかといいますと、当時、朝日新聞の水戸支局に松山商業で全国制覇を果たした時のエースだった井上明さんがいたからなんです。

 山野さんは、毎日、練習をじっと見ている男性の姿に気づくんですが、それが第51回夏の甲子園大会で三沢の太田幸司と延長18回を投げ合い、引き分け再試合の末、全国制覇をなしとげた名投手だったんです。

 何かを感じて見ていたんでしょうが、山野さんはへたな選手たちがなんで硬式をやっているのかを話したそうで、それが巡りめぐって毎日グラフにつながったんでしょうね。

 「ああ、やっぱり見てる人は見ているんだなあ、とつくづく思いましたね。こういうところに高校野球の神髄があるんだと。教えられましたねえ」

 という山野さんの言葉は「泥中の蓮華」のように感じました。

 こんど、山野さんが校長をつとめる水城高校が甲子園に出たら、応援しようと思いました。

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